「差は明らかだった」肋骨と心を折られた英雄が払った代償 エストラーダ母国メディアが天心戦に嘆き「TKO決着は議論の余地も、言い訳の余地もなかった」

天心に手数とスピードで凌駕され、反撃の術もなし。エストラーダはただただ打ち負けた(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext
選手生命の危機に瀕していた元世界2階級制覇王者は、本能の赴くままに立ち向かってきたサムライに、身も心も打ち砕かれた。
4月11日に両国国技館で行われたボクシングのWBC世界バンタム級挑戦者決定戦で、元2階級制覇王者の同級1位ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)は、同級2位の那須川天心(帝拳)が9回終了TKOで敗北。日本の神童が「狙っていた」という強いボディブローをもろに受けたレジェンドは、10回開始直前に棄権を自ら陣営に申し出て、そのまま近くの病院に救急搬送。左脇腹の肋骨を2本も骨折するダメージを負った。
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序盤戦こそエストラーダも一進一退の攻防を繰り広げた。やや後退した3回を過ぎてから近接戦にスイッチ。天心の打ち終わりを狙った右カウンターでポイントを稼がせなかった。実際、4回終了時点での公開採点はジャッジ2名が「ドロー」と判定するほど、両者は競り合っていた。
しかし、齢35となるベテラン戦士は試合枯れが影響したのか、ギアを上げ、スピードと手数の増やした天心の圧力を前にトーンダウン。左右のボディショットを執拗に打たれ続け、「骨折のような痛み」を覚えたというエストラーダは、焦燥感が顔にも表れ始める。そして、10回開始の時間が経過しても椅子から立ち上がれなかった歴戦の雄は、陣営が「これ以上続けるのは止めよう」と決意するほどに打ちひしがれてしまった。
試合前に「KOでも判定でも、とにかく勝つ」と宣言していたエストラーダ。5月2日に東京ドームで行われる井上拓真(大橋)と、元4階級制覇王者・井岡一翔(志成)の勝者に挑む権利を逸し、3階級制覇への道は険しくなったと言っていい。
天心に圧倒され、心を折られたレジェンドの完敗は、“ボクシング大国”である母国メキシコでも小さくない衝撃を生んでいる。地元メディア『Medio Tiempo』は「世の中には、大きなショックを刻まれ、肉体の内側から疲れ果てるような感覚に陥る敗北がある。日本でのフアン・フランシスコ・エストラーダが経験したのは、まさにそれだった」と描写。試合後に涙を浮かべ、左脇腹を抑えながら花道を去った英雄の苦闘を次のように伝えた。
「エストラーダは、まるで外科手術のような精密さで壊され、徹底的に打ちのめされた。テンシン・ナスカワは、状況を正確に支配し、タイミングを計算し、加速させ、そして正確に選択した。そして彼が『勝負所だ』と仕掛けた時、すでに劣勢となっていたメキシコ人ボクサーに反撃する術など残されていなかった」
棄権は「冷静な判断」。35歳のレジェンドが失ったものとは――
天心の打撃ではなく、試合巧者ぶりにフォーカスした同メディアは、「開始直後から差は明らかだった。ありとあらゆる動き、そして展開の読みもすべてにおいて一歩先を行っていたのは、ナスカワだった」と指摘。「7回を迎えた頃には、もはやアステカ戦士の足は反応しなくなっていた。そうした流れの中でナスカワは今を生き、エストラーダは過去にすがるように生き残ろうとしているように見えた」とも伝えた。
また、エストラーダ本人が切り出し、陣営が決断した棄権という選択を「冷静な判断だった」とドラスティックに分析した『Medio Tiempo』は「時として、最も勇敢な決断となるのは、戦い続けることではなく、止めること。9ラウンドのTKO決着には、議論の余地も、言い訳の余地もなかった」と回想。そして、力なく敗れた元世界王者にとっての敗北の重みを記している。
「試合後、リングサイドに座り込んだエストラーダは荒く息を吐きながら、ただただ虚空を見つめていた。その姿はただ負けた男というよりも、聞きたくなかった事実を悟ってしまった男のようだった。35歳にして、彼はただ敗れただけではない。気力を失ってしまったのだ。もはやどんなトレーニングを重ねようと、簡単に取り戻すことはできないものだ。
彼は同世代屈指の選手だった。知性があり、技術に優れ、洗練されていた。大声をあげて相手を威嚇することもなく、圧倒的な存在感で相手をねじ伏せるタイプのチャンピオンだった。しかし、この東京という舞台で、歳月が容赦なく彼に襲い掛かった」
まさに人生を懸けた決戦だった。ゆえに敗れた者にとって、そのダメージは計り知れないものとなる。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]
