シーズンを占う「開幕ダッシュ」の意外な“弊害” 絶好調のチームで先発投手が口を揃える「プレッシャー」の正体とは
「開幕で躓く」「開幕から猛ダッシュ」……この時期、野球報道で見たり聞いたりするのが「開幕〜」というフレーズ。果たして、現場の選手やスタッフ、そしてそれを伝える実況アナウンサーたちには、どれくらいの“重み”があるのでしょうか。35年間、第一線でしゃべり続けてきた村上和宏さんが解説します。
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「開幕ダッシュ」で思い出すこと
プロ野球開幕から、一週間が経ちました。
順調に滑り出したチームと、そうでないチームが出始めてきます。ところでこの時期、「開幕ダッシュ」という言葉をよく耳にすると思います。どの程度、シーズンの結果に影響するのでしょうか。

「開幕ダッシュ」と聞いて、私の記憶に一番残っているのは、1999年の中日ドラゴンズです。2回目となった星野仙一監督の4年目のシーズンで、88年以来となる優勝を果たしたその年、ドラゴンズは「開幕11連勝」したのです。
開幕から一気に貯金11。シーズン中は苦しい時期がありながらも、結局、一度も勝率が5割になることなく、優勝を飾りました(81勝54敗0分、勝率.600)。
よく、プロ野球では「1ゲーム差を追いつくのに1ヶ月かかる」と言われます。
5割のチームから見ると、貯金11のチームとのゲーム差は5.5。単純計算では追いつき、ひっくり返すまで半年近くかかることになりますが、追いつく前にシーズンが終わってしまいます。
このように「開幕ダッシュ」できるか否かは、シーズンを占う上で、重要な要素の一つです。
貯金が多ければそれだけ余裕を持った試合運びができます。例えばプロ初登板の若い投手が打たれても「経験を積ませる」意味でそのイニングを全うさせたり、将来を嘱望される若手野手が数少ない打席で打てなくても、同じ理由で何打席かチャンスを与えられたりします。
一軍での実戦経験を増やすことができるので若手の底上げにもつながります。
また、これは開幕時に限ったことではありませんが、チームが連勝を重ねると選手の中に「俺たちが負けるわけがない」という(根拠はないのでしょうが)意識が広がり、ビハインドでも終盤につかんだワンチャンスを確実にものにして逆転勝ちをつかむ、といった雰囲気が確実に生まれます。
実際、過去に優勝したチームはセ・パ問わず、逆転勝ちやサヨナラ勝ちがほかのチームより多い傾向があります。
ダッシュ成功でも心配が……
では、「開幕ダッシュ」に成功したチームは安泰なのでしょうか。
安心できないポイントはいくつかあります。まず、連勝中の試合の「勝ち投手」が誰かということです。
先発投手は5回まで投げ切り、降板段階でチームがリードしているか同点、ビハインドでも次の投手がマウンドに上がる前に勝ち越し、逆転しないと白星が付きません。
連勝しているからこその悩みかもしれませんが、首脳陣にとって、先発投手に白星がつかず、中継ぎが勝ち投手の試合が続くと「この先が不安だ」と考えるそうです。
先発投手は「試合を作る」使命を帯びてマウンドに立ちます。「先発ローテーション」という言葉があるように、先発投手の重要性は言うまでもありません。その先発に白星がつかないということは、先発投手個人の成績が上がらないということです。
プロ野球選手は結果がすべて。成績が上がらなければモチベーションも上がりません。
よく、我々実況アナウンサーが、投手が好投しながら味方打線が点を取ってくれない試合で、
「味方の援護がない中、今日も我慢のピッチング」
と表現しますが、こういう試合が続くと精神的に疲弊し、本来の力が発揮できないようになっていきます。先発投手に白星がつくということは、本人だけでなくチームにとっても非常に大きいのです。
また、先発投手個々のメンタルも大切です。前述の開幕11連勝の際、先発投手陣が異口同音に口にしたのが「連勝を止めるのが怖い」でした。
名誉のため名前は伏せますが、試合前、強い吐き気に襲われながらマウンドに向かった投手がいます。そうでなくてもプレッシャーが強い先発の仕事に、さらに「連勝を止められない」という重圧がのしかかるのです。
この重圧を跳ね返すメンタルを身に付けることができた投手はさらに成長し、チームの強力な戦力になるわけですが、全員ができることではありません。この「強いチームだからこその経験」の有無が投手陣全体の底上げにつながります。
世代交代がうまくいかなかった常勝軍団が一気にBクラスに転落する、Bクラスのチームがなかなか上にあがれないのはこの「経験」の差かもしれません。
アナウンサーも気持ちは……
さて、我々アナウンサーは連勝中のチームの試合を実況する際はどうだと思いますか?
先発投手と同じようなプレッシャーはありませんが、「自分が実況した日に連勝が止まったらどうしよう」という重圧はあります。試合の結果は、自分の力ではどうにもできないことは分かっていますが、やはり自分が実況した日に「連勝ストップ」は勘弁願いたいものです。
リスナーの中には実況アナウンサーの勝敗をチェックして「あのアナウンサーがしゃべると負けるから外せ」などというクレームを入れてくる方もいます。そのクレームで勤務を変更することはもちろんありませんが、言われた本人は傷つきます。
しゃべっているアナウンサーのせいではないので、どうか温かく見守ってください。
村上和宏(むらかみ・かずひろ)
フリーアナウンサー。1967年、広島県出身。専修大学法学部卒業後、91年に東海ラジオ放送入社。制作局アナウンサーとして、主にスポーツ実況を担当。2025年の退社まで、プロ野球をメインに多くの番組制作に携わった。
デイリー新潮編集部
