連休は誰も帰ってこないの…〈年金月13万円〉72歳女性、ゴールデンウィーク、住み替えた「シニアマンション」で一人過ごす孤独の実態
利便性を求めて住まいのスケールダウンを実現したところ、子ども世代が帰省を断念――。高齢期の住み替えが一般化するなか、それが家族の断絶を招くケースも少なくありません。ある女性の事例を通じて、現代における親子の適切な距離感の作り方について考えていきます。
快適な暮らしを求めて実家を売却したが…
東京都内の高級シニア向け分譲マンションに暮らす、高橋和子さん(72歳・仮名)。2年前、長年連れ添った夫に先立たれたのを機に、埼玉県内にあった築40年の戸建てを売却しました。
「ただ広いだけの家だったので、庭の手入れも限界だし、階段の上り下りも将来が不安。駅に近くて見守りサービスがあるマンションのほうが、子どもたちも安心するはず」
これは、和子さんなりの配慮からの決断でした。売却益と貯蓄を投じて購入したマンションは、ホテルのようなラウンジがあり、バリアフリーも完璧です。生活費は年金月13万円でお釣りがくるほどで、経済的な不安もありません。
しかし、住み替えとともに失ったものがありました。それは、家族を受け入れる「余裕」です。
「以前の家なら、息子家族が来ても、布団を並べて泊まらせることができました。でも今の部屋は1LDK。リビングに布団を敷いて寝てもらうのも窮屈で……」
今年の大型連休。和子さんは期待を込めて、関西に住む長男と、東海地方に住む長女に連絡を入れました。
しかし、返ってきたのは申し訳なさそうな断りの言葉でした。長男からは、「最近はホテル代も高くて、家族4人で帰ると20〜30万円近くかかるから。また落ち着いたら、俺だけでも帰るよ」と言われ、長女からも同様の返事があったといいます。
かつての戸建てなら、交通費だけで済んでいた帰省。しかし、別に宿泊の手配を考えなければならないとなると、地元への帰省は単なる「高額な旅行」と同義になってしまったのです。
「住み替えた当初は、身軽になれて清々したと思っていました。子どもたちに負担をかけたくないと決めたのに、結果として随分と距離ができてしまいました」
老後の住まいのスタイルとして「減築」や「住み替え」は、維持・管理の視点ではしばしば「正解」とされます。
しかし高橋さん家族にとっては、家族が集まれる空間を放棄したことが、家族の縁を遠ざける要因となってしまったのです。
「今年は、お正月に続き、ゴールデンウィークもひとりです……」
帰省のハードルを上げる、“余裕”のない実家
内閣府『高齢社会に関する意識調査(令和5年度)』によると、「住み替えの意向を持つ理由」で最も多いのは「健康・体力面での不安」の24.8%でした。次いで「自身の住宅が住みづらい」(18.9%)、「買い物が不便」(10.2%)、「交通の便が悪くなった」(9.8%)と続きます。これまでの自宅での生活に、何かしらの限界を感じたことが大きな動機であると推察されます。
また、希望する住み替え先の居住形態は、持ち家の人の場合「戸建て(持ち家)」がトップで34.0%。「分譲マンション含む集合住宅(持ち家)」(19.8%)、「シニア向け分譲マンション(持ち家)」(8.3%)と、依然として「持ち家」にこだわる傾向にあります。その選択の結果、家族が集う余裕がなくなるケースも珍しくありません。
かつて、日本の住宅には「客間」や「仏間」といった、普段は使わずとも盆暮れ正月に親族を受け入れるための空間が備わっていました。しかし、現代の都市型マンションでは、そうした余白がないことのほうが多いでしょう。
マンション内には「ゲストルーム」を完備している物件もありますが、設置されていないケースが圧倒的です。
親側が宿泊費を援助しようとしても、「年金生活の親に負担をかけるのは申し訳ない」という子ども側の気遣いから、結局は帰省を手控えるという悪循環も生まれています。
住み替えを検討する際には、日常生活の快適さはもちろん、その後の「家族との交流」をどう維持するかについても、具体的なイメージを持っておく必要がありそうです。
