「内定を受けたら他社は辞退を」就職エージェントの「オワハラ」多発、違約金の請求事例も
利用の学生「内定後のほうが大変、後輩には勧められない」
学生の就職活動を支援する就職エージェントを巡るトラブルが後を絶たない。
紹介された企業から内定を得た学生に就活の終了を迫る「オワハラ」(就活終われハラスメント)が目立つ。人材獲得競争が激化していることが背景にあるとみられ、各大学は学生に注意を呼びかけている。(広瀬航太郎)
◆「証拠をください」
「内定を受けたら就活は続けられませんよ」。東京都内の私立大4年の男子学生(22)は3月下旬、エージェントの男性社員から電話で告げられ、耳を疑った。紹介を受けたIT企業から内定をもらった直後のことだった。
エージェントに登録したのは昨年末。友人が内定をもらい始めていたのに、自身はゼロ。焦りがあった。
担当の男性社員は親切だった。志望業界や理想の働き方を伝えると、希望に沿った求人を紹介し、模擬面接も実施してくれた。手厚いサポートを受けて得た初めての内定だった。
男性社員から「他社の選考を辞退した証拠をください」と言われ、「応募中の企業は辞退します」と記した誓約書を送った。「断ったら勝手に内定を取り消されるかもしれないと不安だった」と明かす。
エージェントの行為がオワハラと呼ばれていることは後になって知った。「面接対策など誠実に向き合ってくれて感謝しているが、内定をもらった後が大変だった。後輩には勧められない」と語った。
男子学生が利用していたエージェントは取材に対し、「法令に基づき、採用活動に関するガイドラインを順守した運営を行っている」とコメントした。
◆報酬1人100万円
人手不足を背景に、就職戦線では学生優位の「売り手市場」が続く。文部科学省と厚生労働省の調査によると、昨年春に卒業した大学生の就職率は過去2番目に高い98%で、2011年卒の学生と比べて7ポイント上昇した。
一方で、優秀な人材を確保しようと、企業の「囲い込み」が激化。内閣府の24年の調査では、就活生のおよそ10人に1人がオワハラを経験していた。
企業の採用コンサルタントの経験がある千葉商科大の常見陽平教授(労働社会学)によると、エージェントは20年以上前から存在する。人材獲得競争が激化する近年は、学生に直接アプローチできる点が注目され、特に知名度の低い企業のニーズが高まっている。
エージェントは、人材紹介の契約を結んだ企業の中から、希望に沿った求人情報を学生に伝え、1人の内定につき企業から100万円前後の報酬を受け取るのが一般的だという。企業に対し、まとまった人数の「確保」を事前に確約するエージェントもある。
常見教授は「内定を辞退されると報酬が減る仕組みが、オワハラをはじめとした強引な営業につながっている」とし、「人材ビジネス業界として、成功報酬ありきのビジネスモデルを見直すことも検討するべきだ」と指摘。学生には「選択肢が増えるのは良いことだが、よく考えて利用してもらいたい」と呼びかける。
◆相談160件超
各大学は対策に乗り出している。企業による大学3年生向けの広報活動が解禁された3月、複数の大学が学生たちやエージェントに対して注意喚起した。
中央大はホームページで、学生から相談があったエージェントによるオワハラの実例を掲載。▽「内定辞退するなら採用コストを請求する」と金銭の要求を示唆▽「この場で他社に選考辞退の電話をかけて」と強要――などを挙げた。
立教大キャリアセンターには昨年、エージェントについて160件以上の相談が学生からあった。X(旧ツイッター)の公式アカウントで「興味のない企業を強く勧められる」などの相談事例を紹介。エージェント側に向けてこうした行為は「やめてください」と警告している。
センターの小島緑さん(39)は「オワハラを受けて泣き出す学生もいた。エージェントには学生が納得して就活できるよう支援してほしい」と訴える。
国も対策、防止を要請
政府もオワハラ対策に力を入れている。
今年3月には、文部科学省などがオワハラをしないよう経済団体などに文書で要請した。厚生労働省は23年、企業の就活ハラスメント対策をまとめた事例集を発行。オワハラ専用の相談窓口を設けたり、オワハラ事例の再現動画を作成・公開して啓発に役立てたりしている企業の取り組みを紹介した。
◆就職エージェント=就活中の学生に求人情報を紹介したり、企業ごとに特化した面接などの対策を行ったりする。職業安定法に基づき、厚生労働相の許可を受けて企業と学生を仲介する。学生は無料で利用できる。
