【分析】キューバで名誉挽回狙うトランプ氏、イランでの政権転覆失敗受け

(CNN)米国のトランプ大統領が現在追い求めているのは、政権転覆をもたらすような勝利をキューバで収めることに他ならない。イランではそれを果たせなかった。とはいえ、すでに手一杯の状態にある米軍をさらなる行動に向かわせるのは、政治的にも軍事的にも大きなリスクを伴うだろう。
米国政府が94歳のキューバのラウル・カストロ元国家評議会議長を殺人並びに米国人の殺害共謀の罪で起訴したのは、驚くべき展開だ。共産主義国家である島国キューバと米国は、70年近くにわたり対立を続けている。
キューバの独立記念日に当たる20日に行われた今回の起訴は、トランプ氏による対キューバ政策が激化のレベルを大きく引き上げたことも意味する。起訴のタイミングは米国の石油封鎖措置が深刻な人道危機を引き起こし、キューバ社会の崩壊を招きかねない現状に重なった。外交的圧力が着実に高まる中、米中央情報局(CIA)のラトクリフ長官はハバナ入りし、一連の要求を提示してもいた。
トランプ氏は数週間にわたりキューバを威嚇。貧困に苦しむこの国に対しては「何でも」できるとし、キューバを「手中に収める栄誉」に浴するかもしれないと述べてきた。20日には同国を「解放する」と語った。
「あの国は崩壊しつつある。見ての通りだ。バラバラになりつつある。石油もなければ資金もない」と、トランプ氏は記者団に語った。「それでも我々が助ける。現地で家族や人々を助ける」
1996年に2機の民間機が撃墜され、米国人3人を含む4人が死亡した事件をめぐるカストロ氏への起訴は、政権にとっての「ダブルプレー」のように見える。トランプ氏は、交渉に応じる可能性のある弱腰あるいは現実的なメンバーを排除することで、キューバ政権をさらに追い詰めたいと考えているのかもしれない。しかし、この新たな法的攻勢は、軍事行動や特殊部隊による襲撃の口実となる可能性もある。 米軍の特殊部隊は1月、ベネズエラのマドゥロ大統領の拘束を遂行した。
クインシー研究所の研究員、リー・シュレンカー氏は、フロリダ州で公開された司法省の起訴状がキューバ側の譲歩を引き出すことを意図していた場合、ホワイトハウスにとって逆効果になる可能性があると警告した。「これは、キューバとのあらゆる潜在的な合意にとって死刑宣告になるだろう」と、同氏は述べた。
「『国旗の下に団結する』という効果が生まれ、包囲網に対するキューバ指導部の防衛意識は強まるはずだ」(シュレンカー氏)
今回のキューバへの一手は、現政権の戦略に対する最新の試金石だ。具体的には封鎖を課すことで経済的圧力を徐々に強めつつ、武力行使の可能性をちらつかせながら敵を屈服へと追い込んでいく。この戦略はベネズエラで功を奏し、政権高官デルシー・ロドリゲス氏の暫定大統領就任に一役買った。ロドリゲス氏は現在トランプ政権と交渉中だ。しかし、ベネズエラ国民が抱く民主主義への希望が実現する日は依然として訪れていない。イランでも同様の手法は完全に失敗に終わり、トランプ氏には戦争を再開する以外の選択肢がなくなっている可能性がある。
キューバのディアスカネル大統領は、カストロ氏の起訴を政治的策略だと激しく非難。米国という帝国の「傲慢(ごうまん)と苛立(いらだ)ち」がここに表れていると指摘した。キューバ側のこの反抗は、トランプ政権の外交政策の根底にある信念に異議を唱えるものだ。同政権はあらゆる状況を取引の好機と捉える。米国が小規模な敵対国に対して武力行使を行う可能性を示唆すれば相手は屈服し、国境や不動産、原材料を米国企業に開放すると考えている。
支持率低迷でキューバへの脅威が複雑化現在キューバ周辺では、ベネズエラやイランでの米軍の行動に先立って見られたような大規模な軍事増強の兆候はない。しかしCNNの報道によると、キューバ沿岸での米軍の偵察飛行が急増している。こうした活動の活発化は、イランやベネズエラへの攻撃の前に確認された事象だ。
しかし、イランでの戦争をめぐるトランプ氏の支持率の急落は、新たな軍事作戦の裏付けとなる政治的資本がほとんど残されていないことを意味する。CNNや米紙ニューヨーク・タイムズなどによる最近の世論調査では、米国人の過半数がイラン戦争に反対を表明。多くの人々がトランプ氏の政策と自身の経済的苦境を直接結びつけ始めている。また世論調査では、米国人の過半数がトランプ氏のキューバ政策にも反対しているとの結果が出ている。
米国とキューバが直接衝突すれば、重要な政治勢力であるフロリダ州の反共亡命者たちがこれを歓迎するのは間違いない。しかし共和党にとっては、中間選挙へ向けてさらに巨大な課題が突きつけられることになるだろう。同党はすでに、トランプ氏の歴史的な低支持率という重荷を背負っている。この上新たな紛争が勃発すれば、トランプ氏は有権者の苦境に無頓着だとする民主党の主張が裏付けられてしまう。たとえキューバ問題で外交上の勝利を収めたとしても、住宅費や食料品の支払いに苦労している有権者にとっては、ほとんど意味をなさないかもしれない。
「米国民は、さらなる戦争を求めているわけではない。彼らが望んでいるのはアリゾナ州での住宅建設に注力することであり、ハバナの住宅を爆撃することではない」と、民主党のルーベン・ガイエゴ上院議員は先月、声明で述べた。当時民主党は、キューバに対する無許可の軍事行動への米軍投入を阻止するのに失敗していた。「彼らが望んでいるのは医療費を引き下げることだ。一世代の退役軍人を、生涯にわたる通院生活に追いやることではない。国民は生活費を安くしてほしいと望んでいる。不必要な戦争に税金を費やすことなど望んでいない」(ガイエゴ氏)
一方、米国が軍事攻撃や特殊部隊の襲撃に踏み切れば、マドゥロ氏に対する電撃的な襲撃よりもはるかに大きな抵抗を招く恐れがある。米軍に犠牲者が出るリスクも格段に高まる。キューバ軍は資源に乏しく、装備も古びていることが多い。それでも米国の遠征軍に対し、一定の損害を与えることは可能だ。
またカストロ氏周辺の警備は極めて厳重になる公算が大きい。そうすることでマドゥロ氏を狙った特殊部隊の「拉致・奪取」という派手な作戦を未然に防ごうとするだろう。
数十年にわたる政権と国民の結束を考えると、ベネズエラでみられた米国当局者と外交官との協力関係がキューバで再現される可能性は低い。カストロ氏の孫でありボディーガードでもあるラウル・ギジェルモ・ロドリゲス・カストロ氏とトランプ政権の接触が報じられてはいるが、ベネズエラのような状況に発展する公算は小さいだろう。
前出のシュレンカー氏は、キューバ人がある防衛戦略を信奉している点に言及した。それは外国からの侵略があった場合、国民全体が対応するというものだ。「そうなれば米軍に死傷者が出るだけでなく、数百とは言わないまでも数十人のキューバの民間人、治安部隊も死亡することになるだろう」と、同氏は述べた。「キューバ政府が全面的な変革を遂げるといった事態は、実際には起こらないだろう。むしろ弾圧が強化され、民主主義や自由市場への移行に向けた進展はほとんど見られないのではないか」
一方、キューバの石油輸入に対する米国の封鎖強化は、社会崩壊のリスクを伴う極度の困窮を招き、不安定な状況を生み出している。これによって難民が大規模に流出する事態となれば、急速な移民危機へと発展する恐れもある。国境の安全確保を公約に掲げた政権にとっては懸念事項だ。
しかし、米政権は鋭く迅速な軍事作戦を好む傾向にある。少なくともイラン戦争まではそうだ。その点を踏まえると、米国の軍事行動の可能性は決して排除できない。トランプ氏は演説の中で、マドゥロ政権への襲撃作戦をしばしば懐かしげに振り返る。この作戦で同氏は誤った期待を抱き、イラン政権の打倒も戦争での勝利も容易に達成できるだろうとの見通しを立ててしまったのかもしれない。
米政権がキューバで勝算ありと見る理由もう海外での戦争は行わないという公約とは相容れないトランプ氏の軍事的冒険には、リスクと懐疑的な見方がつきまとう。そうした中、なぜ政権はあえてキューバで新たな危機を引き起こそうと考えるのだろうか。
実のところ、トランプ氏は勝利を切実に必要としている。それによって外交政策に関する主張を裏付けるのが目的だ。同氏のチームは海外における米国の威信と尊敬を取り戻したと強調するが、実際にはイランとの戦争を終結させられないことや、ウクライナ紛争の終結およびガザ停戦計画の段階的進展に失敗していることを考えれば、政権の見解にはかなり無理があるように見える。
ジョン・F・ケネディ以降の歴代米大統領が成し得なかったキューバの独裁政権打倒に成功すれば、トランプ氏が渇望する歴史的評価が約束される。またキューバ移民の息子であるルビオ国務長官は、自身のキャリアの原動力として、かねてキューバ政権の弱体化を図ってきた。
キューバを敵対国から従属国へ転換することは、「ドンロー主義」――西半球全体を支配しようとする政権の推進策――を確固たるものにするだろう。マドゥロ氏への襲撃に加え、この政策の下で米政府はアルゼンチンのMAGA(米国を再び偉大に)支持派大統領に財政支援を申し出たり、地域全体の複数の選挙で右派ポピュリストを支援したりしてきた。
トランプ政権のキューバ政策には、過去の政権にも見られた側面がある。米国政府はかねて、ロシアや中国といった敵対国によるキューバを拠点とした米国沿岸でのスパイ活動や監視活動を懸念してきた。キューバ政権を転向させることは、これらの大国からハバナにおける政治的同志を奪うことにもなるだろう。
キューバの一般市民は何十年にもわたる抑圧と、経済的に極めて困窮した状態の中で暮らしてきた。政権を打倒することは、彼らに政治的自由とより豊かな生活への希望をもたらすことにもなるだろう。とはいえ米政権のこれまでの実績を考えると、果たしてこの側面に誠実に取り組むのかどうかは疑問が残る。
また、トランプ氏が採用した過酷で強制的な手法は国民に壊滅的な影響を与えており、非人道性や国際法違反といった観点からの非難に直面している。
国連の専門家らは2月、米国の石油禁輸および関連する制裁が、燃料を脅かしていると指摘。それらの燃料は「発電や上下水道システム、病院、公共交通機関、そして灌漑(かんがい)、収穫、冷蔵、食品流通を含む食糧生産に不可欠なものだ」と警告した。
しかし20日、ルビオ氏はビデオメッセージでキューバ国民に対し、「あなたがたに電力、燃料、食料がない本当の理由は、国を支配する者たちが数十億ドルを略奪してきたからだ」と述べた。翻訳された記録によると、同氏はさらに「国民を助けるために使われたものは何もない」と付け加えた。
キューバ政府が残忍かつ抑圧的であることに異論を唱える者はいない。イランについても同様のことが言えるだろう。同国でもやはり、トランプ政権による別の封鎖措置が民間人の苦しみを一段と深刻化させている。彼らは長年にわたる国内での迫害に直面してきた人々だ。
ただどちらの国の政権も、まだ倒れてはいない。そしてトランプ氏が用いる戦術が自らの歴史的地位を強固にするためのものであるなら、それはこの先のいかなる勝利にも多大な代償が伴うことを意味する。
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本稿はCNNのスティーブン・コリンソン記者による分析記事です。
