『風、薫る』写真提供=NHK

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 NHK連続テレビ小説『風、薫る』がスタートして約1カ月が経とうとしている。本作は、一ノ瀬りん(見上愛)と大家直美(上坂樹里)が正規に訓練された看護師=トレインドナースとなり、近代看護の礎を築いていく物語。4月20日から24日に放送された第4週では、西洋式の看護学を修めた大山捨松(多部未華子)にナースとしての素質を見出された2人が看護婦養成所への入学を決意するまでが描かれた。

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 女性の行き着く先が「奥様」しかなかった時代に。また、看護の概念がないばかりか、病人や怪我人を看病する人が差別されていた時代に。「なぜりんと直美は看護師になることを選んだのか」を観ていくのが第1週~第4週であり、いわば“序章”。第5週からついに物語は本筋に入っていくわけだが、その前にここまでの2人のキャラクター、そして見上と上坂の演技を振り返っていきたい。

 りんは江戸の終わり頃、栃木県・那須地域にあった小藩の旧藩主の一族である美津(水野美紀)と元家老・信右衛門(北村一輝)のもとに長女として生を受けた。彼女はひとことで言えば、不思議な子だ。父・信右衛門は元家老といえども、りんが物心つく前に職を辞して農家に転身。また明治維新の際に一家が暮らす村は戦禍を免れたことから、りんは穏やかでのんびりした性格に育った。一方で、母からは武士の娘としての教育を叩き込まれており、畑仕事をしていても品格が漂っている。ノーブルな顔立ちで、どことなく古風な雰囲気も感じさせる見上はこういう役がすこぶる似合う。代表的な例で言えば、NHK大河ドラマ『光る君へ』の藤原彰子役や映画『国宝』の芸妓役もハマり役だった。

 迷いを色濃く映し出す表情も印象的だ。りんは「間違えた」という口癖からも明らかなように、優柔不断で迷っているうちに正しくない道に流れがちである。しかし、彼女の良いところは「間違えた」と思ったら、すぐに引き返せるところ。第2週では、火曜日の放送で運送業を営む亀吉(三浦貴大)のもとに嫁ぎ、翌日の放送回ではもう夫の蛮行に耐えかねて娘・環(宮島るか)を連れて実家に戻っていた。劇中では約3年の月日が流れているとはいえ、驚くべき速さだ。大人しい子かと思いきや、潔く大胆。良い意味で掴みどころのないキャラクターを見上が体現しており、一体どこへ向かっていくのだろうと気になって仕方がない。

 一方、直美はクレバーで逞ましい女性だ。どんな困難にも負けじと立ち向かい、一人で生き抜くだけの力を持っている。だが、彼女の場合はそうならざるを得なかったのだ。女郎だった母親に生後間もなく捨てられ、孤児を保護する教会を転々としてきた直美。世の中の不条理を嫌というほど分かっており、ゆえに誰にも期待せず、生きるためならどんなことでもやる。人を欺くことも厭わないし、気に入らない奴には英語で罵声を浴びせるが、不思議と浅ましく映らないのは、上坂の佇まいに高潔さが滲み出ているからだろう。

 初登場時、通りすがりの女学生たちにつぎはぎだらけの着物を笑われ、「いかにも私がみなしごで耶蘇の貧乏女、大家直美ですが」と言い返すシーンが印象的だった。みなしご、耶蘇、貧乏女……どれも生まれてこの方、直美が何度も浴びせられてきた言葉に違いない。どんなに良い人間になろうと属性だけで揶揄され、差別される。だったら何も遠慮せず、とことんずる賢く生きてやろうと思ったのではないだろうか。でも路頭に迷っている人、特に子どものことが絡むと自分の幼少期と重なって助けずにはいられない。また、海軍中尉かと思いきや詐欺師だった小日向あらため寛太(藤原季節)にまんまと騙され、涙する直美には純粋さも残っているのだと感じた。

 上坂はそのキャラクターの中で相反する2つの気持ちを演技に両立させる。『生理のおじさんとその娘』(NHK総合)では、男手一つで育ててくれた父親への感謝と「自分のことは自分で決めさせてほしい」という反発心、『ビリオン×スクール』(フジテレビ系)では、自分をいじめたクラスメイトを許せない感情と憎しみに打ち勝とうとする気持ちを、巧みに表現していた。本作でも、正しく生きられないなら、正しくなく生きてやろうとしながらも、最後の最後で清い心を捨てられない直美の葛藤を鮮やかに映し出している。

 本作は、そんな2人がバディとなっていく物語だ。てっきりしっかり者の直美が少し頼りないりんをリードしていく流れになるかと思いきや、実際は逆なのかもしれない。実はこうと決めたら曲げない頑固なりんの笑顔に押されて、直美が「仕方ないな」と呆れながらついていく未来が見える。どことなく『虎に翼』(NHK総合)の寅子(伊藤沙莉)とよね(土居志央梨)の関係を彷彿とさせる2人だ。展開にスピード感こそあるものの、盛り上がりが少し遅い印象も受ける本作だが、ここから物語がどんどん面白くなっていく“追い風”を感じる。(文=苫とり子)