記事のポイント ロッテホールディングスとホテルロッテが共同出資し、日本市場拡大に向け新会社を設立した。既存2ホテルの成功を基盤に、2034年までに20ホテル4500室を展開予定している。 日韓シナジーと「和心」を融合し、ウェルネス起点の多彩な宿泊体験を打ち出す。
日本のロッテホールディングスと韓国のホテルロッテは、国内のホテル事業を統合運営する共同出資会社、株式会社LOTTE HOTELS JAPAN(以下、LOTTE HOTELS JAPAN)を新たに設立した。今回の設立は、日韓両国の知見を統合し、日本市場での事業拡張を加速するための新たな基盤を築くことが大きな狙いだ。これまで日韓で分かれていたホテル運営ラインを一本化し、開発機能と運営支援機能を新会社に集約。出店は直営と賃貸借(リース)、運営受託(MC)のハイブリッドで進め、全国のホテルオーナーとのパートナーシップ型モデルを標準化する。さらに、自社不動産の活用も視野に入れつつ、用地選定からブランド導入、開業支援、運営基準や人材育成、収益・品質管理までを一貫して担う体制へ移行する。

日韓連携で体制を再編した「LOTTE HOTELS JAPAN」

これまで日本国内のホテル運営は、ロッテシティホテル錦糸町やロッテアライリゾートを中心に個別で行われてきたが、今後は日韓のノウハウを一元化し、開発から運営までを統括する体制を整える。LOTTE HOTELS JAPANは、ロッテグループ全体が推進する横断戦略「ONE LOTTE」の一環として位置づけられており、食品や化学、流通に並ぶ成長領域であるライフスタイル&エンターテイメント事業の中核を担う。ホテル・物流などを含む事業区分はグループの売上全体において約3割を占める規模を持ち、インバウンド需要の急拡大を追い風に、日本市場での成長が期待されている。会見に登壇したロッテホールディングスCEOの玉塚元一氏は「同じルーツを持つファミリーでありながら、日韓での連携が途絶えていたのはもったいなかった。今こそシナジーを本気で起こしていくときだ」と語り、今回の新会社設立は両国の経営資源を統合する転換点だと説明した。韓国ホテルロッテは世界7カ国で39ホテル、約1万4000室を展開する韓国最大のホテル企業だ。ニューヨークの「ロッテニューヨークパレス」やソウルの「シグニエルソウル」といった象徴的物件を擁し、グローバルセールスネットワークや会員制プログラム「ロッテホテルリワーズ」などを武器に国際的な競争力を築いてきた。ホテルロッテCEOのジョン・ホソク氏も「おもてなしの先進国である日本で、韓国ホテルロッテの50年の経験とブランド力を融合させることは大きな挑戦」と述べ、グローバル展開に向けた日本市場の重要性を強調した。

既存2ホテルの成果を基盤に、全国展開をめざす

新会社の設立に先立ち、ロッテグループはすでに日本で2つのホテルを展開している。東京・錦糸町の「ロッテシティホテル錦糸町」は2010年の開業以来、都心アクセスのよさと東京スカイツリーを望む客室で支持を集め、コロナ前の2019年比で客室単価145%、売上142%と業績を大きく伸ばした。地域事業者との連携や、ロッテブランドを活かした客室・イベント企画も奏功し、地元と旅行者の双方に開かれたホテルとして定着している。また、新潟・妙高市の「ロッテアライリゾート」は、約100万坪の敷地にスキー場や温泉を備えるマウンテンリゾートとして、2018年の開業以降「スノーリゾート」から「ウェルネスマウンテンリゾート」へと進化。通年型のアクティビティ拡充により、2019年比で売上187%、客室単価145%を達成した。こうした実績を背景に、ロッテは日本市場を「成長余地の大きい戦略拠点」と位置づける。観光庁の発表によれば、2024年の訪日外国人は過去最高の3687万人に達した。なかでも韓国からの旅行者は全体の約24%を占め、韓国で圧倒的なブランド力を持つロッテにとって、日本市場は強みを発揮できる土壌といえる。LOTTE HOTELS JAPANの代表取締役社長、福井朋也氏は「既存の2ホテルをモデルケースに、ロッテブランドが日本でどのような体験を提供できるかを示してきた。今後はこの成果を基盤に、全国の主要都市、観光地に展開していく」と語った。具体的には、今後10年で20ホテル(既存2ホテルを含める)、4500室規模をめざし、直営、賃貸借(リース)、運営受託(MC)を組み合わせながら拡大を図る。直営方式では、土地と建物の所有からホテル経営と運営、ブランディング、マーケティングまでをロッテが一貫して担う。賃貸借(リース)は、土地と建物をオーナーが所有し、ロッテがそれを賃借して経営や運営、ブランディングを担う形だ。一方、運営受託方式(MC)では、土地と建物の所有と経営はオーナーが行い、ロッテは運営全般やブランディング、マーケティングを受託する仕組みとなっている。グローバルホテル市場で培ったブランドポートフォリオと日韓ネットワークを活かし、全国各地で地域と連携したホテル開発を進めていく方針だ。

日韓シナジーを強みに、日本の和心(まごころ)を融合した宿泊体験を創出

「和心」を融合した体験価値創出を掲げるLOTTE HOTELS JAPANの福井朋也氏

新会社の大きな特徴は、韓国と日本それぞれで築いてきた強みを結集し、新しい宿泊体験を創出する点にある。ホテルロッテが50年以上にわたりグローバル展開で培ったブランド力と運営ノウハウに、日本ロッテが持つ菓子、スポーツ、不動産など幅広い事業資産を掛け合わせ、ホテル事業を「ONE LOTTE」戦略の中核に据える構想だ。なかでも提供価値の核となるのが「ウェルネス」だ。LOTTE HOTELS JAPANは「身体」「心」「社会」の3つの観点で体験設計を行い、美容サプリや健康食品を活用したプログラム、温泉や静寂空間による癒し、地域散策や農業体験を通じたコミュニティ形成などを組み込む方針を明らかにした。福井氏は「ロッテのコーポレートメッセージである『お口の恋人』にあたるホテル版を、『和心(まごころ)の恋人』として提供したい」と語り、日韓双方の強みを生かした独自の体験価値創出に意欲を示した。今後は客室単価5万〜10万円を想定した「スモールラグジュアリー」など新ブランドの導入も予定しており、高付加価値領域を強化する。これにより、都市型からリゾート、ライフスタイルまで幅広いブランドポートフォリオを日本市場に最適化し、多様なゲスト層に対応していく構想だ。さらに会見では、沖縄や新潟といった観光資源に恵まれた地域での展開の可能性にも言及があった。沖縄では海や文化的背景を生かし、ウェルネスとリゾート体験を掛け合わせた開発を構想。新潟ではロッテアライリゾートをハブに、北陸や長野と連動した広域観光の流れをつくる展望を示した。いずれも地域の自然や食文化を取り込み、土地ごとに最適化された「心・身体・社会を満たす」体験設計を打ち出すことで、訪日客と国内客の双方に向けた唯一無二の宿泊体験を実現していく考えだ。文・写真/藏西隆介