photo : Kazumi Oda

2025年4月18日の記事を編集して再掲載しています。

とある晩、銀色の何かがSNSをすべった。

側面に「ライトレフト」と書かれた謎の筐体。

その只者ならぬ佇まいだけが先行して、詳細は謎のまま。ときおり見かけるデザイナーがCGで作ったコンセプトモデルのようにも見える。どこか国籍不明なカタカナのロゴだけが、こちらをじっと見ている。無骨、無言、でもなぜか惹かれる。

「MONOLIT」と名付けられ、「MIDIコンピューター」と説明されたそのツールはやがて専門サイトが立ち上がり、世界中のシンセサイザーマニアの間で密かに話題となってゆく。

気づけば、初期ロットはあっという間に完売していた。筆者も遅ればせながら予約組に滑り込み。

届いた現物に触れた瞬間、直感がささやいた──これ、ガチのやつだ。

Photo : Kazumi Oda

使い方は自由。説明書なんて野暮でしょ?

MONOLITには、最初マニュアルがなかった。にもかかわらず、DAWにつなぐとすっと連動して設定の仕方も一目でわかる。筆者が普段使いしているPCに入っている音楽制作ソフト「Ableton Live」や「Bitwig」、DJソフトの「Algoriddim Djay」も完全連動。

8本のスライダーをどのパラメーターに割り当てるか。それを考えるだけでも楽しい。

PCだけでなく、ハードウェアとの親和性も抜群だ。MIDIでコントロールできるシンセやサンプラーに繋いでも、すぐ仲良くなれた。

特筆すべきはその“可変性”。単なる「MIDIコントローラー」ではなく「MIDIコンピューター」と銘打つだけあって、トラックごとのミックス音量調整だけでなく、ピッチコントローラーやLFOまで内蔵し、MIDI信号を周期的に揺らして遊ぶなんて芸当も軽くこなしてくれる。

スライダー一つでグルーヴマシンを操り、ソフトシンセのパラメータがうねる。ハードにもソフトにも、そしてプレイヤーの“クセ”にも、しなやかに対応する。

壊れたスライダーと、出会いのドキュメント

そんなMONOLITにも、トラブルは起きる。ある日、高品位なはずのスライダーの調子が突然おかしくなった。動きが悪いわけではないが、センサーがランダムに反応してしまうのだ。つまみを触っていないのに値が変わったり、微妙に不安定な挙動を繰り返す。いくら手作りとはいえ、これはちょっと気になる。

Instagram経由で開発元に連絡をとると、「送ってくれてもいいけど、アトリエに来てくれれば10分で修理するよ」との返事が。え、日本製だったの?と少し驚きつつ指定された場所へ。

そこは控えめなマンションの一室。 待っていたのは、ロシア出身のクリエイティブ・ディレクター、アレクサンドル・ホレンコさんだった。

Photo : Kazumi Oda

工具や計測器が並んだ作業台の隣には、無造作にブラックコーポレーション製のシンセが置かれていた。「DECKARD'S DREAM MK2」や「イセーニン」、どれも世界中のマニアが垂涎する知る人ぞ知る高級シンセサイザーだ。

特に映画『ブレードランナー』の主人公の名前を模した「DECKARD'S DREAM MK2」は、もともと興味があってよくカタログをチェックしていた機種でもあった。

『ブレードランナー』のサントラで使われている日本製シンセサイザーYamaha CS-80。そのアイコニックな名機へのオマージュとして評価されているモデル。それをロシア人のアレクサンドルさんが手がけていたという事実を知ってにわかに興奮した。

アトリエで最初に会ったとき、アレクサンドルさんはMONOLITそのもののように、日本の文化と作法を愛する控えめで落ち着いた人物に見えた。しかし、話してみると意外に気さくで、よく喋る茶目っ気のある人物だと分かった。

筆者がインスタに投稿していた内容も見てくれていて、出迎えてくれたときは筆者が好きなソニックユースのTシャツ姿だった。こうした気さくな一面が、彼の作るMONOLITにどこか現れている気がする。

Photo : Kazumi Oda

スライダーの修理に関しても、「センサーが不安定だったね。今までパーツは既製品が多かったけど、スライダーを完全自作したので、新しいやつに交換しておくね」と、手際よく直してくれた。

MONOLITにゲームパッドをつなぐと表情が一変

修理が終わり、アレクサンドルさんは作業机に置かれた「ELEKTRON Digitakt II」の電源をONにした。そして、「ちょっと面白いもの見せるよ」とPS4風のゲームコントローラーをMONOLITに接続し、即興パフォーマンスを始めた。

ミニマルなデザインのMONOLITと、何かを「操る」象徴のようなゲームパッド。この対照的な組み合わせが生み出す光景は妙に新鮮だった。スライダーを駆使して音色を変え、小さなボタンとゲームパッドでスクラッチなどのサンプリング音をトリガーする。そのたびに、MONOLITの抑制的なデザインが、音の中で自由に躍る姿を支える。

初対面では物静かに見えたアレクサンドルさんも、このパフォーマンス中は別人のように激しいアクションで演奏していた。まるで音を通して彼自身が弾けているような光景だった。

ギターやドラムならともかく、デジタルでここまで“身体的”な演奏ができるガジェット、ちょっと他に思い当たらない。

レコードマットと、未来のプロトタイプ

帰り際、アレクサンドルさんが「まだ時間ありますか? 少し待ってくれるかな」と言い、しばらくするとロゴ入りのレコードマットを手渡してくれた。

Photo : Kazumi Oda

自らがアイロンプリントで仕上げた出来立てホヤホヤのスーベニア。手に取るとまだちょっと温かい。妙に嬉しくて、思わず笑ってしまった。

Photo : Kazumi Oda

MONOLITは、ただの製品じゃない。作った人の顔が見えて、なおかつ機能としてもブレてないストーリー性のあるプロダクトだ。尖ってるのに優しい、不思議なバランス。次に何を作ってくるか、いまから楽しみでならない。

Source : lightreft.jp , Instagram