男の実家は古い戸建て。母子で2人暮らしだった(時事通信)

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「『ギャッ』って声が聞こえたのよ、ほんの一瞬。猫みたいな声で、人間だと思わなかったわ。一瞬の出来事だったんでしょうね」──周辺住民は不安げな表情でそう語った。

【写真】無職男(60)と認知症の母親が暮らしていた自宅。箱を持って鑑識に入る警官らの姿も

 埼玉県川口市の住宅で6月1日午後、無職の男が、母親の介護支援に訪れていたケアマネジャーの女性(63)の首を刃物で刺して殺害し、自らの首も刺して死亡した事件。閑静な住宅街で起きた凶行に、周囲の住民たちはいまだ不安の中にいるようだ。男の自宅のすぐ近くに住む80代の女性は、事件発生時の緊迫した様子をこう振り返る。

「5月や6月はちょうど猫に盛りがつく時期で、夜には猫の鳴き声が聞こえることがよくあるんです。だからあの時も、『ギャッ』という声を聞いて、『今日は珍しく猫が昼間から喧嘩でもしているのかな』と思った程度で、まさか人が刺された声だとは思いもしませんでした。争ったり、揉みあったりする雰囲気はなく、本当に一瞬のことです。思い返すと、女性の方の断末魔だったのかなと…」

 しかし、その直後に住宅街の静寂は打ち破られることとなる。

「気づけばパトカーが5台、消防車が2台、それに救急車が2台、さらには赤いランプを乗せた覆面パトカーまで次々とやってきました。何事かと思って2階から外を見ると、警察官が『心臓マッサージしろ!』と大声を上げているのが聞こえたんです」

 家の中では懸命な救命活動が行われていた。男は自ら110番通報をした直後に自刃を試みたとみられており、警察官が到着したときには刃物を首に突き立てる瞬間だった。現場の生々しい状況は、外にいた近隣住民にも伝わってきたという。

「警察の方が『ゴミ袋をください』と大きな声で話すのが聞こえました。何枚でもいいから持ってきてくれと。血だらけになったタオルや布の切れ端を入れるためだったようです。それから、女性が最初にストレッチャーで運び出され、その後に男が乗せられていきました。上から見えましたが、男の服はもう真っ赤に染まっていました」

車椅子を押す「孝行息子」の顔

 男は90代の母親と2人で暮らしており、母親は重度の認知症を患っていた。すでに報じたように、男には爆竹を投げつけるなど近隣トラブルを起こす"曲者"の側面があった一方で、母親を献身的に介護する一面もあった。

 この女性も、男の母親への思いを感じさせる場面を目撃している。

「今年の2月末か3月初め頃、お母さんが倒れて救急車で運ばれたことがあったんです。その時、息子さんは搬送されるまでずっとそばにいて、お母さんの手を握っていたの。そのあと、よく車椅子にお母さんを乗せて散歩に連れて行く姿も見かけました。『散歩行くの?』と声をかけると『うん』と返事をしてくれたりしてね」

 言葉数は少なく不器用な男だったというが、道端で近所の人が転んで起き上がれなくなった時には、助け起こしてくれたこともあったという。

 母親の退院からわずか数か月後、支援に訪れたケアマネジャーを手にかけ、自らも命を絶つという最悪の結末を迎えてしまった男。

「お母さんは認知症も進んでいたし、家の中で事件が起きたことにも気づいていなかったんじゃないかな。きっと息子さんは、お母さんが寝ている間に別の部屋でケアマネさんと話をしていて、思い込みであんなことになってしまったんでしょうね。それにしても、なんでこんなことを……」

 血に染まった住宅に取り残された90代の母親。親孝行だったはずの息子が起こした凄惨な事件は、あまりにも救いのない結末だった。

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