「コチェビ」と呼ばれる北朝鮮のストリートチルドレンたち(資料写真:デイリーNK)

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1990年代後半に北朝鮮を襲った大飢饉「苦難の行軍」。住む家や家族を失った人々は食べ物を求めて各地をさまよい歩いた。いわゆる「コチェビ」だ。それとは異なり、「ピラリをする者」と呼ばれる人たちがいるが、当局は、後者が新型コロナウイルスを拡散させかねないと見て、取り締まりに乗り出したと、咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

朝鮮労働党咸鏡北道委員会の委員長は清津(チョンジン)、穏城(オンソン)、鏡城(キョンソン)、吉州(キルチュ)などの駅頭で物乞いをしたり、こそ泥を働いたりする9歳から18歳の子どもが急増したとして、その原因を探り、対策を講じる必要があるとの提案書を出した。

それを読んだ金正恩党委員長は、今月20日に提案書を批准した。それに基づき、朝鮮労働党中央委員会は、このような事案が一部地域だけではなく全国的なものであると見て、道別に24日までにピラリをする者の数を報告し、統制対策を考えよとの方針を下した。

ピラリとは朝鮮語で物乞いを意味するが、元々は定住生活をしていたが、経済難で生活環境のより良い地域を転々とし、物乞いや窃盗をする者を指す。一方でコチェビは、住む家がなく食べ物を探して点々とする者を指すが、その区別は明確ではない。

各道、市、郡の朝鮮労働党委員会や人民委員会(道庁、市役所)、保安署(警察署)、保衛部(秘密警察)の職員は、安全執行委員会で対策を協議した。その結果、道の保安局と鉄道保安署が25日から担当することになり、駅周辺で寝泊まりする人々を保安署に連行して待機室に収容している。

ピラリと同一視すべき現象かはわからないが、貧しさのあまり農村を離れ、出稼ぎに出る人が増えている。丸一年、汗水たらして頑張って田畑を耕したところで、収穫の大部分を国に取られ、手元にはほとんど何も残らない。農作業に必要な農機具や種を買うために借金をしているが、返済に行き詰まって農村から逃げてしまうのだ。都会の市場で商売をしたり、トンジュ(金主、進行富裕層)に雇われて仕事をしたり、あるいは一攫千金を目指して鉱山や遠洋漁船などリスキーな仕事につく。

(参考記事:北朝鮮版「ゴールドラッシュ」…砂金採りに賭ける農民の希望と現実

当局は、農村から逃げる人が増えると、農業生産に支障をきたすとして、農村に連れ戻している。今回の取り締まりもその一環であると思われる。実際、当局は駅頭で捕まえた人々の住民登録調査を行った上で、元々住んでいた場所に送り返す計画だ。

ただし、北朝鮮では現在、新型コロナウイルス対策として道と道の境界線を越えての移動が禁止されているため、収容された人々は当分の間、保安署で拘禁されることになる。

これを機会とみたのか保安局は、地域の防疫所と協力し、収容された人々に対してウイルス検査を行うよう指示した。

情報筋によると、検査は彼らがあちこちを転々とした上で、首都・平壌に流入し、ウイルスを拡散させるかもしれないとの懸念に基づいて行われている。

情報筋は「普段なら放置して、問題が発生したときに限って法的処罰を行うのに、(新型コロナウイルスの)事態が深刻になったため、平壌に行かないように捕まえている」と説明した。

元々、平壌とそれ以外の地方の格差は非常に激しいが、地方に住む住民たちは「平壌との差をより一層見せつけられた」とし、密輸も配給も途絶え税負担は高まる一方なのに、自分たちは放置されて、平壌の住民だけが特別扱いされていると不満をあらわにした。

一方で「ピラリをしている人たちよりはマシだ」と自分自身を慰めている人もいるとのことだ。