70年代とは大違い「令和のオイルショック」が引き起こす過去最悪のシナリオ…「モノの値段が上がる」だけじゃない
トランプ米大統領とイスラエルによるイラン攻撃で中東情勢の混乱に終わりが見えない。4月8日にトランプ大統領はイランとの一時停戦に同意したが、事態の推移はなお予断を許さない。ホルムズ海峡が「開かれた」とは、到底言えないのが現状だ。
日本の石油備蓄は「断トツ」だけど…
原油価格の高騰は依然として続き、世界各国の経済を揺るがせている。
物流ニュースサイト『LOGISTICS TODAY』編集長の赤澤裕介氏がアジア各国の状況を解説する。
「日本と同様に中東産原油への依存が大きい韓国では、政府が国民に省エネを呼びかけ、プラスチックなどの原料となるナフサの輸出制限に踏み切りました。香港ではガソリン価格が1リットル=600円を突破。フィリピンは『国家エネルギー非常事態』を宣言したと報じられています。ベトナムからは日本に原油供給の打診が来ています」
海外の混乱をよそに、日本ではまだ事態はそこまで深刻ではないように見える。
背景には、'70年代に2度経験したオイルショックの教訓があるという。未来調達研究所の坂口孝則氏が解説する。
「日本はアジア諸国の中でも突出して強固な石油の民間・国家備蓄を保有しています。中国という特異な例を除けば、日本のエネルギー安全保障の基盤は断トツで強いと言えるでしょう」
ただし、混乱が再発すれば、もちろん日本も安閑とはしていられない。
第一次オイルショック時との違い
前出の赤澤氏が続ける。
「'73年の第一次オイルショックのときは、主に『量』と『価格』の問題でした。石油の供給量が減り、その結果として価格が高騰する。それがショックの本質でした。それに対して今回は、石油が高くなるだけではなく、必要な燃料や原料が必要な場所に届くのかという問題です。これまでは需給の関係から価格に注目していればよかったのですが、物理的に石油が入ってくるのか、必要なものが十分に確保できるのかという事態に直面すると、全く別の視点が必要になります。
にもかかわらず、現在、日本国内がそこまで騒ぎになっていないのは、ガソリン価格を1リットル=170円に抑える政府の補助金が効いているからです。国民がまだ痛みを実感できていないだけで、水面下では極めて深刻な事態が進行しています」
こうした事態を回避しようと、日本政府はホルムズ海峡以外のルートや米国からの原油の代替調達を本格化させるとしている。だが、話はそう簡単ではない。
「日本が輸入する原油は、約8割がホルムズ海峡を通っています。残りの2割を担う産地の原油を他のルートから調達しようとしても、物量的に到底足りません。また米国のアラスカ産原油を買い付ける動きも出ていますが、原油なら何でもいいというわけではないのです。
原油は産地によって性質が異なり、そこから取れる製品も違います。米国産を輸入できて、燃料としての原油は確保できたとしても、それで中東産原油の穴をそのまま埋められるとは限らない。車を動かす燃料は足りても、医療や工業に必要な原料まで十分に確保できるとは限らないのです」(赤澤氏)
「物流網そのものが機能不全に」
ナフサはプラスチックや化学繊維の原料となり、あらゆる製品の基盤を支えている。経済ジャーナリストの磯山友幸氏がこう話す。
「ナフサの供給が途絶えると、価格が上がるだけでなく、製造そのものが止まるという事態がおきます。象徴的なのが、容器や包装資材です。コンビニ弁当の容器、ペットボトル、食品を包むラップフィルム。これらはすべて石油由来です。仮に食品があっても、包装資材がなければ商品として流通させることはできません。
衣料品も例外ではありません。最近の衣料の多くは、ポリエステルやナイロンといった石油由来の化学繊維で作られています。原料が止まれば、生産ラインも停止し、供給は急速に細っていきます。
見落とされがちですが、物流を支えるタイヤも石油製品です。合成ゴムが供給できなければ、いずれトラックのタイヤは交換できなくなる。タイヤが摩耗した車両は順次止まり、最終的には物流網そのものが機能不全に陥ります」
ホルムズ海峡を通過しているのは、原油だけではない。中東で液化天然ガス(LNG)から合成されるメタノールも、海峡封鎖の影響で出荷が滞っている。前出の坂口氏が言う。
「メタノールの用途は幅広く、医薬品の原料としても使われます。ある大手製薬メーカーからは原料が入らなくなり、工場の稼働が停止しかねないとの相談を受けました。
また、メタノールは接着剤の原料にも使われており、不足が長期化すれば、あらゆる産業を支える接着剤が足りなくなると予想されます。これまで想定されていなかった品目にまで影響が波及していくでしょう」
【後編記事】『「トイレットペーパーパニックより恐怖」なぜ今回のオイルショックで《食糧危機》が起こるのか』へつづく。
「週刊現代」2026年4月27日号より
