(※写真はイメージです/PIXTA)

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子どもに良い教育を――そう願って中学受験に臨む家庭は多いものです。しかし、志望校合格という「目標達成」が、必ずしも子ども本人の幸福につながるとは限りません。「人間関係」や「学習についていけない」といった悩みを抱える中高生は多いもの。名門校での厳しい環境が、子どもに過度なプレッシャーを与えてしまうこともあるのです。

突然の「もう行きたくない」

「もう学校に行きたくない…」

中学2年の夏休み明け、東京都在住の会社員・坂井智則さん(仮名・45歳)は、ひとり息子の優斗くん(仮名・14歳)から告げられ、しばし言葉を失いました。

優斗くんは小学校時代から地元の進学塾に通い、首都圏でも指折りの私立中高一貫校に合格。坂井さん夫婦は「努力が報われた」と大いに喜び、入学後も毎月数万円の授業料や教材費、夏期講習など、惜しみなく投資してきました。

「でも、入ってからが本当につらかったんだそうです。毎週のようにある試験や、成績上位をキープしないと落ちこぼれと見なされる雰囲気、友達同士の競争も激しくて…。親として、全然気づいてやれなかった自分が情けないです」

入学直後こそ新しい制服に胸を躍らせていた優斗くんも、徐々に無口になり、食事中も会話が減少。毎晩のように夜遅くまで勉強し、寝不足が続いていたといいます。

「最初は思春期かなと思っていたんです。だけどある日、机の引き出しから“誰とも話したくない”“早く時間が過ぎればいいのに”といったメモを見つけて…。それでようやく、学校生活に問題があると気づきました」

坂井さん夫婦は学校に相談。担任教諭は「学業優秀で問題は見受けられない」と話しましたが、スクールカウンセラーの面談を通じて、ようやく優斗くんの本音が明らかに。

「“受かった瞬間が人生のピークだった”とまで言ったんです。『もっと楽に生きてよかったんじゃないか』って…。親の期待に応えようと頑張ってきたけど、自分が望んだ進路じゃなかった、と」

坂井さん自身は地方の公立校出身で、苦学して大手企業に入社した過去があり、「我が子には苦労させたくない」という想いが強かったと語ります。

「だけど今思えば、 “成功させたい”というエゴを押し付けてしまったのかもしれません。勉強を通じて自己肯定感を持ってほしかったのに、むしろ自己否定ばかりさせてしまった」

“軌道修正”の勇気を持てるか

文部科学省『令和7年度 全国学力・学習状況調査』では、「学校に行くのは楽しいと思いますか」という問いに対し、「思う」と回答した中学生は45.8%にとどまりました。「どちらかといえば思う」(40.5%)を含めると肯定的な回答は8割を超えるものの、心から「楽しい」と感じている生徒は半数に満たないことがうかがえます。

その後、坂井さん一家は思い切って学校と話し合い、優斗くんの希望も踏まえて、他の学校への転校を検討中。現在は通信制高校も含めて、より自分に合った学び方を模索しています。

「受験勉強の苦労を無駄にしたくない気持ちもあります。でも、それよりも大事なのは、息子が“生きていてよかった”と思えるようになることだと気づきました」

坂井さんは最後にこう語ってくれました。

「受験はあくまで通過点。『受かったから終わり』ではなく、その先の人生の“選択肢”が増えるもの――本当はそう考えるべきでした。子どもの声をもっと早く聞いていればと、今でも悔やんでいます」