「スマホが鳴るだけで心臓が…」孤独な大学生をカモにした10歳上の“先輩”。5年間にわたる逃亡生活の果て
借金が原因となり、それまで住んでいた街から「夜逃げ引越し」を経て見も知らぬ土地で生活を始めた前野晃さん(仮名・20代後半)もその一人だ。
「スマホのバイブが鳴るだけで心臓がバクバクして、『お前を見つけた』という通告に聞こえる。そんな生活が5年も続きました。自業自得なのはわかっていますが、どうしてこんなことになってしまったのか……」
「それまで孤独だったこともあり、呼ばれればバイトもゼミも休んで駆けつける。バイトを休んだ分は食費を削り、ガリガリに痩せこけていきましたが、当時はそれがおかしいと思えないほど依存していました」
アルバイト代は、多いときで月10万円ほど。当然、学費や生活費をすべては賄えなかった。困窮する前野さんを尻目に、先輩はギャンブルを持ちかけてくるようになったという。
「お金がないからできませんとどれだけお願いしても、『ないときはツケでもいいから』と押し切られ、トランプや麻雀に付き合わされました。全戦全敗で、またたくく間にツケは数百万円にまで膨らみました」
◆600万円近くに負債が拡大、稼いだお金の大半は返済へ
そうして前野さんは、いつしか両親や大学の知り合いに片っ端からお金を借りるようになった。次第に「あいつは借りた金を返さない」という悪評が広がり、孤立すればするほど「先輩」しか頼れなくなっていく。学費の支払いさえ難しい中で大学は卒業したものの、その機に先輩からは全額返済を要求されたという。
「他にも100万円ほど借金があって今すぐは難しいと平謝りしたところ『金貸しの知り合いがいるから、それで全部立て替えてやる。俺に借金を一本化しろ』と持ちかけられたんです。借用書もなく、口約束も同然。それでも当時は、先輩を本気で『救世主』だと思い込んでしまいました」
前野さんは、先輩への借金を返すために消費者金融からも借金を重ねた。負債は雪だるま式に増え続け、最終的に600万円近くにまで拡大。稼いだお金のほとんどを返済に充てる生活になったという。
「知ってます? 税金を滞納していると自治体から届く督促状の中には、『虹色』のものがあるんです。ポストの中は、どんどんカラフルになって行きました」
所持金が底を尽いた前野さんはある日、携帯と財布と最低限の着替えだけを持って家を飛び出した。夜逃げ引越業者であるTSCの田中奈々子さん(仮名)と会うためだった。
◆600万円近くに負債が拡大、稼いだお金の大半は返済へ
田中さんは、前野さんと初めて会ったときの光景を鮮明に覚えているという。
「それまで電話でしか話したことがありませんでしたが、近づいてくる男の子を見て一瞬でわかった。魂がどこか別の場所に抜けちゃったような顔をしていたから」
TSCの場合、引越しの手伝いに限らず住居の手配、債務整理、夜逃げ後のメンタルケアに至るまで、依頼者の困り事をトータルでサポートしている。
田中さんは会ったその日のうちに前野さんを元に住んでいたところから数県離れた場所へと移転させた。その後は、住み込みでできる仕事を紹介し、住居も用意した。だが、追跡手段が発達した現代で、完全に逃げ通すのはそう簡単ではない。身元の特定を防ぐため最も注意を払ったのは、「それまでの関係性をすべて断つ」ことだった。前野さんは当時をこう振り返る。

