「癒着デカ」の驚きの実態…ヤクザに銃撃された元警察官が、ヤクザからも現役警察からも「冷ややかな視線」を浴びたワケ
かつて20万人もの構成員を擁した暴力団。
覚せい剤の輸入や賭博、みかじめ料の徴収で莫大な収益を上げ、1980年代の年間収入は推計8兆円に達したと言われる。だが平成に入って以降、暴対法の制定や警察の行き過ぎた捜査、メディアによる批判的な報道が原因となり、暴力団は衰退の一途をたどってきた。
では、暴力団が社会から消えていくことは、我々一般国民にとって「良いこと」だけなのだろうか?しばし「必要悪」として語られてきた“やくざ”の実態を、『やくざは本当に「必要悪」だったのか』より一部抜粋・再編集してお届けする。
退職した元警部が撃たれた事件
こうして工藤會は福岡県警はもちろん、警察庁にとっても憎むべき敵になった。可愛げがなく、警察の顔に泥を塗る。許せない、と頭にきたとしても当然だが、その上に退職した元警部が(何者かに)拳銃で撃たれる事件が発生した。
12年4月19日朝7時すぎ、北九州市小倉南区の路上で福岡県警の元警部がバイクに乗った男とすれちがいざま、無言で拳銃数発を撃たれ、うち2発が左の太ももなどに当たった。元警部は4週間の重傷を負った。
元警部銃撃事件は工藤會のしわざと容易に割れそうだったが、福岡県警は犯人の手がかりを得られず、事件は未解明のままだった。
県警によると、撃たれた元警部は約30年間暴力団捜査に従事し、退職前は工藤會対策の特別捜査班長だった。県警は元警部を退職後、「保護対象」として扱い、自宅周辺を巡回警備していた。にもかかわらず事件は起きた。
躍起になって仇捜しを始めた警察
警察庁は事件発生後、九州管区警察局に対し「福岡県警に機動隊員ら数百人を派遣せよ」と指示した。松原仁・国家公安委員長も事件現場を視察し、「銃撃事件は法治国家日本に対する挑戦。通信傍受の拡大やおとり捜査など捜査手法の高度化が必要だ」などと息巻いた。
元職だろうと、警察は警官が撃たれれば躍起になって仇捜しを始める習性を持つ。
県警は事件解明の端緒さえ、当時は掴めなかったのだが、発生直後から「工藤會による犯行の可能性が高い」と公言し、撃たれた元警部は「暴力団捜査のスペシャリスト」「正義感が強く暴力団に物が言える刑事」「工藤會捜査に尽力したベテラン警察官」などとメディアに情報を流した。
だが、地元警察内部にさえ「元警部は暴力団と癒着して情報をもらう旧型のデカ。よほどあざといマネをしたから撃たれたんやろ」と冷ややかな見方があった。工藤會でも元警部はきわめて評判が悪い。同会の幹部が言っていた。
「元警部はやくざの間で『イッさん』と呼ばれていた。こっちから情報を取ったり、こっちに捜査情報を流したり、やくざや工事業者と飲んだり食ったり。そりゃうまいこと甘い汁吸っていた。
イッさんはやくざの事務所や住まいに顔を出し、飾り棚を覗いては『いい酒置いてるね』とねだる。で、こっちも『持ってけや』と酒や小遣いを渡していた。
数年前、工藤會の組員が何人か逮捕された事件がある。頭にきたうちの者が小倉北署に乗り込み、捜査課長の前で『イッさん、あんたに今までやったカネ、耳揃えて全部返せや』と言うたことがある。一事が万事、こんな調子の男や」
福岡県警の腐敗事件
過去、福岡県警の腐敗事件が発覚したことがある。村山治『工藤會事件』(新潮社)からその部分を引いてみよう。
2001年12月、福岡県警の現職警察官が捜査情報提供の見返りに捜査対象者から現金を受け取っていたことが県警の捜査で発覚。逮捕・起訴された警察官4人が受け取った賄賂は、立件分だけで3120万円に上った。贈賄側は福岡市の繁華街・中洲のカジノバー経営者ら4人と指定暴力団「道仁会」会長の松尾誠次郎の計5人。警官らには実刑判決が言い渡された。
事態を重く見た国家公安委員会と県警は、当時とその前の本部長2人を含む23人を処分した。福岡県警と暴力団の癒着の根深さを示す事件だった。
2007年5月には、福岡県警の警部補が窃盗グループに捜査情報を漏らした見返りに、グループ側から現金数十万円を受け取っていたとして加重収賄の疑いで逮捕された。
2012年7月には、県警東署刑事2課の警部補が、工藤會の親交者に恐喝事件の捜査情報を漏らした見返りに現金10万円を受け取ったとして逮捕され、収賄の罪で起訴された。一審は無罪となったが、控訴審で逆転有罪となり最高裁で確定した。
福岡県警ではこうしたやくざとの癒着腐敗事件の連続とその摘発がたたり、以後、刑事が暴力団に直接接触することに警戒的になる習慣が広まった。情報収集で暴力団の組員に会えば、いずれ暴力団に取り込まれる。それなら情報なしで取り締まりを進めようというわけで、暴力団情報の空白化が進んだのだ。暴力団に会って口をきいたことがかつてないという暴力団担当の刑事さえ出現した。
そのような空気の中で北九州の元警部銃撃事件が発生した。暴力団からの情報収集でベテランとされていた元警部がなんのことはない、暴力団とべったり癒着していた。
【後編を読む】工藤會が全国唯一の「特定危険指定暴力団」に指定された理由
