【飯田 一史】フランス「古本市場の急拡大」で出版社に大打撃…「海賊版」の大幅な普及も問題に
フランスの出版関係3団体共同調査で、新品の本、古本、海賊版の購買・読書に関する横断的なコンテンツ利用の結果が発表された("Barometre 2026")。これによって新刊のみについて訊いていたときには十分に見えていなかった中古本や違法コンテンツ利用の意外な実態やその理由について見えてきた。
古本を買う人の半分は最初から「古本待ち」
フランスで新刊書を購入する人のうち、68%が古本も買っている。本を読む人のうち、過去12か月間に古本を購入した人は全体の39%。これは2015年からの10年間で13ポイント増加。
なんと古本購入者の34%が「当初は新刊で買う予定だったが、古本があったのでそちらを選んだ」と回答。同様に、古本購入者のうち、古本で買えるまで「常に待つ」13%+「たいてい待つ」36%=49%の人が「最初から古本待ち」である。
ただ、「買う予定はなかったが、古本であったから買った」、ようするに衝動買いした人も「常に」10%+「たいてい」29%で約4割いる。偶然の出会いも当然あるし、求められてもいる。
古本を選ぶ最大の理由は「経済的な理由(価格の安さ)」で76%。それはそうだろうという感じだが、「エコロジー(環境配慮)」が44%で「絶版や希少本を手に入れるため」の34%よりも多い。新刊を作ると伐採に始まりCO2排出量が古本よりも格段に多いわけだが、その点を気にして古本を選ぶ人がこんなにいるとはおどろきだ。
主な購入場所第1位は「蚤の市、ガレージセール、古本屋」などの実空間で65%。2位が「個人間売買サイト」で59%(メルカリのようなサービス)、3位に「中古専門サイト」56%、4位に「インターネット総合サイト(Amazonなど)」51%。各種オンラインサービスは強いが、しかしトップはリアルなのが興味深い。
今後の購入意向については、新刊の購入は「増える」が12%、「減る」が31%。対して古本は「増える」25%で「減る」の18%を上回っている。なお、この調査ではフランス人の15〜80歳の紙の本の読書率(本を読む人の割合)は2024年が70%、2026年が75%であり、本を読まなくなっているわけではない。物価高騰もあって「古本で買う」という意向が強くなっているようだ。
急成長する古本市場も苦慮する出版社
実際、フランスの古本市場は2012年から2022年の間に購入者が43%増加し、いまでは書籍販売全体の約20%(年間約8000万冊、金額にして3.5億〜4億ユーロ)を占める規模に急成長している("Le marche du livre d'occasion : etat des lieux et enjeux - Librinova"https://www.librinova.com/blog/le-marche-du-livre-doccasion-etat-des-lieux-et-enjeux/)。
古本がいくら売れようが、当然ながら著者や出版社に印税が支払われない。2017年に調査会社のGfKは、これによってフランスでは年間8億〜10億ユーロの機会損失が生じていると推計している(新刊を売る側の人間に立ちすぎた推計だとは思うが……)。
とくにフランスで問題視されているのは、Amazonなどのプラットフォームには新刊が発売されてすぐに古本として出回ることだ。
年々その傾向はエスカレートしており、「新刊と古本はトレードオフの関係にある」「新刊の売上を古本が奪っている」(がその尖兵である)という声が出版業界内で強まっている。2024年頃からはあらたに「古本税」という税金を導入すべきだとする議論が浮上し、政界も動いていた。古本の取引ごとに3%程度の税を事業者に課し、これを著者の支援基金にあてるという構想だ。
おそらくこういう流れもあって今回の「新刊・古本・海賊版を問わない」利用・購買調査を実施したのだろう。結果としては「古本税、導入すべし」派の追い風となるような結果だったと言える(なお、まだ法制化するかどうかは決着していない)。
フランス人の2割が違法コンテンツを利用
次に海賊版の調査だ。
なんと、フランス人の21%が過去12か月間に何らかの違法の配信コンテンツを利用したと回答している。これは実に約1080万人に相当する。もっとも、半数近い48%の人は利用頻度について「年に1回未満」と答えている。ただ週に1回以上という常習犯、利用が常態化している人たちが15%もいる。違法利用する人の割合が全体の21%×違法利用者のうち週1回以上が15%だから、全体の3%強の人が日常的に海賊版を使っていることになる。
これを多いと思うか少ないと思うかは人によるだろうが、私の印象では「けっこう多いな」と感じる。
書籍(電子書籍)の海賊版ユーザーは全体の約6%だが、電子書籍読者の17%、オーディオブックリスナーの13%が海賊版を利用していると回答。
海賊版を使う理由は「無料だから」53%、「正規版が高すぎる」25%、「買わなかった本を入手するため」27%、「興味本位、お試し感覚」各21%、「正規版で入手不可だった」17%。
フランスで海賊版を取り締まっているメディア規制機関Arcomによる別の調査でも、コミックやアニメの海賊版ユーザーが主に挙げるのは経済的な理由だとされている。コミックについては「早く読めるから」「合法サイトとの判別が難しい」といったことも言われている。
ただ、「海賊版ユーザーはコンテンツにお金を払わない」わけではない。実際には正規のサービスも使っている。たとえば映像コンテンツの違法利用者の88%は、Netflixその他の正規のサブスクリプションサービスにも加入している。週1回以上も海賊版を使うような人たちは平均的なコンテンツ消費者と比べてもコンテンツ摂取に積極的な層なわけであって、求めるものの多さと自分が払える金額が不釣り合いということなのだろう。
なお、海賊版利用のジャンルによって性別や年齢に傾向がある点にも注目したい。
ゲームやスポーツ中継、ソフトウェアなどの分野では、男性かつ若年層に偏る傾向が強い。映像コンテンツの違法利用者の平均年齢は35歳で、一般的なインターネットユーザー(平均49歳)よりも若い。ただし電子書籍やオーディオブックの海賊版利用は例外的に女性の割合が高く、年齢層も他の違法コンテンツ利用者より高い。これはもともと女性のほうが読書率・量が男性よりも多いことを思えばふしぎではない。逆に言うと「女性だからといって違法コンテンツを使わない」わけでもない。
しかも電子書籍・オーディオブックの違法利用が増加傾向にある。この話は日本にとっても他人事ではない。
身近な人から違法コンテンツを入手している人が3割
Arcomの報告によるとスポーツ中継や映像コンテンツを含むフランスの海賊版消費は全体としては2021年から34%も減少しているのだが、一方でマンガ・アニメは他ジャンルと比べて海賊版利用率が突出して高く、拡大・深刻化していると見られている。
2026年4月には日本のCODA(コンテンツ海外流通促進機構)とArcom、フランスのマンガ・Webtoon関連団体(AMW)が海賊版対策における協力の合意書を締結し、国境を越えた違法サイトの排除ネットワークが強化されることになった。
海賊版サイトをブロッキングするなどの措置がすでに取られており、ぜひ対策してほしいのだが、気になるのはどこから違法コンテンツを入手しているのかに対して、なんと3割が「知人・友人・家族から」と答えていることだ。
身近な人同士で違法ダウンロードやコピーしたものを直接やりとりするのが横行していることに関しては、ブロッキング等では防ぎようがない。まあ、私も中高生のころは録画したアニメのビデオテープ(VHS)をダビングし合って友人と共有していたので、とやかく言える資格はないけれど……。
紙の本なら親しい人と貸し借りできるし、することになんら問題はない。なぜデジタルコンテンツになると急にダメなのかと言われると、強くつっこめないところがある。ともあれ、かなりカジュアルに行われており、「捕まる」とか「悪いこと」とあまり思われていないフシがあるのは問題だ。違法な行動はもちろん、意識から変えていかなければいけないのではないか。
フランスの書籍市場は、2024年には電子書籍を含む市場全体の推定で、売上高は約44億ユーロ(前年比1.0%減)、販売部数は約3億5,000万部(同1.6%減)と微減してはいるが、日本と比べればはるかに安定している。だがそれでもインフレによる価格高騰によって、古本や海賊版に流れるユーザーが増えている。
日本ではどうなのか? 日本の既存の読書・購買の調査は新刊中心であり、それだけでは見えてこない部分が多すぎる。同様の設計をした読書・購買調査が必要だ。
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