松坂桃李が仕掛ける20代最後の大勝負――パブリックイメージの向こうにある成長をつかめ!
20代前半のブレイクと呼ばれる熱狂の渦の中にいた頃とは、確実に違うステージに歩みを進めた感がある。狂気的な殺人犯に、セックス依存症の男、陽気なオネエに童貞の教師と、近年、演じた役柄を並べるだけで、この男の演技の幅の広さがわかる。最新作『キセキ ―あの日のソビト―』で演じたのは、夢と現実のはざまで葛藤するミュージシャン。最近の個性的な役柄と比べ、地味にさえ映るが、松坂桃李はこれまでのどの役にも劣らぬ激情を胸に演じた。その“熱”は、2009年のデビュー当時、20歳だった松坂が、己の内に秘めていたものとまったく同質のものだった――。

撮影/平岩 享 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.
スタイリング/伊藤省吾(sitor) ヘアメイク/AZUMA@MONDO-artist(W)





名曲『キセキ』誕生の裏にあった挫折と葛藤



――『キセキ ―あの日のソビト―』は、人気ボーカルグループ・GReeeeNの代表曲『キセキ』誕生秘話を描いた作品です。松坂さんが演じたのは、GReeeeNの中心メンバー・ヒデ(菅田将暉)の兄で、既にプロとしてデビューを果たしていたジン。自身のバンドが挫折し、そんなときに弟の才能に気づき、それを開花させるべく、プロデューサー的立場で彼らを後押しします。



音楽に対する強い思い――それは“愛”と言っていいと思いますが、その強い思いがジンを動かしていたんだなと思います。撮影前に本物のJINさんとお会いしたんですが、とにかく音楽が好きで、それゆえに話をしていると、論理的というよりは、すごく抽象的なモヤっとした言葉が飛んでくる(笑)。その言葉に不思議と惹きつけられました。

――その感覚が、役を演じる上でのヒントに?

そうですね。音楽への強い思いと、彼の言葉の持つ吸引力は、演じる上での軸になりました。ジンはいろんなものに、はじかれちゃうんですよ。親には落第者としてはじかれ、音楽会社からはヒットが出ないとはじかれ、方向性を巡って仲間からもはじかれ、ついには弟にさえはじかれる……孤独でした(苦笑)。



――確かに。なかなか味方がいない状況で…。

それでも彼を動かしたものは何か? 単純に音楽が好きという思いですよね。自分のバンドで曲を作ることはもうできないかもしれないけど、音楽をあきらめたくない。もちろん、弟の才能を目の当たりにしたというのも大きかったけど、強い思いがあったからこそ、その最後の選択肢を見つけることができたんだと思います。



――彼の仲間は、やりたい音楽とは違う方向に転向してまで音楽を続けることをよしとせず、バンドを辞めていきます。ジンはそれでも音楽を捨てようとはしなかった。それは、音楽をやる人間にとっては、すごく大きな決断だったろうと思います。

そうなんです。本来、彼がやりたいものとは違うものかもしれないけど、それでも音楽にしがみついた。それはすごく大事なポイントですよね。もうひとつ、そこには「親に認めてもらいたい」という思い、もっと言うと「恩返ししたい」って思いもあったのかなと思います。

――親に反発し、家を飛び出したジンが、親の愛に報いるために歯科大に進み、その傍らで音楽的な才能も開花させる弟・ヒデをどんな思いで見ていたのかも気になります。もしかしたら嫉妬のような感情もあったのかもしれないと…。

僕自身、姉と妹に挟まれて育って、男兄弟の感覚って実体験ではないんですよ。今回、ジンを演じてみて、弟の才能を目の当たりにして、どこかで悔しさも持ちつつ、「俺はその領域にたどり着けなかったけど、お前はできる。やらないのはもったいない!」と後押ししてやりたいって気持ちが何より勝ったんじゃないかと思います。



――ジンのバンドと、ヒデが歯科大の友人と結成したボーカルグループ。彼らの対比が、映画の中では残酷なまでに描かれます。

弟たちが小さなライブハウスでデビューして喝采を浴びる一方で、こっちのバンドは「辞めるわ…」って(苦笑)。人生が交錯して、新しいものが生まれる一方で、古いものが消えていく――そのはざまで、何とも言えない寂しさを感じましたね。

――無邪気で初々しいヒデたちを見つめる、ジンの何とも言えない視線が印象的でした!

後悔がないと言ったら嘘になるけど、それ以上のものが、あいつらの立ってるステージの上にはある。だからこそ、この裏方の立場で彼らを支えたいって感情も強くなっていったんでしょうね。嫉妬もあれば、尊敬、信頼もあって…本当にひとつではない感情でヒデを見ていたんだなって思います。





両親の大反対が「俳優・松坂桃李」を生んだ!?



――ジンの言動や心情で、松坂さん自身と重なる部分はありましたか?

親とケンカして、家を出ていくところです。僕も最初にこの仕事を始めるとき、親にものすごく反対されました。それまで、ほとんど親と激しくケンカをしたことなどなかったんですけど。あのシーンは自分自身の経験と重なりましたね。

――大学在学中にモデル活動を開始し、その後『侍戦隊シンケンジャー』(テレビ朝日系)の志葉丈瑠(シンケンレッド)役が決まるも、ご両親は俳優の道に進むことに大反対。そこで「この世界でやっていく!」と啖呵を切ったとか?

そうです。ただ、啖呵を切ったのは、ジンみたいに、この仕事に対して「この道を行くんだ!」という強い思いがあったわけではなく…。生まれて初めての親とのケンカということもあって、思わず…(苦笑)。



――勢いで言ってしまった?(笑)

そうなんです。啖呵を切った手前、「お金がないのでやっぱり俳優の道はやめます…」とも言えないし…(笑)。「言っちゃった以上、簡単には戻れないよなぁ…」という思いでした。そこから、僕自身もこの仕事に対して、少しずつ興味ややりがいを感じるようになっていったんです。

――親御さんを見返したいという思いが先で、仕事の面白さにあとから気づく…順番が逆ですね(笑)。

もしも、最初のケンカがなくて「いいね。やってこい!」って気持ちよく送り出されていたら、この仕事を続けていなかったんじゃないかって思うんです。そういう意味で、いま思えば、新しい背中の押され方をしたんじゃないかって(笑)。



――映画の中のジンと父親(小林 薫)のやり取りにどんなことを感じましたか?

完成した映画で見たときは、懐かしさがありました。親が望む道と違う道に行こうとする瞬間――その分岐点は、多かれ少なかれ、誰しもが人生で経験するものなのかもしれない。自分の中で、それは俳優としてやっていくと啖呵を切った瞬間だったんだなって。同時に、僕自身、親に認められたい気持ちはずっと持ってたんだって気づかされました。

――実際、『シンケンジャー』以降も次々と話題作へ出演し、人気俳優としての道を歩み始めますが、その後、ご両親との関係性に変化は?

変化は時間がもたらしてくれました。あまり、僕が出た作品について、あれこれ言うタイプじゃないんですけど、朝ドラ(NHK 連続テレビ小説『梅ちゃん先生』)と大河(NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』)に出たときだけは、父親が「おぉっ!」って言いました。親に認めてもらううえで、材料として、NHKは大きいんだな、と(笑)。



「自分に課すハードル」が低くなることへの恐怖!



――ジンは、メジャーデビューを果たしてから、自分がやりたいこととやれること、求められることのギャップに葛藤しますが、松坂さんも、この世界に進んでから、そうした思いを抱くことはありましたか?

ありましたね。最初の頃は特に、ファンの方から見た僕――いわゆるパブリックイメージに沿った役柄がすごく多くて。それは、すごくありがたいことではあるんですが、やっていくうちにふと気づいたんです。

――気づいた? 何にですか?

パブリックイメージに沿った仕事をしていると、僕の場合、自分に対して課すハードルが、いつのまにか低くなってしまうんです。「松坂くんはこういうイメージだから、こういう感じで」という役ばかりやっている中で、作品に対する入り込み方が甘くなってしまっているんじゃないかと思って。

――すでに一度やったことから、大きく変える必要がないからでしょうか?

そうかもしれません。もちろん、パブリックイメージの通りの役を演じ続け、自分を貫き通してる俳優さんもいらっしゃいますし、それはスゴいことだなと思います。ただ、僕の場合、これをやり続けると、甘えが出てきてしまう。このまま30代、40代と年齢を重ねても、まったく成長していないんじゃないか? と怖くなったんです。



――そこで、自分にあえて重い負荷を掛けることを選んだ?

そう思い始めて、マネージャーさんとも話し合いをして「そろそろ、こんな役もやってみたいです」と伝えました。そこで先のことを一緒に考えてもらえたのは、すごく大きかったですね。

――そこから、徐々にいろんなタイプの役柄の話が来るように?

周りのみなさんの尽力があってこそですが、いままで出会ったことのないタイプの監督、共演者のみなさんとご一緒させていただき、これまでにない役柄のお話をいただけるようになりました。



――実際、ここ1〜2年で演じられた役柄は、これまでのパブリックイメージを裏切るもので、「え? これを松坂桃李がやるの?」と驚きをもって受け止められたと思います。

それまでは正統派な役柄、柔らかいイメージの作品がどうしても多かったですが、ちょうど変化を望み始めたタイミングで、『日本のいちばん長い日』(2015年)の畑中健二少佐の役をいただけたのはすごくありがたかったですね。

――日本の敗戦を受け入れられず、クーデターを画策する若き陸軍将校ですね。髪形も丸坊主にされて臨まれました。

ビジュアルも含め、しっかりと変化を出せる作品だったので、「ここでしっかり結果を残したい!」という気持ちは強かったですね。役所広司さんに本木雅弘さんなど、共演者の顔ぶれがスゴすぎて緊張もしましたが(笑)、こんな機会、めったにないぞ! という思いでした。