個人的弱みを握られたイスラエルに踊らされるトランプに残された対イラン「3つの選択肢」
イラン戦争を起こした真相
イラン戦争は、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に踊らされた戦争だったという拙稿「トランプ大統領「イラン戦争謎の勝利宣言」の裏に見えるイスラエル・ネタニヤフ首相の影」を4月3日に公表した。この説を支持してくれるレゴ動画を見つけたので、ぜひ観てほしい。
下の画面からわかるように、ドナルド・トランプ大統領は、性暴力の犯罪者ジェフリー・エプスタインとの「抜き差しならない関係」をイスラエル側に握られており、それが2月28日から、イスラエルとともにイランへの大規模攻撃をはじめる契機にとなったとわかる内容のレゴ動画が存在する。
「ニューヨークタイムズ」(NYT)によると、この動画をつくった「エクスプロシブ・メディア」のインスタグラムとYouTube上のアカウントは3月に削除されたが、インスタグラムのアカウントは同プラットフォームのポリシーに違反していなかったため復旧したという。この記事を執筆した時点では、YouTubeでも観ることができた。
ほかにも文字通り、トランプがネタニヤフの「おもちゃ」にされているものもある(下の写真を参照)。「ニューヨークタイムズ」の分析では、イラン側は「トランプ大統領を、血に飢えた帝国主義者、あるいはイスラエルのネタニヤフ首相の無能な手先として描き、しばしば反ユダヤ主義的な定型表現を煽っている」と指摘している。また、「戦争はエプスタインのファイルにおける暴露から世間の目をそらすために開始されたのだ」と、定期的に示唆しているという。
なぜ2月28日だったのか
こうしてみると、これらの面白おかしい情報がいわゆる「陰謀論」を煽っているようにみえるかもしれない。だが、トランプがネタニヤフに操られている証拠はまだある。あえてイラン攻撃を急いだ理由から、イスラエル側に配慮したらしいことがわかるのだ。そこには、ユダヤ人によるイラン人への歴史的な「復讐」が関係している。私には、『復讐としてのウクライナ戦争』という著作があるが、どうやら今回の戦争は『復讐としてのイラン戦争』と位置づけることも可能なのだ。
よく知られているように、昨年からつづく米・イラン交渉は、今年2月に第2ラウンドが行われていた。2月6日〜2月28日まで協議が続いていたようだ。しかし、突然、米国とイスラエルはイランへの大規模攻撃に踏み切った。それはなぜか。旧約聖書のエステル記を起源にもつ、イスラエルの重大なお祭り、「プーリーム」の前に攻撃するためだったと考えれば、辻褄(つじつま)が合う。
プーリームは通常、古代ペルシャの支配者に対するユダヤ人の勝利を祝うため、にぎやかな街頭パレードや仮装パーティーで祝われる。
旧約聖書にある「エステル記」は10章からなる長い物語だが、大雑把に言うと、前5世紀、ユダヤ人の女性エステルがアケメネス朝ペルシャ帝国のアハシュエロス(実名はクセルクセス)の王妃になった。そして、同国高官のハマンによるユダヤ人抹殺計画を阻止するよう王に訴え、ハマンの企みに対抗するため、王はユダヤ人が自己防衛のために抵抗することを許した(「60分でわかる旧約聖書(17)エステル記」を参照)。
その結果、ペルシャ帝国全体で、ユダヤ人を憎む者たち7万5000人が殺された。ユダヤ歴12月の13日に敵を破ったユダヤ人たちは、14日を祝宴と喜びの日とした。シュシャン(スーサ)にいるユダヤ人たちは2日間戦ったために、他の地区より1日遅れの15日を祝宴の日とした。この祝宴は、プール(くじ)にちなんでプーリーム(プルの複数形)と呼ばれるようになったのである。
つまり、ユダヤ人からみると、プーリームは1935年までペルシャを名乗っていたイランの人々への攻撃によってユダヤ民族を守った記念日ということになる。ユダヤ人虐殺計画への「復讐」の成功を祝う意味をもっている。
プーリームの政治利用
こうした事情から、ネタニヤフ政権は、プーリームの前夜という時期をこの宗教的祝祭と共鳴させることをねらって、あえて2月28日にイラン攻撃を仕掛けるようトランプを促した可能性がある。イスラエルの新聞は、現在の紛争を「現代のプーリームの物語」と表現し、ユダヤ人抹殺を企てたハマンとイランの指導部との類似性を示唆している。さしずめ、核兵器開発でユダヤ人殲滅(せんめつ)を企てたとされるアリ・ハメネイ師こそ、ユダヤ人抹殺計画をたてたハマンといったところか。
今年の場合、プーリームは、3月2日の夜からユダヤ人社会の大部分ではじまる予定だった(エルサレムを含む、古代の城壁都市では、祝日は1日遅れてはじまる)。実際には、祝賀行事は要塞化された防空壕へと移された。ただ、3月3日と4日、数千人のイスラエル人が、集会に関する警察や軍の規制を無視し、仮装をしてエルサレムの街頭で祝賀を行ったという情報もある。いずれにしても、プーリームの祝祭を景気づけするためには、ネタニヤフ政権にとって、突然のイラン攻撃が必須であったのかもしれない。
「米国とイスラエルによるイランへの攻撃のタイミングは、ユダヤ教の祭りと関係があるのだろうか?」というタイトルの記事によると、プーリームを前に、ユダヤ人コミュニティでは「パルシャット・ザコール」も朗読される。これは、アマレク人(神の選民とされるユダヤ人に敵対し攻撃や略奪を繰り返す古代パレスチナ人)を記憶にとどめるよう命じた聖書の戒めを想起するものであり、アマレク人は古代の敵であるが、後のユダヤ教の伝統において、ユダヤ民族の滅亡を企む典型的な敵として解釈されるようになった。そう考えると、イランやレバノンへの攻撃はアマレク攻撃を想起させることになる。
これに対して、イランは、自国がプーリームの物語を再現する「現代のペルシャ」であるという考えを拒否している。イラン・イスラム共和国は、イデオロギー的にも歴史的にも、古代アケメネス朝とは異なるし、現代のイランは、エステル記に描かれたペルシャ王朝の継承者とはみなしてもいない。いわば、イスラエル側が勝手に宗教と政治をごちゃまぜにして、政治利用していると、イラン側は批判的にみている。
反ユダヤ感情の高まり
いずれにしても、米国では、やりたい放題のイスラエルに対するアメリカ国民の嫌悪感が広がっている。ピュー研究所が3月23日から29日にかけて、米国の成人3507人を対象に実施した調査によると、米国の成人の60%がイスラエルに対して否定的な見方をしている。これは昨年の53%から増加した。下図からわかるように、この割合は2022年から18ポイントも上昇している。
ほかにも、59%が、国際情勢に関してネタニヤフ首相が正しい判断を下すことに対し、ほとんど、あるいは全く信頼していない。これも昨年の52%から増加した。
特徴的なのは、50歳未満の成人の過半数が、現在イスラエルとネタニヤフ首相を否定的に評価している点だ。
エマニュエル元大使の乱
4月21日付の「フィナンシャル・タイムズ」に公表された記事「なぜアメリカはイスラエルへの支持を失いつつあるのか」を読むと、興味深い話が紹介されている。シカゴ市長、バラク・オバマ大統領の首席補佐官を経て駐日米国大使であったラーム・エマニュエルが2028年の大統領選に向けた候補者を選ぶ民主党内の選挙運動のなかで、米国がイスラエルに毎年提供している38億ドルの補助金を廃止すると公約しているというのだ。
彼は、イスラエルは他の同盟国と同様に、市場価格で武器を購入すべきだとのべており、イスラエルが戦争のルールを破った場合、米国は禁輸措置を講じるべきだとも主張している。
この記事によると、エマニュエルのミドルネームは「イスラエル」であり、かつてイスラエル国防軍で短期間民間ボランティアを務めていたという。これほどまでに親イスラエルであるはずのユダヤ系米国人であっても、イスラエルに厳しくせざるをえないほどに、いまのネタニヤフは傍若無人にふるまっているのだ。
エマニュエルの場合、大統領補佐官時代、占領下のヨルダン川西岸における新たなイスラエル入植地建設に反対した。すると、2009年当時、首相に返り咲いたネタニヤフは彼を「自己嫌悪のユダヤ人」と呼んだと報じられているという。当時から、ネタニヤフは超過激な姿勢をとっていたことになる。
トランプの残された三つ選択肢
トランプには、いま、三つの選択肢が残されている。
第一は、イランによるホルムズ海峡の開放など、何らかの措置と引き換えに封鎖を解除し、その後、成功の保証はないものの和平交渉が継続されるというシナリオだ。第二は、イランが米国の要求を受け入れるまで、戦闘行動を再開することなく封鎖を継続する。第三は、軍事攻撃の再開である。
軍事攻撃が再開されれば、イスラエルは大喜びするだろう。つまり、今後の展開はネタニヤフの利害がどう反映されるかという問題を抜きに語ることはできないのである。
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