(※写真はイメージです/PIXTA)

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給料は上がっているはずなのに、なぜ生活は楽にならないのか――。最新調査からみえてきたのは、物価の上昇に賃上げが追いつかず、私たちが使えるお金の実質的な価値は目減りし続けている現状でした。

「真面目に働いてきた報いがこれか」…現役時代を悔やむ元サラリーマンの絶望

都内の築40年のマンションに一人で暮らす、佐藤健一さん(68歳・仮名)。中堅メーカーの営業として働き、現役時代の年収はピーク時には700万円を超えていた、いわゆる「平均的な会社員」でした。しかし、現在の生活は、かつての現役時代からは想像もつかないほど窮屈なものになっています。

「毎月の年金受給額は約17万円です。サラリーマンだった人の平均額くらいみたいですね。そこから介護保険料や健康保険料、住民税が引かれると、手元に残るのは14万円強。マンションの管理費と修繕積立金、固定資産税を月割りにすると4万〜5万円は消えます。残りで、食費、光熱費、医療費などを払ってギリギリといったところです」

佐藤さんは、スーパーの特売日を把握し、1円でも安い卵や野菜を求めて歩きます。冷暖房が必須となる夏場や冬場は、電気代を浮かすために、市の図書館などで多くの時間を過ごします。

「最近は何を買うにしても高いでしょ。先行き、どうなるかわからないから、ちょっとした贅沢をするのでも躊躇する。常に質素倹約を心がけていると、ただ生きるためだけに呼吸をしているような感覚になります」

そのような中、さらなる悪い知らせが佐藤さんの元に届きます。

「マンションの修繕費が足りないとかで、1戸あたり100万円だか200万円だか払えと……。本当、最近は踏んだり蹴ったりですよ。私は何か、悪いことでもしたのでしょうか。国のいう通りに働き、保険料を払い続けてきた結果が、このざまです。何が『100年安心』だ。『ふざけるな!』と言いたい」

佐藤さんは、将来を見据えて、現役時代に約1,500万円の貯蓄を作りました。しかし、退職後の度重なる想定外の支出で、その額は大きく減っているといいます。

「物価はすごく上がっても、年金は微増ですからね。寿命が尽きるのが先か、それとも貯金が尽きるのが先か……。本当に不安です」

統計が示す「標準的な世帯」の嘘と、制度が捉えきれない現実の困窮

厚生労働省『令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によれば、厚生年金保険(第1号)受給者の平均年金月額は、老齢基礎年金を含めて15万0,289円となっています。また65歳以上・男性の厚生年金受給権者の平均受給額は月額17万3,033円です。しかし、この「平均」という数字には、かつての高所得層も含まれており、実際には10万円以下の受給者も数多く存在します。

さらに、総務省『家計調査 家計収支編 2025年平均』を見ると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯における実収入は月平均25万4,395円、可処分所得は月22万1,544円に対して、消費支出は26万3,979円となっており、毎月約4万円の赤字が発生している計算になります。

65歳以上の単身無職世帯については、消費支出は平均15万5,782円。こちらは実収入や可処分所得が不明ではありますが、支出額だけ見ても、平均的な高齢単身者は収入(年金)だけで暮らしていくのは難しいといえるでしょう。

さらに日常では予期せぬ出費はつきもの。住宅の修繕、冠婚葬祭、医療費の増大……。佐藤さんのように、修繕積立金の不足は、全国の多くのマンション所有者が直面している課題です。

国は「公的年金は老後の生活の柱」と説明し続けてきましたが、実際には「柱」一本では屋根を支えきれない状況です。いわゆる「マクロ経済スライド」によって、現役世代の減少に合わせて給付水準を自動的に調整する仕組みは、制度の存続には寄与しても、受給者の生活の質を守る機能はありません。

かつてのモデルケースであった「会社員の夫と専業主婦」という世帯像に基づいた制度設計そのものが、現実と乖離を起こしています。現役世代はこの乖離を認めざるを得ない状況です。時を味方にして、資産形成に励むことが、有力な選択肢の一つになっています。