“虚栄心”に際限ナシ「トランプ氏」 紙幣に肖像、豪華宴会場、秘密の手紙…見え隠れするのは「死への恐怖」か
米国民「個人貯蓄率」が悪化
米国とイランの間の停戦協議が難航している。イランの革命防衛隊に近いタスニム通信は6月1日、イランの交渉チームが仲介者を通じた米国との協議を停止したことを報じた。
【写真】すべて俺色に染める…トランプ氏が“わかりやすく変えた”ものたち
イスラエルがレバノンとの停戦合意を破っているのがその理由だ。トランプ米大統領は交渉妥結に向けて妥協する姿勢を示しているが、依然として不透明な状況が続いている。
米国民は中東情勢の悪化で大きな打撃を被っている。米商務省が28日に発表した4月の個人貯蓄率は2.6%と、2022年6月(2.2%)以来の低さとなった。4年前は新型コロナウイルス後の「リベンジ消費」が盛り上がったが、今回はガソリンをはじめ燃料価格の高騰で支出が大幅に増加した結果だ。

米国では昨年7月に成立した大型の減税・歳出法により、今年春の確定申告(タックスリターン)で受け取る還付金が大きく増えた。米シンクタンクのタックス・ファンデーションは前年比で平均748ドル(約12万円)の増額になると試算しているが、足元の物価高がこれを台無しにした形だ。
インフレの再燃も心配だ。4月の個人消費支出物価指数は前年に比べて3.8%上昇し、2023年5月以来の大幅な伸びとなった。
相変わらず暗い住宅市場
米連邦準備理事会(FRB)はウォーシュ新議長就任後初の米連邦公開市場委員会(FOMC)を6月16日に開催する。だが、トランプ氏が求める利下げではなく、利上げに踏み切る可能性が高いとの見方が広がっている。
インフレ懸念による長期金利の上昇を受けて、米住宅市場にも陰りが見えている。住宅ローン金利の高さが災いして、米抵当銀行協会の直近のローン申請件数を示す総合指数(週次ベース)は中東戦争開始前の2月末に比べて25%低下した。
今年の米国も猛暑との見通しがある中、トランプ政権が後押しするAI産業の振興が住宅地域の気温を上昇させることもわかってきている。
米アリゾナ州立大学の研究チームは5月下旬、フェニックス都市圏に立地するデータセンター4カ所を対象に周辺地域の変化を測定した結果、近隣住宅街の気温が最大2.2度も上昇したとする調査結果を明らかにした。
水や電気を大量に消費するデータセンターは米国でも「迷惑施設」と位置付けられるようになっており、“データセンター近隣に住むぐらいなら、原発の近くの方がまし”という声が出ているほどだ。そのうえ、都市部の温度上昇を助長するとなれば、各州で起きているデータセンター反対運動は一層激化するのではないだろうか。
トランプ氏の健康問題に関心
政権2期目のトランプ氏は、連日のように派手なパフォーマンスを続けているが、その一方で同氏の健康問題に関心が高まっている。
6月14日に満80歳となるトランプ氏は26日、ウォルター・リード軍医療センターで政権2期目に入って3度目の健康診断を受けた。
ホワイトハウスが29日に発表した主治医の診断結果は、トランプ氏は心臓や肺などの身体機能や認知能力などは極めて良好な健康状態を維持し、大統領としての職務を十分に遂行できるというものだ。ただ、昨年4月の診断時より体重が約6キロ増えており、ダイエットや運動に取り組むよう助言している。
前任のバイデン氏を「スリーピー・ジョー(眠そうなジョー)」と揶揄し、力強さと活力というイメージを政治的ブランドとして築き上げてきたトランプ氏はさぞや胸をなでおろしたことだろう。
「虚栄事業」に共和党内から懸念
だが、トランプ氏への懸念はこれで払拭されたわけではない。
11月の中間選挙を前に、共和党関係者はトランプ氏の暴走に眉をひそめている。ロイターは24日、トランプ氏がホワイトハウス東棟跡地でボールルーム(宴会場)建設への執着を強めていることに、共和党内から懸念の声が上がっていると報じた。
国民がガソリン価格高騰に苦しんでいるのにもかかわらず、虚栄的な事業と批判される計画に突き進むトランプ氏の姿が有権者の反発を招くとの心配だ。
トランプ氏の「虚栄事業」はまだある。
ベッセント財務長官は28日、建国250周年事業の一環としてトランプ氏の肖像が入った250ドル紙幣の発行を準備していると発表した。法律上、存命中の人物を紙幣に描くことができないため、共和党が議会に発行を可能にする法案を提出しているが、成立する目途が立っていない。
死亡時に備え「秘密の手紙」を保管?
傍若無人ぶりを続けるトランプ氏だが、意外な行動にも出ている。
米メディアは5月中旬、トランプ氏は自身が在任中に死亡した場合に備え、バンス副大統領宛の秘密の手紙をホワイトハウス執務室に保管していると報じた。
最初の大統領候補時から第1期政権、そして現在まで、トランプ氏は何度も命を狙われている。しかし、それに怯える様は見せず、むしろ際立った冷静さで対処してきた。直後の記者会見にタキシード姿で現れた、4月26日の夕食会銃撃事件はその好例だ。
だが、内心は違うようだ。
CNNは27日、トランプ氏が身の安全を常に意識しており、それが強迫観念にならないよう心掛けているとする関係者の証言を伝えた。
死への恐怖に打ち勝つための必死のあがきとして、トランプ氏は自身の偉業を後世に残せる虚栄事業にまい進しているのではないかと思えてならない。だが、そのせいで米国の分断がさらに進んでしまうことは間違いないだろう。悩める超大国の今後の動向について、引き続き高い関心を持って注視すべきだ。
藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。2026年3月末日で経産省を退職。
デイリー新潮編集部
