ノルマ未達分の自社商品を自腹で買わされる「自爆営業」は違法ではないのか。コンビニ、アパレル、中古車、飲食などの業界で広く横行してきた。弁護士の横山佳枝さんは「自爆営業は労働基準法16条が禁じる損害賠償予定にあたり、強要された売買そのものが無効になる可能性もある。令和8年の指針改正でパワハラに該当することも明記される」という――。

※本稿は、横山佳枝『ブラック就業規則』(東洋館出版社)の一部を再編集したものです。

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■飲食店店長に課された「売上未達なら自腹買取」は許されるか

私は、飲食チェーン店で店長として働いていますが、毎月一定の売上目標が課されており、就業規則により、売上目標が未達成の場合には、自腹で商品を買い取るとされています。このような就業規則に法的な問題はないのでしょうか。

いわゆる「自爆営業」については、法令上明確な規制はなされていませんが、従業員に不要な商品の購入を強要することは、不法行為やパワハラに該当する可能性があり、公序良俗違反として売買が無効となる可能性もあります。そのため、そのような就業規則の定めに従う必要はありません。

「自爆営業」については、令和8年10月施行予定の改正パワハラ指針において、パワハラの要件を満たす場合は、パワハラに該当することが明記されます。

■横行する「自爆営業」の実態

従業員に一定のノルマを課し、ノルマ未達の場合に、自社の商品やサービスの買取りを求めることにより、収益向上への貢献を強制することは、「自爆営業」と呼ばれています。

平成24年頃、日本郵便の従業員が年賀状などの販売ノルマを達成するために、自腹を切って購入したことが大きな話題となりました。政府の規制改革推進会議の発表によれば、以下の通り、様々な業界で、「自爆営業」が行われています。

・営業ノルマ未達分の買取り要求

中古車販売店:社内の自動車保険契約数のノルマを達成するため、自費で自動車保険に加入を迫られる。

コンビニ:本部が仕入れのノルマを加盟店に課し、売れ残り商品の廃棄コストを加盟店の負担とする。

飲食店:ノルマ達成や商品の廃棄を減らすため、自費で商品の購入を求められる。

アパレル:ノルマ達成のため、自費で服の購入を求められる。


・自社商品の購入要求

中古車販売店:新入社員が入社後に半ば強制的に自社での車購入を迫られる。

コンビニ:クリスマスケーキや恵方巻などの季節商品の購入を求められる。

飲食店:注文ミスやつくり間違え発生時の料理の購入を迫られる。

アパレル:就職後、制服として、売場の商品3〜4着の購入を強制される。

■労働基準法16条が禁じる「損害賠償予定」に該当する

「自爆営業」については、仮に、ノルマ未達成分の代金を労使協定なく給与から控除している場合には、賃金全額払いの原則に反します(労働基準法第24条)。

また、会社が従業員に対し、ノルマ未達成の場合に不要な商品やサービスの購入を求めることは、従業員に一定の場合の損害賠償を負わせるものであり、実質的に労働基準法第16条が禁止する損害賠償の予定に該当し、違法と考えられます。

また、従業員は、本来、商品やサービスを購入するかしないかについて自由に意思決定できるところ、その意思に反して、会社側が不要な商品やサービスの購入を求めることは、不法行為(民法第709条)に該当する可能性があり、売買が公序良俗に違反するとして無効となる可能性もあります(民法第90条)。

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■裁判所が違法と認定した事例

売れ残り品買取り強要の事案(東京地裁平成28年12月20日)は、コンビニ店舗の従業員が店長らから売れ残り品の買取りを強要されたことやその他のパワハラについて、損害賠償を求めた事案です。

横山佳枝『ブラック就業規則』(東洋館出版社)

裁判所は、暴力的ないじめやハラスメントがなされていたとした上で、売れ残り品の買取りについて、個人的用途を大きく超える量であり、任意に購入するとは考えがたく、買取りを強要されたものと推認すべきとして、会社及び店長らの不法行為責任を認めました。

自社商品の過大な継続購入の事案(大阪地裁平成20年4月23日)は、呉服店の従業員が自社商品を長年にわたり継続的に購入していた事案で、会社に対し、代金相当額の返還を求めました。

裁判所は、会社が従業員に対し、制服着用や売上目標達成を強要していたとまでは認められないとしつつ、従業員がその給与に匹敵するほどの自社商品購入を継続していたことを認識しながら、これを放置し利益を得ていたとして、一定期間後の売買を公序良俗違反により無効と判断しました。

■令和8年の指針改正でパワハラに明記される

「自爆営業」が横行している会社では、パワハラや長時間残業という問題も発生していることが多く、悪しき慣習として早急に改善すべきです。「自爆営業」については、令和8年10月施行予定のパワハラ指針において、パワハラの要件を満たす場合にはパワハラに該当することが明記されます。

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横山 佳枝(よこやま・よしえ)
弁護士法人杉山真一&パートナーズ法律事務所 弁護士(日本・ニューヨーク州)
2018年から東京都労働局紛争調整委員。著書として、『ハラスメントの事件対応の手引き』、『明日、相談を受けても大丈夫!ハラスメント事件の基本と実務』(ともに共著、日本加除出版)、『法律はあなたの味方 お仕事六法 正社員ver.』(あさ出版)
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(弁護士法人杉山真一&パートナーズ法律事務所 弁護士(日本・ニューヨーク州) 横山 佳枝)