意外と知らない、日本のインフラはどうすれば「長持ち」するのか
日本はこのまま崩れ去ってしまうのか? 道路、鉄道、水道、インフラ、橋……なぜ全国各地で次々に事故が起きるのか? お金も人も足りない……打つ手はあるのか?
注目の新刊『日本のインフラ危機』では、私たちの暮らしを揺るがす「大問題の正体」を豊富なデータと事例から解き明かす。
(本記事は、岩城一郎『日本のインフラ危機』の一部を抜粋・編集しています)
東日本大震災復興道路の長寿命化を目指して
話は東日本大震災から2年余りが経過した2013年6月にさかのぼります。
当時、国土交通省東北地方整備局では、震災からの復旧に尽力しつつ、復興に向けたインフラ整備計画を進めていました。どんな計画だったかといえば、大津波で壊滅的な被害にあった太平洋沿岸部において、三陸沿岸道路を復興道路として整備しつつ、内陸と太平洋沿岸をつなぐ3本の自動車専用道路を復興支援道路として整備するという大構想でした。
私がその計画を知った際に“あること”が頭をよぎりました。それは、高度経済成長期と同じ設計・施工方法でインフラを整備すると、また早期に劣化する構造物ができてしまうのではないか、ということでした。
そこで、研究仲間である東京大学の石田哲也教授と横浜国立大学の細田暁教授を誘って、以前から面識のあった東北地方整備局の佐藤和徳道路工事課長に、「復興に向けて忙しいことは重々理解していますが、復興インフラの建設に当たっては将来のメンテナンスに負荷をかけない長持ちするものを造りませんか?」と提案しました。佐藤さんは最初じっと話を聞くだけでしたが、再訪、そして再々訪した2013年12月には「わかりました。やりましょう!」と力強くおっしゃってくださいました。
復興道路の長寿命化を果たすには?
私たちが提案したスローガンは「高度経済成長期よりも迅速に! 阪神淡路大震災よりも広域に! ひと・もの・かねの制約下での復興インフラの長寿命化」でした。
その心は--高度経済成長期は約20年間でしたが、東日本大震災からの復興はその半分の10年で果たす必要があること。阪神・淡路大震災では神戸を中心とする局所的に甚大な被害が生じましたが、東日本大震災は東日本太平洋沿岸の広範囲で復興を果たさないといけないこと。さらに、今はひと・もの・かねが制約される成熟社会・低成長時代にあり、そうした厳しい状況の中でも次世代に負の遺産を背負わせないよう、インフラの長寿命化を果たそうというものです。
無謀に思えるかもしれませんが、実現のために二つの具体策を提案しました。
一つ目は、既存の施工システム(山口県における施工状況把握)と品質評価システムの融合による構造物の品質/性能確保。二つ目は既存の枠にとらわれない新技術の導入および技術の統合・総合化(パラダイムシフト)です。
じつは、東日本大震災の数年前から山口県において良いコンクリート構造物を造るためのプロジェクトが進められており、そのノウハウを学ぶうちに東北地方にもそのエッセンスを注入したいと考えていたところでした。
具体的には、「運搬装置・打込み設備は汚れていないか」「練り混ぜてから打ち終わるまでの時間は適切であるか」「鉄筋や型枠は乱れていないか」など27項目(現在28項目)からなる施工状況把握チェックシートを施工者と管理者(監督者)の双方が持ち、これに従って工事をおこなうというものです。それまで施工者は何をチェックされるかわからず、監督者も何をチェックしてよいかわからないという奇妙な関係が続いていましたが、このチェックシートにより双方の視点が明確になったのです。
とはいえ、工事中にチェックシートの項目に反することがあっても決して工事を止めることはしません。その日の作業が終わった段階で双方で振り返りをおこない、その日の反省点を明日からの工事に生かすことが話し合われます。そのことにより、PDCAのサイクルが回り始め、自然と品質の高い構造物が実現するようになったのです。このチェックシートを復興工事に導入したのです。
また、かねてよりコンクリート構造物を長持ちさせるための方策について、室内試験や数値解析の結果からその道筋は見えていたものの、それを実践できる場がありませんでした。
こうした素地があった上に今回のプロジェクトが立ち上がり、一気に実装の場が開けたはずでした。しかし、佐藤さんが私たちに突き付けた条件は、「私は室内試験や数値解析のような結果だけでは納得しません。本当に長持ちするものであることを、実物大のモデルで証明してください」とのことでした。
さらに、「日本はこのまま崩れ去ってしまうのか…意外と気づかない「インフラ危機」本当の実態」」では、いま大問題として迫っているインフラ老朽化問題をひきつづき見ていく。
