解法の暗記が<数学への苦手意識>を作っている!?ただし、解法に至るヒントを得るために暗記しておきたいキーワードはあります!

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暗記数学の是非をあらためて考えてみる

1月に配信した記事では、拙著『数学嫌いの犯人』をもとに、数学嫌いに至る算数・数学の学び方の問題点をいくつか指摘した。

例を挙げると、面積公式を覚えるときに注意すること。2元1次連立方程式と3元1次連立方程式の根本的な違い。空間図形の学びの意義。いわゆる「1/6公式」の負の側面などなど。

この記事では、前半で、上記拙著で指摘している他の具体例を用いて、行き過ぎた「やり方」の暗記だけの問題点を述べる。

しかし後半では、13個の「発見的問題解決法」(これについては後半で詳しく紹介する)における個々の項目は、暗記しておくこともプラスであるということを紹介したいと思う。要点は、発見的問題解決法は「やり方」ではなく「考え方」だということにある。

小学校で習う「流水算」 川の流れの速さは?

昔から次の問題のような「流水算」はよく知られているだろう。

問題船が川を24km上るのに6時間かかり、同じ区間を下るのに2時間かかる。このとき、静水での船の速さと川の流れの速さを求めよ。

解説 とりあえず、中学数学の方程式の考え方を用いて解答を述べる。静水での船の速さを時速△km、川の流れの速さを時速□kmとすると、次の2つの式が成り立つ。

川を船が上るときの見掛け上の速さ=時速(△−□)km

川を船が下るときの見掛け上の速さ=時速(△+□)km

そこで、仮定より以下の式が成り立つ。

(△−□)×6=24 …… ア

(△+□)×2=24 …… イ

したがって、次のの式も成り立つ。

△−□=4 …… ウ

△+□=12 …… エ

の辺々を加えることにより、以下を得る。

2×△=4+12 …… オ

△=8

また、からの辺々を引くことにより、以下を得る。

2×□=12−4 …… カ

□=4

以上から、答えは次のようになる。

静水での船の速さ=時速8km

川の流れの速さ=時速4km

公式暗記によって起こる弊害

ところで、が意味することは、それぞれ

△=(見掛け上の下りの速さ+見掛け上の上りの速さ)÷2 …… キ

□=(見掛け上の下りの速さ−見掛け上の上りの速さ)÷2 …… ク

という“公式”が成り立つことである。

現在、この“公式”を覚えるだけの小学生や中学生が多くいるが、それらを忘れると手も足も出ないようだ。これを暗記だけして流水算を解くぐらいならば、流水算は学ばない方がよいだろう。驚くことに、この“公式”は大学生向けの就活の参考書にも載っている。

中学数学の「変化の割合」を考えてみる

次に、中学数学では「変化の割合」に関して学ぶ。これは高校数学で学ぶ「平均変化率」と同じ意味である。

yxの関数であって、異なる数a,bに対し、

x=aのときy=A 、 x=bのときy=B

とする。このとき、xaからbまで変化するときのyの「変化の割合」とは、

(B−A)/(b−a)

によって定める。

この値は2点(a、A)(b、B)を結ぶ「直線の傾き」となる。

現在、中学校で学ぶ関数は、1次関数の他に特殊な2次関数

y=k×x×x  (k≠0)

を学ぶ。この2次関数について、xaからbまで変化するときのyの「変化の割合」を求めると(a≠b)

(k×b×b−k×a×a)/(b−a)=k×(a+b)

となる。そのような背景があって、中学数学では上式を“公式”とすることが流行っている。

私の第六感では、この“公式”を暗記だけしている中学生に、2次関数

y=k×x×x  (k≠0)

でなく、3次関数

y=k×x×x×x  (k≠0)

としてyの変化の割合を求めさせる問題を出すと、奇妙な解答が続出するのではないか、と想像する。

13個の発見的問題解決法と数学の考え方

次に、昨年4月に刊行した拙著『いかにして解法を思いつくのか「高校数学」(上下)』は、拙著『新体系・高校数学の教科書(上下)』の章立てに沿った演習書であるが、冒頭で紹介した「発見的問題解決法」に気づくように執筆した。

なお、発見的問題解決法は人それぞれによって分類は異なるが、筆者としては次の13個を考えている。

・帰納的な発想を用いる。

・定義や基礎に戻る。

・背理法を用いる。

・条件を使いこなしているか。

・図を用いて考える。

・逆向きに考える。

・一般化して考える。

・特殊化して考える。

・類推する。

・兆候から見通す。

・効果的な記号を使う。

・対称性を利用する。

・見直しの勧め。

13項目のそれぞれは、問題解法のための「やり方」ではなく、問題解法に至るヒントをどのようにして得たかをまとめた「考え方」であることに留意していただきたい。

ちなみに、このことに気づいたのは最近ではなく、東京理科大学理学研究科理数教育専攻勤務の時代に、当時の大学院生(現・高校の数学教諭)との話し合いの中でのことである。

発見的問題解決法と解法に至るヒント

この13個の発見的問題解決法の中から、3つの項目を取り上げて、問題解法に至るヒントをどのように得たかを見ていくことにする。

●見直しの勧め

「見直しの勧め」に関しては、理科関係では「失敗の実験」と思われたものから「新しい発見」が見つかったことがたくさんある。

算数・数学でも、「間違ったこと」から「新たな展開」が生まれることがいくつもある。筆者が研究していた群論やデザイン論でも、見直しによって大きな間違い(勘違い)を発見し、それが新たな発展に繋がった例がある。

そのようなことがきっかけとなって、「見直しの勧め」を一つの発見的問題解決法に含めることに至った。見直しに関するアドバイスはいろいろあるが、これだけは絶対に外せないというものがある。

時間に限りがある試験中では無理であるが、「時間を置いてから見直すと間違いは見つかりやすくなる」ということである。レポートを書いた直後では見つからない間違いも、少し時間を置いてから見直すと意外と間違いは見つかるものであり、大学教員時代は学生に何度も勧めていたことを思い出す。もっとも、筆者は脳の研究に関しては無知なので、その訳は何もわからない。

図を描くことの4つの利点

「図を用いて考える」に関しては、昔から「数学の問題に関しては、図を描いて考えるとよい」とよく言われてきた。これに関しては、次のように4つに分けて考えたい。

(ア)図を描くことによって、ミスの無い思考をする。いくつかの場合に分けて考えるときの樹形図や、応用数学のスケジュール計画であるPERT法や、最短通路問題などを思い付く。

(イ)実際の図形の検討したい部分を扱いやすい大きさに表現する。編み物における毛糸と毛糸の位置関係とか、山頂からの視界など、検討したい部分のみをクローズアップして考えることである。

関数の極限値や方程式の解の状況を微分を用いて考えることは、拙著では多く取り上げている。出前授業で子どもたちに喜ばれる「名刺手品」の証明も(イ)である。

(ウ)良いアイデアを生み出すためのヒントを模索する。算数の文章問題や中学の図形問題などで、解決に結びつく良い図を描いた経験はあるだろう。ラムゼー現象というものの一つである「6人の不思議な性質」の証明は(ウ)の例である。

ちなみに、これは次の性質である:ここに6人がいるとして、どの2人に関しても、「知り合い」か「知り合いでない」かがはっきりしているとする。このとき6人の中には、「お互いが知り合いとなる3人」か「お互いが知り合いでない3人」がかならずいる。

(エ)各種の統計的なデータを整理して何らかの傾向をつかむ。小学校から学んできた棒グラフ、柱状グラフ、折れ線グラフ、帯グラフ、円グラフなどばかりでなく、格差を測るジニ係数を求めるときに用いるローレンツ曲線を含めて、いろいろな特徴を示すことができる。

応用範囲の広い「帰納的な発想」

「帰納的な発想を用いる」に関しては、高校数学で等式や不等式などで学ぶ数学的帰納法と比べて、もっと広い視点で考えたい。ゆとり教育の時代に学ばなくなった3桁同士の掛け算は、一般のn桁同士の掛け算の仕組みを理解する上では必須である。

そればかりでなく、n12345、…という一般の自然数で成り立つ性質を理解するためには、n=3のときの理解が大切であることがわかる。

また、数学的帰納法による証明は、結論の主張が強いと使えないことがある。あえて結論の主張を弱くすると証明ができる場合もある。この例に関しては、大学数学の入門部分にある「線形空間の次元の一意性」や、ガロア理論における「最小分解体の一意性」に関する証明を書いているときに痛感したものである。

考え方を理解していれば、「暗記」も利点になる

上に挙げた3項目以外の10項目に関しても、同様に「考え方」である。

そのように、発見的問題解決法は「やり方」ではなく「考え方」であり、13項目については、各項目の題を暗記だけしておくこともプラスになるだろう。

最後に、本年6月に、問題解法に至るヒントを得るための13個の「発見的問題解決法」を詳しく解説する『数学の考え方〜発見的問題解決法の視点』(仮題)を刊行する予定である。

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