ロレックス が名作「ペプシ」を生産終了。人気モデルをあえて絞るラグジュアリー戦略

記事のポイント
ロレックスは「ペプシ」や「クッキーモンスター」など人気モデルの生産終了を発表した。
発表直後にペプシへの需要は2025年平均比で500%急増、出品は25%減少した。
ラグジュアリー業界全体で生産量を絞り、希少性と憧れを高める動きが広がっている。
4月14日に閉幕した、時計業界最大の見本市であるウォッチズ・アンド・ワンダーズでは、パテック・フィリップ(Patek Philippe)やオーデマ・ピゲ(Audemars Piguet)といったブランドが魅力的な新作時計を発表した。
ロレックスが象徴的な「ペプシ」を含む人気モデルを生産終了
しかし2026年、ロレックス(Rolex)はこの機会を利用して、いくつかの人気モデルの生産終了をアナウンスした。
そのなかには、赤と青のカラーリングが特徴で非公式に「ロレックス・ペプシ」と呼ばれるGMTマスターII(GMT-Master II)と、青と黒のカラーリングで「クッキーモンスター」と呼ばれるサブマリーナー デイト(Submariner Date)が含まれている。
ペプシの生産終了は、時計業界において今後数十年にわたって語り継がれる「地殻変動的な瞬間」だと、時計販売企業のボブズ・ウォッチズ(Bob's Watches)CEOのポール・アルティエリ氏は語る。
「ペプシは単にロレックスでもっとも人気のあるモデルのひとつというだけではない。現代の時計文化を形成する基礎的な存在でもあるのだ」と同氏は述べた。
ペプシの赤と青のカラーは1955年に登場し、その後数十年にわたるロレックスのGMTマスターシリーズや、無数の模倣品のビジュアル的な原型を形作ってきた。
そして今回、ステンレスや金など異なる素材のものを含め、ペプシのすべてのバリエーションが完全に姿を消すことになった。
「コントロールされた供給は需要を高める」業界戦略の転換
では、なぜロレックスはもっとも象徴的な時計のひとつを生産終了にするのだろうか。
それは、現在のラグジュアリー業界における大きな潮流、つまり需要をより適切にコントロールするために生産量を縮小するという動きと関係している。
ロサンゼルス拠点の時計ディーラー、ウォッチガイズ(WatchGuys)のCEO兼創業者、ロベルティーノ・アルティエリ氏によれば、ロレックスは多くのラグジュアリーブランドと同様に、規模と希少性のあいだの適切なバランスを模索している。
「コントロールされた供給は需要を高める」とアルティエリ氏は言う。
「ロレックスのステンレススチールモデル、たとえばパンダ(Panda)でも同じことがみられる。ロレックスから直接購入すれば2万ドル(約300万円)以下だが、二次流通市場では大きく値がつり上がる。ファッション、ハンドバッグ、ジュエリーでも同じ現象が起きている。地元のディーラーは1カ月ほど前からペプシを取り扱いから外しはじめており、すぐに価格が上昇していく様子が見て取れた」。
ペプシの生産終了というロレックスの決定は、即座に同モデルへの需要を押し上げた。時計マーケットプレイスのクロノ24(Chrono24)がGlossyに共有したデータによれば、ニュースが発表されたあと、ペプシ時計への需要は2025年の平均を500%上回る水準まで急増した。
一方、同じ期間にペプシ時計のアクティブな出品件数は25%減少した。販売者たちが在庫を引き上げ、需要が高まるのを待ってあとから売ろうとしているためだとみられる。
カルティエ(Cartier)はこの戦略のもう一方の側面を示した。同社は4月、2012年以来生産終了となっていたモデル「ロードスター(Roadster)」を復刻したのだ。
クロノ24のデータによれば、カルティエの発表によってモデルへの関心が再び高まり、ロードスターの購入リクエストは10倍に急増した。
「ペプシへの反応は、我々が以前にも見てきたパターンに沿ったものだ。生産終了が確定すると、市場はすばやく動き出す」と、クロノ24のヘッド・オブ・ブランド・エンゲージメント、バラズ・フェレンチ氏は語る。
「だがカルティエ・ロードスター効果は、新たな次元を加えるものだ。単に『新モデル』としての話題を作るのではなく、復刻はオリジナルモデルの評判が回復するのだ」。
ファッション業界全体に広がる「生産量を絞る」動き
ファッションおよびラグジュアリー業界全体で、ブランド各社は希少性と憧れを高めるために市場に出回る商品の量を抑えようと取り組んでいる。
たとえば4月16日、ケリング(Kering)は、グッチ(Gucci)を立て直すための戦略の一環として、同ブランドのSKU数を20%削減すると発表した。
ロレックスやグッチのようなブランドは、規模と希少性のあいだで複雑なバランスを取らねばならない。成長はビジネスにとってよいことだが、市場に商品があふれすぎるとブランドの印象を損ないかねない。
ロベルティーノ・アルティエリ氏によれば、同じく生産終了となったロレックスのクッキーモンスターは、二次流通市場で小売価格を下回って取引されている数少ないロレックスモデルのひとつだったという。
「数年にわたる過剰供給のあと、業界はより小規模で集中したハイエンド層の購買者を中心に再調整しているところだ」と、オンライン時計マーケットプレイスのベゼル(Bezel)の共同創業者兼CEO、クエイド・ウォーカー氏は語る。
「数年前と比べてトーンは反応的ではなく、より意図的になっている。これは通常、市場が安定しつつあるサインだ」。
時計マーケットプレイス、エクスキジット・タイムピーシズ(Exquisite Timepieces)の共同創業者兼CEO、ティム・リチャードソン氏はGlossyに対し、ブランドへの憧れを維持することがいまハイエンドブランドにとってもっとも大きな課題だと語った。
「ブランドは供給を慎重に管理しなければならない」とリチャードソン氏は述べた。
「品薄すぎると顧客を苛立たせるが、供給過剰は希少性を損なう可能性がある。さらに、多くのブランドは、もともと自社を魅力的にしてきた伝統とアイデンティティを失うことなく、新しい世代のコレクターを引き寄せる必要がある」。
価格上昇への警鐘と若年層の選択肢の多様化
人気が高まりすぎた商品をあえて生産終了にすることは、時間をかけて需要を再び積み上げていくためのひとつの手段である。
ロレックスは本記事に対するコメント要請には応じなかったが、Glossyが取材したディーラーたちは、ペプシのカラーリングは将来のいずれかの時点で再発売されるとみている。
生産量を減らすことは、価格の引き上げを正当化することにもつながる。ラグジュアリーブランドはこの1年、相次いで価格を引き上げており、その結果として顧客を遠ざけてしまうリスクを抱えてきた。
「ここ数年で価格はかなり上昇しており、一部の消費者はその価値に疑問を抱きはじめている」とリチャードソン氏は述べた。
「同時に、若い購買者層には、旅行、テクノロジー、ファッション、体験など、これまで以上に多様な支出先の選択肢がある」。
[原文:Fashion Briefing: Why Rolex discontinued one of its most iconic and coveted watch models]
Danny Parisi(翻訳、編集:藏西隆介)
