米国防総省のクラウド契約を巡る、トランプとベゾスの億万長者対決
ペンタゴン(米国防総省)のクラウド・マネジメント契約(略称JEDI)を巡る突然の決定は、トランプ米大統領とジェフ・ベゾスとの新たな激しい応酬の様相を呈している。
オリジナルの”億万長者対決(バトル・オブ・ザ・ビリオネアーズ)”は、WWE主宰のプロレスイベント『レッスルマニア23』の中で同団体代表のヴィンス・マクマホンとドナルド・トランプを戦わせた、人畜無害なエンターテイメント・イベントだった。公開の場でトランプがヒール(悪役)以外を演じたおそらく最後のバトルとして有名だ。危機にひんしていたのは、試合後にカメラの前でトランプによって剃り上げられたマクマホンの髪の毛だけだった。
そして今、トランプ大統領とAmazonのCEOジェフ・ベゾスの間で繰り広げられる億万長者対決の”続編”は、エンターテイメントには程遠い。問題となる事柄があまりにも多いのだ。また、両者はどちらも信用できるグッド・ガイとはいえない。
ここのところベゾス周辺が騒がしい。1370億ドル(15兆2100億円)の資産を有する人間が、何をもって中傷を受けていると感じるかは知る由もないが、いずれにしろベゾスはとても荒れた2019年2月を過ごしている。
ニューヨーク・ポスト紙は、大きな論議を呼んだAmazonのニューヨーク市への”第2本社”進出計画中止に際し、ベゾスを”ニューヨークの街から受けるプレッシャー”に対処できなかった元ヤンキースのピッチャー、ソニー・グレイと重ねた。さらに、ペンタゴンという財宝を手にしようというベゾス率いるテックジャイアントの夢が、突然砕かれた。
米国防総省のクラウド・マネジメントに関する100億ドル(約1兆1100億円)を超える規模の契約(略称JEDI)の発注が、急遽延期されたのだ。同契約は当初、熨斗をつけてAmazonに贈られるものだと思われていた。
ベゾスが軍との大規模な契約をものにした暁には、ワシントンに居ずして政府に最も大きな影響力を持つ人間となっていただろう。
ベゾスは、CIAと国防総省のどちらにもコントラクターとして太いパイプを持つと思われる。さらに、自分の演壇として利用するためにワシントン・ポスト紙を買収したのだろう。一方で(特に)自身の行政機関による捜査の手を払い除けているトランプの味方は、何人かの上院議員やFOXニュース、自身のTwitterアカウントだ。最終的にベゾスは、おそらくより組織的な力を振るうかもしれない。
JEDI契約をものにできればAmazonは、ペンタゴンの寄せ集めのコンピュータシステムの標準化を一手に担うはずだった。しかし合衆国連邦請求裁判所の裁判官エリック・ブラッギンクは、判断を延期した。
きっかけは、入札のライバル候補のひとつであるOracleが起こした訴訟だった。同社の共同CEOであるサフラ・キャッツは、シリコンバレーにおける最大のトランプ支持者のひとりだとされている。同訴訟は、ペンタゴンで調達担当を務めるディープ・ウブヒによるJEDIの交渉への関与が、紛争の要因になっていることを示している。Amazonの元社員だったウブヒは2017年、「一度アマゾニアンになったものは、永遠にアマゾニアンだ」とツイートしている。
Oracleはさらに、JEDI契約は米国防権限法2008に抵触すると主張した。同法は、いわゆる”数量未確定(IDIQ)”契約を規制するものだった。
コントラクターが”必要都度”サービスを提供するため、常に待機状態にあるような、政府との契約が存在する。同様の契約は、1994年に連邦調達合理化推進法(FASA)が成立し、IDIQ契約を獲得した企業に対するライバル企業による不服申立を制限するようになって以降、盛んに結ばれるようになった。
Acquisition Advisory Panelによるその後のレポートによると、FASAが成立して1年以内に、米国政府は製品よりもサービスにより予算を割くようになったという。さらに9.11後、同様の契約がさらに増加した。米国防総省だけを見ても、2005年のサービス契約の総額は1410億ドル(約15兆6200億円)で、1999年と比較して75%上昇している。
最も悪名高いIDIQ契約は、イラクにおけるハリバートンの関連会社との契約だろう。2006年、イラク復興事業から”得た教訓”に関するヒアリングでカール・レヴィン議員(ミシガン州、民主党)は、ハリバートンとの契約でIDIQ契約に内在する問題点が明らかになったと証言した。
「政府が何かをしようと決めた時に競争入札が存在しないために、IDIQ契約は悪用されやすい。つまり、コントラクターがどのような見積りを出してこようが、政府は受け入れざるを得ないのだ」とレヴィン議員は指摘した。もしもAmazonがJEDI契約を勝ち取った場合、本質的にクラウド版ハリバートンになっただろう。イラクでトイレに行くとハリバートンの元子会社KBRの名前を必ず目にしたのと同様、ペンタゴンと関連セキュリティサービスのデジタル部門の至る所にAmazonが出没する可能性があり、同社はエンドレスなサービス提供を見込めたはずだった。
JEDI契約に関しては、Amazon寄りに不正が働いている、との非難の声が常に上がっていた。下院議員のスティーヴ・ウーマック(アーカンソー州)とトム・コール(オクラホマ州)は、「国防総省は特定の企業のみが契約できるような条件を掲げている」と非難した。
両議員によると、同契約には米国防情報システム局の定めるインパクトレベル6が要求され、それはAmazonのみが満たすことのできるクラウドセキュリティの最高レベルだという。
各メディアも同契約に批判の声を上げている。ヴァニティ・フェア誌は2018年8月に投稿した記事で、JEDIの1375ページに渡る企画書には、数社のみを候補に残すための”多くの技術上の制約”が設けられている、と主張した。例えば、「クラウドサービスにより年間20億ドル(約2215億円)の収入があること」などという要件が挙げられているという。
ほぼ同時期にワシントンでは、非公式に作成された100ページに渡る”調査書類”が出回り始めた。同調査は、Amazonに受注させるための国防総省内の一部幹部による汚職疑惑を主張している。
調査・セキュリティ企業のロゼッティスターが作成したとする”調査書類”に書かれたストーリーは(同社は正式なコメントを避けているが)、TV番組『The Steele Report』が伝えた内容とほぼ同じだった。とある民間調査会社が、出所不明の汚職疑惑をワシントン中の記者に配布し、その内の何人かが食いついてくれることを期待したという。
Steele Report同様、当初は誰も食いつくものはいなかった。或いはウェブサイトNextGovによれば”数か月”も放置されていたという。2018年12月になって同サイトがようやく、『Someone is Waging a Secret War To Undermine The Pentagons Next Cloud Contract(ペンタゴンの次期クラウド関連契約を食いものにする密かな戦争を仕掛ける者の存在)』と題した独自の記事を掲載した。
言い換えれば、トランプとベゾスのどちらにとっても手痛い、彼らや彼らのビジネスについての非公式に作成されたレポートが、ワシントンに出回っているのだ。
両者は、それぞれ相手が自分を陥れようとしていると思っている。トランプは、(自身が”ジェフ・ボゾ”と呼ぶ)ベゾスと”アマゾン・ワシントン・ポスト”の手下が、ホワイトハウスに対するロシア疑惑を焚き付けている張本人だ、と信じている。一方のベゾスは、最近の彼の私生活に対する非難の陰にはトランプがいる、と確信している。
ナショナル・エンクワイアラー紙がベゾスとローラ・サンチェスとの不倫に関する暴露記事を掲載した時、ベゾスはトランプの存在を確信した(記事がきっかけでベゾスは25年連れ添った妻と離婚している)。ベゾスは同紙と、親会社のAMI、AMIのCEOデヴィッド・ペッカーを、トランプと結託してメールや”下半身のセルフィ”をネタに彼を脅迫したとして、非難した。
ベゾスはMediumに、『No thank you, Mr. Pecker(余計なお世話だ、ミスター・ペッカー)』という楽しくないタイトルの記事を投稿した。
ザ・デイリー・ビーストの記事によると、”ベゾスの個人セキュリティチーム”の”調査員たち”が”ベゾスやサンチェスの電話へアクセスした可能性のある大統領につながるさまざまな人物”を調べているという。特に調査員は、ベゾスの愛人の兄であるマイケル・サンチェスに注目している。彼はトランプ支持者で、ロジャー・ストーンともつながりがあるとされる。
これらの話は興味深いと同時に不快でもある。しかしザ・ヴァージは最近の記事で、エンクワイアラーへのメールや写真の流出は”もっともらしい”が、”話を裏付ける直接的な証拠がない”と指摘している。
ベゾス=トランプ戦争はワシントンを騒がせ、広く力の及ぶ政治的な陰謀の物語で人々の感覚を麻痺させた。しかしこれまで確実に明らかなのは、両者とも彼らの下半身に関する吐き気を催すような話の詳細を、ニュースを通じて公にすることで軽率にも妻を裏切ったということだ。
本校執筆時点(2019年2月)で、次の大統領選まで2年ある。ベゾス=トランプ戦争はもうしばらく続きそうだ。まるで第三世界における好かれない独裁者同士による汚い権力闘争のようで、選挙も行われず国民は振り回される。
もしもベゾスが勝利すれば、強大な政治力と情報力を持って国民を監視下に置き、選挙によらず君臨する初の現実世界の”ビッグ・ブラザー”となるだろう。逆にトランプが勝てば……ローリングストーン誌の読者には説明する必要もないだろう。なぜかレッスルマニアが懐かしく感じる。
オリジナルの”億万長者対決(バトル・オブ・ザ・ビリオネアーズ)”は、WWE主宰のプロレスイベント『レッスルマニア23』の中で同団体代表のヴィンス・マクマホンとドナルド・トランプを戦わせた、人畜無害なエンターテイメント・イベントだった。公開の場でトランプがヒール(悪役)以外を演じたおそらく最後のバトルとして有名だ。危機にひんしていたのは、試合後にカメラの前でトランプによって剃り上げられたマクマホンの髪の毛だけだった。
ここのところベゾス周辺が騒がしい。1370億ドル(15兆2100億円)の資産を有する人間が、何をもって中傷を受けていると感じるかは知る由もないが、いずれにしろベゾスはとても荒れた2019年2月を過ごしている。
ニューヨーク・ポスト紙は、大きな論議を呼んだAmazonのニューヨーク市への”第2本社”進出計画中止に際し、ベゾスを”ニューヨークの街から受けるプレッシャー”に対処できなかった元ヤンキースのピッチャー、ソニー・グレイと重ねた。さらに、ペンタゴンという財宝を手にしようというベゾス率いるテックジャイアントの夢が、突然砕かれた。
米国防総省のクラウド・マネジメントに関する100億ドル(約1兆1100億円)を超える規模の契約(略称JEDI)の発注が、急遽延期されたのだ。同契約は当初、熨斗をつけてAmazonに贈られるものだと思われていた。
ベゾスが軍との大規模な契約をものにした暁には、ワシントンに居ずして政府に最も大きな影響力を持つ人間となっていただろう。
ベゾスは、CIAと国防総省のどちらにもコントラクターとして太いパイプを持つと思われる。さらに、自分の演壇として利用するためにワシントン・ポスト紙を買収したのだろう。一方で(特に)自身の行政機関による捜査の手を払い除けているトランプの味方は、何人かの上院議員やFOXニュース、自身のTwitterアカウントだ。最終的にベゾスは、おそらくより組織的な力を振るうかもしれない。
JEDI契約をものにできればAmazonは、ペンタゴンの寄せ集めのコンピュータシステムの標準化を一手に担うはずだった。しかし合衆国連邦請求裁判所の裁判官エリック・ブラッギンクは、判断を延期した。
きっかけは、入札のライバル候補のひとつであるOracleが起こした訴訟だった。同社の共同CEOであるサフラ・キャッツは、シリコンバレーにおける最大のトランプ支持者のひとりだとされている。同訴訟は、ペンタゴンで調達担当を務めるディープ・ウブヒによるJEDIの交渉への関与が、紛争の要因になっていることを示している。Amazonの元社員だったウブヒは2017年、「一度アマゾニアンになったものは、永遠にアマゾニアンだ」とツイートしている。
Oracleはさらに、JEDI契約は米国防権限法2008に抵触すると主張した。同法は、いわゆる”数量未確定(IDIQ)”契約を規制するものだった。
コントラクターが”必要都度”サービスを提供するため、常に待機状態にあるような、政府との契約が存在する。同様の契約は、1994年に連邦調達合理化推進法(FASA)が成立し、IDIQ契約を獲得した企業に対するライバル企業による不服申立を制限するようになって以降、盛んに結ばれるようになった。
Acquisition Advisory Panelによるその後のレポートによると、FASAが成立して1年以内に、米国政府は製品よりもサービスにより予算を割くようになったという。さらに9.11後、同様の契約がさらに増加した。米国防総省だけを見ても、2005年のサービス契約の総額は1410億ドル(約15兆6200億円)で、1999年と比較して75%上昇している。
最も悪名高いIDIQ契約は、イラクにおけるハリバートンの関連会社との契約だろう。2006年、イラク復興事業から”得た教訓”に関するヒアリングでカール・レヴィン議員(ミシガン州、民主党)は、ハリバートンとの契約でIDIQ契約に内在する問題点が明らかになったと証言した。
「政府が何かをしようと決めた時に競争入札が存在しないために、IDIQ契約は悪用されやすい。つまり、コントラクターがどのような見積りを出してこようが、政府は受け入れざるを得ないのだ」とレヴィン議員は指摘した。もしもAmazonがJEDI契約を勝ち取った場合、本質的にクラウド版ハリバートンになっただろう。イラクでトイレに行くとハリバートンの元子会社KBRの名前を必ず目にしたのと同様、ペンタゴンと関連セキュリティサービスのデジタル部門の至る所にAmazonが出没する可能性があり、同社はエンドレスなサービス提供を見込めたはずだった。
JEDI契約に関しては、Amazon寄りに不正が働いている、との非難の声が常に上がっていた。下院議員のスティーヴ・ウーマック(アーカンソー州)とトム・コール(オクラホマ州)は、「国防総省は特定の企業のみが契約できるような条件を掲げている」と非難した。
両議員によると、同契約には米国防情報システム局の定めるインパクトレベル6が要求され、それはAmazonのみが満たすことのできるクラウドセキュリティの最高レベルだという。
各メディアも同契約に批判の声を上げている。ヴァニティ・フェア誌は2018年8月に投稿した記事で、JEDIの1375ページに渡る企画書には、数社のみを候補に残すための”多くの技術上の制約”が設けられている、と主張した。例えば、「クラウドサービスにより年間20億ドル(約2215億円)の収入があること」などという要件が挙げられているという。
ほぼ同時期にワシントンでは、非公式に作成された100ページに渡る”調査書類”が出回り始めた。同調査は、Amazonに受注させるための国防総省内の一部幹部による汚職疑惑を主張している。
調査・セキュリティ企業のロゼッティスターが作成したとする”調査書類”に書かれたストーリーは(同社は正式なコメントを避けているが)、TV番組『The Steele Report』が伝えた内容とほぼ同じだった。とある民間調査会社が、出所不明の汚職疑惑をワシントン中の記者に配布し、その内の何人かが食いついてくれることを期待したという。
Steele Report同様、当初は誰も食いつくものはいなかった。或いはウェブサイトNextGovによれば”数か月”も放置されていたという。2018年12月になって同サイトがようやく、『Someone is Waging a Secret War To Undermine The Pentagons Next Cloud Contract(ペンタゴンの次期クラウド関連契約を食いものにする密かな戦争を仕掛ける者の存在)』と題した独自の記事を掲載した。
言い換えれば、トランプとベゾスのどちらにとっても手痛い、彼らや彼らのビジネスについての非公式に作成されたレポートが、ワシントンに出回っているのだ。
両者は、それぞれ相手が自分を陥れようとしていると思っている。トランプは、(自身が”ジェフ・ボゾ”と呼ぶ)ベゾスと”アマゾン・ワシントン・ポスト”の手下が、ホワイトハウスに対するロシア疑惑を焚き付けている張本人だ、と信じている。一方のベゾスは、最近の彼の私生活に対する非難の陰にはトランプがいる、と確信している。
ナショナル・エンクワイアラー紙がベゾスとローラ・サンチェスとの不倫に関する暴露記事を掲載した時、ベゾスはトランプの存在を確信した(記事がきっかけでベゾスは25年連れ添った妻と離婚している)。ベゾスは同紙と、親会社のAMI、AMIのCEOデヴィッド・ペッカーを、トランプと結託してメールや”下半身のセルフィ”をネタに彼を脅迫したとして、非難した。
ベゾスはMediumに、『No thank you, Mr. Pecker(余計なお世話だ、ミスター・ペッカー)』という楽しくないタイトルの記事を投稿した。
ザ・デイリー・ビーストの記事によると、”ベゾスの個人セキュリティチーム”の”調査員たち”が”ベゾスやサンチェスの電話へアクセスした可能性のある大統領につながるさまざまな人物”を調べているという。特に調査員は、ベゾスの愛人の兄であるマイケル・サンチェスに注目している。彼はトランプ支持者で、ロジャー・ストーンともつながりがあるとされる。
これらの話は興味深いと同時に不快でもある。しかしザ・ヴァージは最近の記事で、エンクワイアラーへのメールや写真の流出は”もっともらしい”が、”話を裏付ける直接的な証拠がない”と指摘している。
ベゾス=トランプ戦争はワシントンを騒がせ、広く力の及ぶ政治的な陰謀の物語で人々の感覚を麻痺させた。しかしこれまで確実に明らかなのは、両者とも彼らの下半身に関する吐き気を催すような話の詳細を、ニュースを通じて公にすることで軽率にも妻を裏切ったということだ。
本校執筆時点(2019年2月)で、次の大統領選まで2年ある。ベゾス=トランプ戦争はもうしばらく続きそうだ。まるで第三世界における好かれない独裁者同士による汚い権力闘争のようで、選挙も行われず国民は振り回される。
もしもベゾスが勝利すれば、強大な政治力と情報力を持って国民を監視下に置き、選挙によらず君臨する初の現実世界の”ビッグ・ブラザー”となるだろう。逆にトランプが勝てば……ローリングストーン誌の読者には説明する必要もないだろう。なぜかレッスルマニアが懐かしく感じる。
