1話目はぶっつけ本番だった…『クズの本懐』制作秘話



――さて、ここからは『クズの本懐』についてお伺いしたいと思います。主人公の安楽岡花火(やすらおか・はなび)と粟屋 麦(あわや・むぎ)は、一見すると理想の高校生カップル。しかし、ふたりとも他に好きな人がいることを了解しながら一緒にいるのだった……こういうストーリーにしようと思ったキッカケは?

『クズの本懐』の前に準備していた、ハーレムものの打ち合わせでの会話からですね。今まで挑戦したかったけどさせてもらえなかったシリアスなエロをやってみたいと、私がふと担当編集さんに漏らしたら、「いいと思う!」って言ってもらえて。そこからキャラをぼんやり決めていってという感じです。

――キャラからなんですか。

冨樫先生が「キャラを動かして漫画を作る」とおっしゃっていたので、「なるほど」と(笑)。まぁ、冨樫先生はもっと綿密に計画してキャラを動かしてますけどね……。

――キャラをしっかりと考えてからストーリーを組み立てていくんですね。

と言っても、花火のラフな絵があるだけで、それ以外のキャラはみんなぶっつけ本番でした。

――ぶっつけ本番!?

1話目を書いたときは、そのときのことしか考えてなくて、ライブペイントみたいな感じでしたね。普通、連載前にはしっかり準備するものなんですけど、最初に考えていた内容と違うものを描き始めたこともあって、締め切りが一ヶ月後とかに迫ってて……。ふたりが偽りの恋人という設定も、描き始めて苦し紛れに出たアイデアなんです。「今の自分の実力で続けられるもの、取材もあまり必要のないワンアイデアものにしよう」と。






▲花火と麦は「お互いを好きにならない」「どちらかの恋がもし成就したら関係は終わり」「お互いの身体的欲求はどんなときでも受け入れる」という3つの条件のもと、“契約上の恋人”となる。愛する人のぬくもりを、相手に重ねて慰め合う日々……。






▲クラスの担任である鐘井鳴海こそ、花火の片想いの相手。しかし彼は、同僚の音楽教師・皆川 茜に惹かれている。そして茜は、麦の片想いの相手でもあるのだ。

――“偽りの恋人”は描きやすいモチーフなんですね(笑)。

そうですね(笑)。それと、『君は淫らな僕の女王』がウケた理由を自分なりに分析してみて、純愛モノである点がデカいと思ったんです。あれは直球だったので、『クズの本懐』では別の着眼点から純愛を表現したいと考えました。とにかくセンチメンタルなヤツを描きたかったんですよね。

――センチメンタル?

同人活動をしている頃は作風がセンチメンタルすぎて、あだ名が「センチメンタル」だったんです……黒歴史ですけど(笑)。高校生の頃に描いてた漫画も「思春期すぎる」と言われてました。その頃は自分自身が思春期だったから、背伸びしたい時期でもあるので、そう言われることが嫌だったんですけど、大人になった今では「思春期の子が一番漫画を読むじゃん。ラッキー!」って感じです(笑)。

――ライブペイント的とのことですが、『クズの本懐』は結末も全然決まっていない状態だったんですか?

まったく決まってなかったです。1話目が当時としては上手く描けたので「もうこれで終わりかな? これ以上どう描けばいいんだ?」みたいな感じでした(笑)。でも続きを描かなきゃいけないから「どうしよう!?」って……(1巻を手に取り)とりあえず2話目は、前回のおさらいから始めたんでしょうね(笑)。

――なるほど(笑)。

前回のおさらいが終わったらとりあえず夜にして、お風呂をサービスシーンで入れてみようとか、次に夜ごはんのシーンにすればお兄ちゃんを呼べるな、みたいな……そういう積み重ねで、私の漫画はできているんです。

――それはずっとそうなんですか?

いえ、1巻のときは超手探りでしたけど、キャラが固定してくるとキャラが“言いそうなこと”とか“やりそうなこと”っていうのが見えてくるので、だいぶ楽になってきますね。

――主人公の花火のキャラクターには、横槍さんのパーソナリティーは入っていますか?

すごく意見が割れるところですね。「まんまだね」という人もいれば、そもそも私の漫画自体に私らしさがまったく出ていなくて、「本当にあなたが描いてるの?」って本気で疑ってくる人もいるくらい(笑)。

――反応が真っ二つに割れるという(笑)。

『クズの本懐』も“文学系”とか言われるけど、私自身は全然文学的じゃないですからね。たぶん、タイトルの「本懐」をはじめ、本編でも難しい単語が出てくるからじゃないかと思います。私、語彙がヤバいんですけど、漫画だとちゃんと賢い単語が出てくるので、そこも疑われるポイントなのかも(笑)。

――語彙がヤバいと言いながら、どうして難しい言葉が出てくるんですか?(笑)

自分でも謎なんですよね。スピったときにこのタイトルが降りてきて方向性が固まったんですけど、「本懐」という単語がどこから出てきたのか……。たぶんどこかで見たことがあって、頭の片隅に残っていたんでしょうけど。

――では、花火らの高校に勤務する音楽教師で、究極の男好き・茜さん。このキャラクターは、どのようにして生まれたのでしょうか?

ぼんやりモデルになった人はいます(笑)。最初はもっと“正しすぎて嫌な人”っていう感じで描きたかったんですよね。それが、私と担当編集さんで「こんな女は嫌だよね」って話していたら、「そんなに嫌じゃない。やれない女よりやれてしまう女のほうがつらい」という男性の声を聞きまして……それでギリギリまで悩んで、結果的にビッチにすることに。







▲茜の歪んだ本音を知った花火は、あるひとつの決意をする。それぞれの恋心と、欲が渦巻くこじれた関係と、もつれる赤い糸の行方は……。

――たしかに、茜さんの本性が描かれるまでは、“本当にいい人”として読めますもんね。

そうなんですよ。迷いが出てますよね。私の中のオタク童貞男子が、その設定をなかなか許せなかったんでしょう(笑)。ビッチにすると割り切ってから、茜さんのキャラが爆発しましたね。あと、1巻の最後で花火が処女であることを表明したのが素晴らしいって声をいただいたんですよ。「そこはみんな安心して読みたい」って。でも、みんなが処女だと話が進まないから、花火と茜さんの、このバランスがよかったのかなと思います。

――『クズの本懐』は累計発行部数140万を超える大ヒットとなりましたが、たくさんの人に読まれている現状については、どう受け止めていますか?

……意外でした。私の作風や絵はキャッチーだと思うんですけど、作品自体は“私が商業誌でやりつつ、どこまでやりたいことができるか”っていうバランスを測る作品だったから。それがちゃんとヒットしたっていうのは予想外でしたね。



――そしていよいよ、2017年1月12日よりフジテレビ“ノイタミナ”にて放送がスタート。アニメ化のお話を最初に聞いたときは、どう思いましたか?

すごく嬉しかったです。でも、やっとこういうステップを踏める段階に来て一安心という感じでもありますね。

――アニメ化にあたり、横槍さんのほうからアニメ制作サイドに伝えた要望などはあったのでしょうか?

けっこう伝えてるほうだと思いますが、お互いの領域を大事にしたいとも思っていて。私はアニメも好きですけど専門ではないので、素人だという気持ちで打ち合わせに臨んでいます。安藤正臣監督とはお話をしていて、解釈が違うということが一切ないので、本当に作品をよく理解してくださっているなぁと感心するばかりです。

――そうなんですね。監督の作品理解が素晴らしいと聞いて、ますますアニメが楽しみになりました。

監督はこのセリフやシーンをどうしても入れたい、といったこだわりがあって、でもアニメは尺が決まっているし、削ったりする必要がある部分も出てくると思うんですけど、その狭間でめちゃくちゃ思い悩んでいて……。横目で見ていても、ほんっとにおつらそうで…むしろ原作者は「しょうがないとこはとっちゃってください」くらいの感じなんですけど(笑)。それくらい原作を大切に思ってくださっているんだと思います。




――アニメをキッカケに、原作を手に取る方も増えるかと思います。『クズの本懐』ファンの方、そしてこれから読む方に向けて、メッセージをお願いします。

基本的に、原作とほとんど同じものを表現してもらっていると言っていい内容になっています。ですので、媒体の違いを楽しんでもらえればなと思います。アニメから漫画を手にとってもらう方は、場所も時間も自分で選んで読めるという漫画独自のリズムで、『クズ』の世界観を味わってもらえれば嬉しいです。


▲楽しいお話を聞かせてくださった横槍メンゴ先生。ありがとうございました!

【プロフィール】
横槍メンゴ(よこやり・めんご)/漫画家。イラストレーター。1988年2月、三重県生まれ。2009年、『マガジン・ウォー』(サン出版)でデビュー。2012年、『週刊ヤングジャンプ』(集英社)にて岡本 倫原作『君は淫らな僕の女王』を連載し、注目を集めた。現在、『月刊ビッグガンガン』(スクウェア・エニックス)にて『クズの本懐』、『ミラクルジャンプ』(集英社)にて『レトルトパウチ!』を連載中。『クズの本懐』は6巻まで刊行されており、12月24日に最新7巻と公式ファンブックが発売。また、2017年1月12日よりフジテレビ“ノイタミナ”にてアニメの放映が開始となる。
【Twitter】@Yorimen

◆クズの本懐 7 巻
発売日:12/24(土)
著者:横槍メンゴ
掲載:月刊「ビッグガンガン」(スクウェア・エニックス刊)
定価:562円(税別)


◆クズの本懐 7.5 公式ファンブック Ambivalent
発売日:12/24(土)
原作:横槍メンゴ
制作:スクウェア・エニックス
定価:857円(税別)


クズの本懐 | ビッグガンガン | SQUARE ENIX
http://www.jp.square-enix.com/magazine/biggangan/introduction/kuzu/

TVアニメ 「クズの本懐」 オフィシャルサイト
http://www.kuzunohonkai.com/


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★★横槍メンゴさんの直筆サイン入り『クズの本懐』1〜6巻をセットにして、抽選で3名様にプレゼント★★

今回インタビューさせていただいた、横槍メンゴさんの直筆サイン入り『クズの本懐』1〜6巻をセットにして、抽選で3名様にプレゼント。なお、直筆サインが入るのは1巻のみとなります。
ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

■応募方法:ライブドアニュースのTwitterアカウント(@livedoornews)をフォロー&以下のツイートをRT


■受付期間:12月19日(月)18:00〜12月25日(日)18:00

■当選者確定フロー
・当選者発表日/2016年12月26日(月)
・当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、発送先のご連絡 (個人情報の安全な受け渡し) のため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
・当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから12月26日(月)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき12月29日(木)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。

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