(※写真はイメージです/PIXTA)

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死別や離婚により、ひとり暮らしとなった高齢親。子どもとしては心配ではありますが、自身の生活もあるなか、そう頻繁に様子を見に行くことは難しいかもしれません。親としても、困ったことがあってもなかなか子どもには頼りにくい事情もあるようで……。本記事では、美智子さん(仮名)の事例とともに、ひとり暮らしの高齢親の注意点について、波多FP事務所の代表ファイナンシャルプランナーである波多勇気氏が解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。

母のタワマンに入れてもらえなくなった娘

「お母さん、久しぶり!」 

タワーマンション30階の一室。突然訪ねてきた娘・真由美さん(仮名/35歳)が笑顔でインターフォンに映っています。しかし、母・美智子さん(仮名/73歳)の表情は険しいものでした。 

「帰ってほしい。もうここには来ないで」 

母からの返答に真由美さんは驚きました。前回やってきたのは半年ほど前。いつもは隔月に最低1回程度、母の様子を見に行っていましたが、仕事が繁忙期だったこともあり、今回は前回の訪問からあいだが空いてしまいました。千葉に住む真由美さんは、車を所有しておらず、母の家までは電車で2時間ほどかかります。「わざわざ来たのに、会えないなんて。母はどうして私を拒むのだろう?」真由美さんは疑問に思います。

美智子さんが住むのは、東京都心にあるタワーマンション。窓からは東京湾が一望でき、夜には煌めく街の明かりが広がります。一見、裕福な暮らしに見えますが、実際は異なりました。 

母の事情

「年金月12万円で、この家を維持するのは正直厳しいです」 

美智子さんが住むタワーマンションには月5万円の管理費と修繕積立金が必要です。固定資産税は年間30万円以上。高層階ならではの光熱費も高く、エレベーターや空調にかかる費用がかさみます。さらに、食費や医療費を考えると手元に残るお金はわずか。 

「でも、ここに住んでいることで自分を保てている気がするんです」 

美智子さんにとって、このマンションはただの住まいではありません。夫を失ったあと、一人でも頑張れる自分を象徴する場所。そして亡き夫との思い出の住まいです。だからこそ手放せないのです。しかし、そのプライドが娘を拒む原因にもなっていました。 

拒絶の裏にある母の思い

美智子さんが娘を拒絶した理由――それは複雑な思いが絡み合った結果でした。

1.経済的不安

「娘に自分の苦しい生活を知られるのが怖いんです」 

電気代を節約するため、部屋はいつも薄暗い。夕食は半額になった総菜がほとんど。そんな生活を見られたくない。娘に心配されることがなにより嫌でした。夫の遺した金融資産があるものの、今後のタワーマンションの維持費を考えると簡単には手を付けられずにいます。

2.プライド

「助けが必要だと思われたくないんです」 

美智子さんは「自立した母親」でいたいと強く願っていました。タワーマンションに住むことで、自分の誇りを保っている。しかし、娘に頼ることで、その誇りが崩れるのを恐れていました。 

3.孤独と心理的な壁

「この家に人を入れるのは、正直怖いんです」 

美智子さんは、タワーマンションの生活が孤立感を強めていると感じていました。ほかの住人は若い世代や家族連れが多く、交流はほとんどありません。一人で過ごす時間が長い中で、生活空間に他人を入れることに強い抵抗感を抱くようになっていました。 

4. 娘への気遣い

一見冷たい態度にも見えますが、拒絶の根底には娘への愛情がありました。 娘が負担に感じるのではないか。その思いが、結果として距離を生んでいました。 

解決策 

こうした問題に対し、解決策はあるのでしょうか? 

1.住まいの見直し 

美智子さんにとってタワーマンションは大切な場所ですが、維持費が負担なら賃貸に出す方法もあります。郊外に引っ越せば、月3〜5万円の余裕が生まれる可能性があります。また、リバースモーゲージを活用し、自宅を担保に生活費を確保する選択肢もあります。 

2.家族間の対話 

娘との対話を増やし、無理のない形で助けを借りることが大切です。「助ける」ではなく「一緒に楽しむ」提案が心理的な壁を取り除く鍵となります。 

3.公的支援や地域のコミュニティ活用 

孤独を感じる美智子さんにとって、地域のシニア向けプログラムや自治体の支援は大きな助けとなります。生活費を軽減するための補助金や住宅支援制度も有効です。 

子どもに迷惑をかけたくない高齢親

「ここには来ないで」美智子さんの言葉の裏には、経済的な不安と心理的な葛藤がありました。 しかし、それ以上に大きかったのは「娘に迷惑をかけたくない」という親心。少子高齢化が進む日本では、こうした問題を抱える高齢者が増えています。親を想う子ども、子どもに頼りたくない親。そのまま放置してしまえば、あとあと大きな問題へと発展してしまうケースもあります。

ファイナンシャルプランナーとしては、住まいのコストを再評価し、無理のない生活設計を提案することが重要です。 そして、家族とのつながりを取り戻すためのサポートも欠かせません。

美智子さんのような方が「安心して暮らせる」環境を作る。それが、私たちに求められている課題ではないでしょうか。

波多 勇気

波多FP事務所

代表ファイナンシャルプランナー