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アルバイトにミスの弁償を求めたり、商品の買い取りを強制するなどの「ブラックバイト」が問題視されています。弁護士ドットコムには、アルバイト先でのトラブルに関する相談が多数寄せられています。

コンビニでアルバイトをしている女性は、オーナーから「レジの金額が合わない時は、弁償しなければならない」と聞き、従う必要があるのかと疑問に思っています。

また別の女性からは、息子が職場で商品の買い取りを強制されたという相談も。「賞味期限が同日にきれるカツサンドを20個ノルマで買ってきました。1個800円する品になります。クリスマスにはシューアイス51個入った物2000円相当する物を20個買うよう強制されました」。

アルバイト先でミスをして弁償を求められたり、商品の弁償や買い取りを強制された場合に、応じる必要はあるのでしょうか。大久保修一弁護士の解説をお届けします。

●うっかりミスで損害発生した場合

ーーうっかりミスをして弁償を求められた場合は、応じなければならないのでしょうか。

そもそも、働くにあたって、通常求められる程度に注意を払っていた場合には、損害が発生したとしても、損害賠償請求の要件である過失がないため、損害賠償請求は認められません。

「レジの金額が合わなかった」「食器を割ってしまった」といったトラブルの原因が、仮にアルバイト従業員のミスにある場合であっても、当然にアルバイト先からの弁償に応じる必要があるわけではありません。

人の注意力には限界があり、完全にミスをなくすことはできません。使用者は労働者がミスで損害を発生させるリスクについて承知した上で経営をすべきですし、労働者を働かせることで利益を上げているわけですから、事業において生じた損害は、原則として利益を受ける使用者が負担すべきものと考えられます。

このようなことを踏まえると、労働者のささいな不注意(軽過失)によって損害が発生したとしても、それが日常的に(一定の確率で)発生するような性質のものである場合には、損害賠償請求は認められないと考えるべきでしょう。

裁判でも、使用者が、労働者に対して、損害賠償を請求することができるのは、労働者が故意(わざと)であったり、重大な過失(ほとんどわざとに近いようなミス)によって損害を発生させた場合に限られる傾向にあります。

会社からの損害賠償請求が認められなかったケースとしては、エーディーディー事件(大阪高判平成24年7月27日労判1062号63頁、京都地判平成23年10月31日労判1041号49頁)が参考になります。

また、労働者が損害賠償義務を負うとしても、その負担割合は「損害の公平な分担な見地から信義則上相当と認められる限度」に制限されており、全額負担が認められるケースはまれです(茨城石炭商事事件・最判昭和51年7月8日において、認めた負担割合は損害の4分の1の限度でした)。

●販売ノルマを達成できず「商品購入」を求められた場合

ーーノルマが達成できなかった場合は、商品を買い取らなければならないのでしょうか。

アルバイトの仕事内容によっては、販売個数のノルマが課されている場合などがありますが、ノルマを達成できず商品が売れ残ったとしても、買い取る必要はありません。

アルバイト先が、売れ残った商品の買取りを強制して、代金に相当する額を給料から天引きしたり、給料の代わりに商品を現物支給したりすることは、「賃金全額払いの原則」を定めた労働基準法24条に違反します。

天引きせずに代金を直接支払わせる場合であっても、ノルマを達成できなかったペナルティとして買取りを強制すると、刑法上の犯罪である強要罪(刑法223条)が成立する可能性があります。

罰金や自爆営業を強制されて、お金を支払ってしまった場合には、労働者から使用者に対して損害賠償請求をして取り戻すこともできます。

ただ、最も大事なことは、損害賠償や買取りを求められても安易に応じないことです。上で述べたようなことを思い出して、その場では、はっきりと断りましょう。それでも、いざという時は困ってしまったり、不安なこともあると思います。そんな時は、気軽に弁護士などの専門家に相談してください。

(弁護士ドットコムライフ)

【取材協力弁護士】
大久保 修一(おおくぼ・しゅういち)弁護士
2014年弁護士登録(第二東京弁護士会)。旬報法律事務所所属(弁護士27名)。ブラック企業被害対策弁護団副事務局長。日本労働弁護団東京支部事務局。著書に「まんがでゼロからわかる ブラック企業とのたたかい方」(共著佐々木亮、まんが重松延寿、旬報社)がある。
事務所名:旬報法律事務所
事務所URL:http://junpo.org/