【乃木 章】中国で「日本発のロリータ服」が大流行していた…! 女性から支持を得ている驚きの理由 日本と「購買層」は結構違います

写真拡大 (全10枚)

中国ではロリータ服が流行している。毎月新しいブランドが誕生し、トップモデルともなればサラリーマンの平均月収の20倍も稼ぐため、若い女性にとっても魅力的な職業にもなりつつある。何故、これほど流行したのか。そこには日本とは異なる背景と購買層があった。


拡大画像表示

モデル:谢安然/撮影:睿瑶爸爸

「動漫」との親和性

元来、ロリータ服は1980年代に現れた日本独自のストリートファッションだ。大きなリボンやレースにフリル、ふんわり膨らんだスカートが「お姫様」を連想させる。ヨーロッパのバロック、ロココ、ヴィクトリア時代の貴族ドレスに、少女趣味的なイメージが合わさって形成されたと考えられている。

日本では当初、多くの女性に支持されたが、見た目の派手さや値段の高さもあってか勢いは落ち、原宿でもほとんど見かけることがなくなった。現在ではロリータ愛好家と言われる一部の人たちがメインの購買層である。

しかし、お隣の中国ではむしろこの5年ほどでその人気にジワジワと火がついているのだ。では、どのような経緯でロリータファッションが定着することになったのだろうか。

中国女性がロリータ服のようなファッションに触れたのは日本のアニメがきっかけだと言われている。例えば中国では、現在のように日本のアニメを動画配信サイトで観られるようになる以前より、テレビでロリータ服を連想させるデザイン衣装を着た主人公・木之本桜が活躍するアニメ『カードキャプターさくら』などを観ることができた。

中国ロリータモデルの翠翠suiseikoさんもロリータ服の流行には日本アニメの存在が大きいと感じているそうで、自身も『ローゼンメイデン』や『カードキャプターさくら』から影響を受けたという。


拡大画像表示

モデル:翠翠suiseiko/撮影:网管菌

中国ロリータブランド「Cute.Q」に聞いたところ、そうした背景のもと、中国では2010年頃からアニメやゲーム好きな層がロリータ服を購入するようになったという。そして、2015年ごろから街中でロリータ服を着た女性が急激に増えるのに合わせて、中国ロリータブランドが次々と誕生した。

注意を促す必要があるのが、ロリータファッション拡大の主要な舞台となったのが、中国で人気のイベントであるという点だ。年2回上海で開催される中国最大級の動漫イベント(※)である“中国版コミックマーケット”「Comicup」では、2015年からロリータブランドが出展している。

(※)中国におけるアニメ・ゲーム・同人誌即売会などのイベントの総称。

Comicupの様子(著者撮影)

各中国ロリータブランドは「お茶会」と呼ばれる新作お披露目会は定期開催するが、「Comicup」を最大級の新作発表会として重要視している。直近の「Comicup」だけでも100以上の中国ロリータブランドが出展しており、同イベントエリアの3分の1を占める。

さらに、中国におけるロリータ市場の広がりを見て、日本を代表するロリータブランドの「BABY, THE STARS SHINE BRIGHT」や、日本ロリータ系ファッション誌「ケラ!」、日本のロリータ服デザイナーらも出展するようになった。

「Comicup」で販売される日本のロリータファッションの雑誌(著者撮影)

著者が撮影を行っている様子

同イベントでは、早くからゲーム会社がコスプレイヤーを起用しているが、中国ロリータブランドもモデルを起用している。ロリータ専門のモデルが増えた現在と違って、当初はコスプレイヤーに依頼するブランドが少なくなかったというが、現在では、継続してコスプレイヤーに依頼するブランドはあるものの、人気コスプレイヤーであると同時に人気ロリータモデルという女性も増えてきているという。

また、中国ロリータモデル・翠翠suiseikoさんによれば、「ロリータ専門モデルであっても、昔はコスプレを楽しんだ人が多い印象です」と、アニメ・ゲームの影響は続いているのを感じさせる。

インフルエンサーとしてロリータモデル

現在の中国はアメリカと並ぶ世界トップクラスのアパレル・ファッション市場規模を持つ。2014年ごろから中国ロリータ服を購入している中国ロリータ愛好家のRokaさんによれば、2014年当時は、まだロリータブランド数が少なかったという。しかし、2015年から現在に至るまで急激にロリータブランドは増加し、一般女性にとっても身近なファッションアイテムの選択肢となった。

中国ロリータ業界トップカメラマンの睿瑶爸爸さんは、2019年には中国ロリータブランドから約500組のモデル撮影を受注しており、「中国ロリータ服の市場はまだアパレル・ファッション業界全体の中では小さいが、今も発展し続けている」と評している。


拡大画像表示

モデル:Roka(Twitter:@rokasann)/撮影:乃木章

一般女性にも周知されたのはインフルエンサーとしての役割を担うモデルの存在が大きい。中国ではネットショッピングが主流であるため、中国ロリータブランドも実店舗をほぼ持たず、weiboやQQなどのSNS、動画配信アプリ「抖音」などでインフルエンサーを起用した宣伝手法を取っている。

日本ロリータのモデル起用写真があくまでも服をメインにしたスナップ風が多いのに対し、より一般の人にロリータ服が浸透している中国では、着た時の体験を連想させるために世界観を演出した作品性が求められる。そのため、モデルとカメラマンが担う役割は日本と比べるとより複雑で、ブランドごとに見せ方を工夫する競争が必然的に生まれる。


拡大画像表示

モデル:谢安然/撮影:睿瑶爸爸


拡大画像表示

モデル:谢安然/撮影:睿瑶爸爸


拡大画像表示

モデル:谢安然/撮影:睿瑶爸爸

現在の日本ロリータブランド数が約50存在するのに対し、中国ロリータブランドは100を超えてさらに増え続けているため、女性モデルへの仕事依頼も多く、活躍すれば十分な報酬が得られるために人材も集まる。例えば、中国トップモデルの谢安然さんは自身のweiboアカウントで、年600着ほどモデルの仕事を受けており、月収は普通のサラリーマンの約20倍だと答えている。

ちなみに中国では写真の露出規制が厳しいために、日本で言う「グラビアアイドル」に相当するポジションはなく、コスプレイヤーやロリータモデルが芸能界の登竜門という側面もある。現在、谢安然さんは中国のテレビ番組への出演も増えており、ロールモデルとしても若い女性に支持されている。

若い女性が手に取りやすい

そして、中国ロリータの特徴は日本以上の多様性さと価格の安さだ。中国ロリータも、お姫様のようにキュートな「スウィートロリータ」、落ち着きのあるヨーロピアンな「クラシカルロリータ」、ゴシックの要素を取り込んだ「ゴシックロリータ」、カジュアルテイストな「ソフトロリータ」の4タイプに分類されるのは日本と同じだ。

しかし、「ソフトロリータ」における表現は自由度が高く、「スウィートロリータ」では中華の要素が加えられた“中華風ロリータ”のバリエーションが多い。Rokaさんは「中国ではロリータブランド数が多すぎるので、そのブランド独自のデザインが目立たなければ、そもそも目に止まらずに埋もれてしまう」と語る。そのため、ロリータとして括られてはいるが、日本と比べて大きなリボンやレースにフリルに縛られないデザインが多く登場した。結果的に、それが一般女性にも歓迎されている。


拡大画像表示

モデル:ひっそり悠海(Twitter:@mer_calme25)/ブランド:不轨不轨/撮影:乃木章

ある程度の品質を担保しつつも、新作が基本的に1万〜1.5万円(現地の場合)で購入できる価格の安さが若い女性にとって手に取りやすい。一方で、日本のロリータは高価なものが多く、一般的な10代や20代前半の女性が気軽に購入するのは難しい。

そんななか2020年7月23日には、多くの日本ロリータブランドが実店舗を構える新宿マルイアネックス7階に、中国ロリータだけを扱ったセレクトショップ「Snowdrop to Saint Maria」がオープンした。インターネット上でも中国ロリータのセレクトショップが増えており、今後の日本ロリータブランドに取って購買層が増える追い風になるのか、または“黒船”になるのか。