《EVが売れない日本》で日産の軽EV「サクラ」だけが好調なワケ…迷走するホンダより日本市場を正しく理解していた

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現在、世界のEVシフトは若干軌道修正されつつあるが、それでも普及率は確実に高まっている。一方、日本のEV普及率は低調だ。2025年1〜12月における日本国内の乗用EV販売台数は約6万台で、乗用車の販売総数に占めるEV比率は1.4%だった。

しかし、そんな中で日産のEV軽自動車「サクラ」の販売は堅調だという。対して、2040年までのエンジン全廃を掲げたホンダは、相次ぐ開発中止や車種廃止で混迷を極めている。

なぜ日本ではEVは売れないのか。そんな日本でなぜサクラはドライバーからの支持を得られたのか。

カーライフ・ジャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。

EVの競争は始まったばかり

クルマにはいろいろなカテゴリーがあるが、EV(電気自動車)の現状は分かりにくい。EVはエンジンを搭載せず、走行段階では二酸化炭素を含めて排出ガスを発生させないため、太陽光や風力で発電された電気でEVを走らせると、環境負荷の生じないクルマになる。

そのために将来のクルマはEVといわれ、ホンダは、2040年にはEVやFCEV(燃料電池車)の販売比率を100%まで高める目標を掲げた。エンジンの全廃だ。

ところがホンダは、2026年3月12日に、北米で生産を予定していた3車種のEVに関する開発/生産/販売の停止を発表した。車種はゼロ・サルーン、ゼロ・SUV、アキュラ・RSXだ。

開発停止の理由は、EVを取り巻く状況の変化だ。アメリカでは化石燃料の規制緩和やEV補助金の見直しがあり、中国市場でも競争関係が変化してきた。

ホンダはEV戦略の見直しにより、2027年3月期も含めて、最大で2兆5000億円の損失を計上する見通しだ。なお日本、インド、アジア地域などで販売するコンパクトEVのゼロ・α(アルファ)は、今後も開発を進める。ただ、後編で触れるが、ホンダの国内EV戦略は迷走している。

一方、EVの世界販売ランキングも変化した。最近のEV販売はアメリカのテスラが1位だったが、2025年は中国のBYDに変わった。2025年のEV世界販売台数は、両社の発表などによるとBYDが約225万台、テスラは約179万台だ。EVの販売状況は不安定に推移していて、どのメーカーが1位になるのか確定していない。

その理由として、EVというカテゴリーの歴史が浅く、需要も定まっていないことが挙げられる。

例えばテスラの設立は2000年以降で、日本での発売は2010年だ。BYDは1995年にバッテリーメーカーとして創業され、BYDブランドの乗用車生産を開始したのは2000年代の中盤になる。BYDが日本法人を設立したのは2022年と新しく、EVの競争は始まったばかりだ。

クルマづくりは賭博性が高い

EVの売れ行きには、クルマという商品の特性も深く関係する。クルマは移動手段だが、公共の交通機関とは異なり、個人所有の比率が高い。そしてクルマを自分で運転すると、ほかの商品では得られない楽しさや一種の快感も味わえる。

例えば人間が走って移動できる速さは最高で時速36kmくらいだが、クルマを運転すれば、時速100kmで走ることも可能だ。また裏道を走行中に路上駐車している車両と電信柱の間を通過する時など、ドアミラーを畳めば通れるといった判断も行える。この際、自分の肩幅が車両の全幅まで拡幅された感覚になる。クルマは自分が同化し、高速移動できる乗り物なのだ。

このパワーアシストスーツのような効用は、モーターサイクルでも味わえるが、クルマには外界から隔離された空間も備わる。1人で乗車していれば、たとえ渋滞の中でも周囲に人影はない。

そして車内は雪の降る日でも暖かい。クルマはパワーアシストスーツのようなアクティブな存在であると同時に、ユーザーがネガティブな時に慰めてくれる効果もある。

このような商品だから、クルマの開発者は、デザインや運転感覚で「エモーショナル」という表現を頻繁に使う。デザインや走行性能が感情や情緒に訴えるという意味で、理屈だけでは通用しない商品だ。

そのためにクルマの売行きは、機能とは関係のないフロントマスクの小さな変更で、大幅に増えたり減ったりする。クルマは不動産に次ぐ高額商品なのに、売れ行きが感情や情緒に左右され、メーカーにとっては賭博性の強いビジネスだ。

マンションでEVは所有しにくい

このクルマの商品特性も、EVの売れ行きを左右する。エンジンを搭載しないモーターの動力特性、EVの商品イメージが販売に与える影響は大きい。EVの環境性能が優れていることは確かで、社会正義でもあるが、それがユーザーの好みや欲求以上の優先度で購入されることはない。

充電環境の課題もある。公共の急速充電器を使うことも可能だが、エンジン車の給油に比べて長い充電時間を要する。時間効率を考えると、帰宅した後に自宅で充電したい。

そうなると自宅に充電設備が必要だが、少なくとも日本では、マンションなどの集合住宅で充電するのは難しい。日本では総世帯数の約40%が集合住宅に住むため、多くのユーザーがEVを所有しにくい現実がある。

EVで指摘されることの多い1回の充電で走行できる航続可能距離が短い問題もある。駆動用リチウムイオン電池の容量を拡大すれば、WLTCモードで1000kmの航続可能距離も確保できるが、今の技術ではボディが大きく重くなる。価格も高くなる。“燃料タンクの拡大”は、EVでは弊害を生み出すのだ。

以上のような事情に基づき、特に日本国内では、日本メーカー製のEVがほとんど販売されていない。

小型/普通車のシェアが約50%のトヨタでも、2026年3月上旬時点で国内で新車として販売しているEVは、bZ4X、bZ4Xツーリング、レクサスRZだけだ。他社も1〜2車種が多く、販売にも力を入れていない。

そのために2025年1〜12月における日本国内の乗用EV販売台数は約6万台だった。乗用車の販売総数に占めるEV比率は1.4%だ。ハイブリッドは車種が豊富で、販売比率も47%に達したが、EVはきわめて少ない。仮にEVが欲しくても、日本車では選べる車種がほとんどないから、売れなくて当然だ。

日産の軽EV「サクラ」が好調

そして2025年の約6万台というEV販売台数の内訳を見ると、軽自動車の日産サクラが約1万4000台を販売して23%を占めた。2022年のサクラの発売直後は、国内で新車として売られたEVの40%に達したこともある。

ここまでサクラが好調に売れた理由は、軽自動車のカテゴリーとEVの親和性が高いからだ。

EVの欠点として1回の充電で走れる航続可能距離が短いと述べたが、軽自動車ではこの欠点が問題視されにくい。

軽自動車は複数の車両を所有する世帯で、買い物などに利用するセカンドカーとして購入されることが多いからだ。航続可能距離が重視される長距離ドライブでは、ファーストカーを使うから、軽自動車のEVでは問題になりにくい。

また複数の車両を所有する世帯は、公共の交通機関を利用しにくい郊外の一戸建てに住むことが多い。従って自宅に充電設備を設置しやすい。

特に最近は給油所(ガソリンスタンド)が減り、1994年は全国に約6万箇所以上あったが、今は約2万7000箇所に減った。郊外では給油のために長距離を走ることも多いが、自宅で充電できるEVならムダを省ける。

このような事情により、軽自動車のサクラはEVでありながら堅調に売られている。EVと軽自動車の親和性は今後も高い状態が続く。今後の日本では、EVが軽自動車のセカンドカーとして浸透していく。

一方、最近の日本市場では、BYDやテスラといった輸入車の猛攻も激しい。

つづく記事〈中国EV「BYD」は日本市場を本気で狙っている…“残クレ”テスラを尻目に、軽自動車の徹底研究に取り組んでいた〉では、中国メーカーのBYDの取り組みを中心に解説する。

【つづきを読む】中国EV「BYD」は日本市場を本気で狙っている…”残クレ”テスラを尻目に、軽自動車の徹底研究に取り組んでいた