ウクライナ戦争に疲弊で家計も逼迫、消費も停滞…プーチン・ロシアが経済困窮で解体にまで陥る可能性
インフレ率公式発表5.9%? そんなに低いわけない
先日、私は「ウクライナのドローン技術とドローンの生産量が大幅に向上していて、今や輸出余力まで生まれ、イランの攻撃への対処能力を高めたい湾岸諸国に対して、専門家の派遣を含めた様々な支援を行うまでになっている」「アメリカもこうした支援を受け入れるようになっており、今後のウクライナとロシアの戦争においてのトランプ政権の姿勢にも影響を与えるだろう」ということを解説した(5月4日公開「イラン戦争が終われば、トランプが『先端軍事技術大国』ウクライナに擦り寄っていくのが必然と言える理由」)。
今回はそのことに少し関連する話題として、ウクライナとの戦争を続けているロシアの経済がどうなっているのかについて扱う。先行きが暗いロシアの経済状態を見ていっても、トランプ政権がロシアを見捨てる動きにつながるのではないかというのが、私の判断だ。
そもそもロシア経済の悪化は、政府の公式統計でも隠せなくなってきた。ロシア経済省の公式発表によっても、今年のロシアの1〜3月のGDPは、前年同期比で0.3%減と、マイナス成長となった。「公式発表によっても」と私が記したのは、この数字を信じることなど、まるでできないからだ。
ロシアのインフレ率は、公式発表では5.9%だが、そんなに低いはずがない。というのは、ロシア中央銀行が定める政策金利は4月24日に引き下げられたものの、それでもいまだに14.5%もあるからだ。なお、ロシア中央銀行のナビウリナ総裁は、2026年の政策金利の平均値の見通しを、従来の13.5〜14.5%からやや厳しめの14.0〜14.5%に引き上げ、次回の金融政策決定会合では利下げはなさそうなニュアンスを既に醸し出している。
このナビウリナ総裁の利下げに消極的な姿勢は、ロシアの公式統計を信じる限りは理解不能だ。ロシア経済がかなり悪い状況にあることは、もはや誰にも否定できないところまで来ている。にも関わらず、5.9%のインフレ率の経済で、政策金利をこのインフレ率を8.6%も上回る14.5%にしておかなければならないというのは、どう考えてもありえない。何せ、これによって企業向けの貸出金利は、18%から25%となっているのだが、これは実質金利が12〜19%程度あることになる。
ナビウリナ総裁は、ロシア経済に足りないのは供給力だと理解しているのだから、企業が生産力拡大や省力化に向かえる投資を積極的に進められるようにしないと本来おかしいはずだ。唯一理解可能なのは、公式発表ではインフレ率統計を大いにごまかしていて、実際のインフレ率は政策金利にもっと近いとみることだ。これを前提とした場合、ロシアの実質GDPは実際にはかなり大きなマイナスに落ち込んでいることになる。
戦争資金のため搾り取れるだけ搾り取れ
ロシア政府は今、戦争資金を賄うために、企業からも国民からも搾り取れるだけ搾り取りまくっている。
2025年に法人税率は20%から25%へと5ポイントも引き上げられ、天然資源の採掘に関わる課税も大幅強化された。原油の場合には、港で船積みする段階での原価は、1バーレルあたり50ドル以上に上昇したと見られているが、これは石油の採掘コストや人件費が上昇したことよりも、増税の果たしている役割が圧倒的に大きい。個人所得税の累進課税も導入され、今年の年初からは、日本の消費税に相当する付加価値税が、20%から22%に引き上げられた。恐るべき大増税が進められたのである。
ところで、昨年の6月の段階で、ロシアのレシェトニコフ経済発展相は、国内経済はリセッションの瀬戸際にあるとの見方を示していた。にも関わらず、翌月の7月には先に示したような大型増税が決まり、実施に移された。ロシア政府の財政がどれほど追い詰められているのかが、ここからもよくわかる。
ここでもう一つ注目したいのは、2026年度の軍事予算が、前年の13兆5000億ルーブルから13兆ルーブルへと、4%ほど低下したところだ。インフレが進んでいることからすれば、実質的には1割から2割程度の削減となるが、プーチン政権からすれば最優先したい軍事予算を大幅に削らなければならないほど、ロシアの政府財政は崖っぷちなのだ。
軍需品の生産を担う企業には、増産要求がなされる一方で、買取価格については厳しい抑制も求められており、必死に生産を拡大しても、それに応じた利益は出ない状態だ。めちゃくちゃ忙しいとしても、利益が出ないのであれば、必要な投資を行う余裕が生まれるわけがない。
家計も逼迫、消費も停滞
こうして、忙しくてたまらないはずの軍需関連企業の中にも、普通だったら潰れてしまうレベルの企業が結構あるのだが、こうした企業を生き延びさせるために、政府は銀行に対し、軍需関連企業への優遇融資を義務づけて、企業の延命を図っている。これによって何とか命脈を保っている企業も多く、この不健全な貸出状況に対して銀行側は危機感を募らせている。
ロシアの銀行最大手の国営ズベルバンクのグレフCEOは、貸出債権の質の悪化が続いていると、すでに昨年6月の段階で警鐘を鳴らしていた。昨年7月には、ロシアの大手銀行3行が、政府による救済要請を内々に議論したとも報じられた。今年2月には、モスクワ信用銀行が昨年の10〜12月期に、90億ルーブル(180億円)の純損失を計上し、貸し出し残高の28%が延滞債権になっている異常事態を明らかにした。
このように、どうしても戦費調達を強めざるをえない中で、ロシア政府は国民と企業に対する収奪路線を推し進め、銀行にも無理を強いてきたのだが、これによって需要自体も失われてきている。つまり、圧倒的な供給不足で、本来供給力を高めて国民の需要を満たすようにしなければならない経済で、逆に需要が弱ることで需要と供給がバランス状態に近づくという調整が、今ロシア経済で進んでいるのだ。それにより、先に示したようなマイナス成長が進んでいるのである。
インフレ統計が完全に間違っていることを前提とすれば、人手不足で実質賃金が上昇してきたという話もウソになる。名目の賃金は確かに上昇してきたが、インフレの方がもっと激しく、実質賃金は目減りしてきたと見るべきなのだ。そして実質賃金の目減りを、家計は借入を増大させることでしのいできたが、この対応も行き詰まってきたのが実情だろう。体制派メディアのイズベスチャによっても、2025年末の段階でのロシアの家計債務のうち100%支払不能と判定された債務だけでも2.4兆ルーブル(4.8兆円)を超え、銀行が保有する家計向け債権のうち約7%にまで上昇していると報じられている。
経済環境が苦しくなっているのは、ロシア人の消費行動にも表れている。ロシア国内最大の食品小売業者X5グループのロバチェヴァ社長は、低価格商品に対する需要が急激に増加したと語っている。X5グループには、激安チェーンのチジクという新興の運営店舗ブランドがあるが、チジクの売上高は2025年に67%増の4170億ルーブルとなり、これまでの主力のピャテロチカの5310億ルーブルに、一気に肉薄した。今年はチジクの売り上げがピャテロチカの売り上げを超えるという見込みを、ロバチェヴァ社長は持っている。
イラン戦争で石油市況高騰もプラスにはならず
ところで、イラン情勢を反映して石油の値段が上がっていることが、ロシア経済を引き上げることにつながると考える向きもあるが、私はこの見方には懐疑的だ。
懐疑的である理由の1つ目は、以前と比べると、ルーブルの対ドルレートがかなり上がっているということが関係する。以前は1ドル=100ルーブル程度だったが、現在は1ドル=75ルーブル程度だ。1ドル=100ルーブルの時には、1バーレル=60ドルであれば、それはロシア国内では6000ルーブルの価値があった。1ドル=75ルーブルとなった現在では、1バーレルが同じ6000ルーブルの価値を保つためには、1バーレル=80ドルでなければならない。だから、1バーレル=100ドルを超えたといっても、1ドル=100ルーブル時代ほどのインパクトは失われている。
さらに言えば、6000ルーブルの価値が戦争前と現在では全く違う。先に見たように、ロシアでは2桁インフレが進んできたのであり、現在の6000ルーブルは戦争前の4000ルーブル程度の価値しかないはずだ。
もちろん、今の高い石油価格が長続きすれば、確かにロシア財政を支える力になることは間違いない。だが、この状態がそれほど長く続くのだろうか。
今はペルシャ湾に面しない世界中の産油国が増産に動いているが、やがてイランの問題が片付くことになれば、そこにペルシャ湾岸諸国の石油生産が回復してくることになる。そして、世界の石油供給は逆に大きく増えて、一気に供給過多に陥ることになる。そうなると、ロシアの石油輸出を世界が必要としなくなっていくことになる。その結果、西側のロシア制裁は抜本的に強化され、ロシアの石油輸出は今以上に厳しく制限されることになるだろう。崩れた需給関係の回復を望むOPEC諸国も、このロシア制裁に同調する動きになるだろう。そうなると、ロシアは外貨獲得が厳しく制限されることになる。
懐疑的である理由の2つ目は、ウクライナによるロシアの石油関連施設や港湾に対する攻撃が、石油や石油関連製品の輸出能力をかなり毀損させていることだ。
以前はロシアの石油輸出は日量500万バレルと言われていたが、今やロシアの石油の輸出余力はその20%にあたる日量100万バレル分低下し、今は日量400万バレル程度だと見られている。ウクライナはドローンの生産拠点をウクライナ国外にも広げており、ウクライナによるドローン攻撃の能力が今後さらに高まるのは確実だ。ロシアの石油関連施設に対する打撃は今後さらに進み、輸出能力はさらに削られていくのは確実だ。
さらに言えば、火の車状態になったロシア財政にしてみれば、目先の収入増は財政立て直しの資金とするはずで、国民生活の向上に寄与するような使い道に回るようなことはありえないだろう。
やがて政府に裏切られる国民
さて、経済的な厳しさは、ロシアの地方政府を直撃している。ロシアの地方政府は、志願兵とその家族に対する手当の支払いを担わされており、戦争が長期化する中で、この負担が非常に重たくなっている。目下の経済状況を受けて、企業利益は前年比で30%減少した。これにより、税率を引き上げたにも関わらず、地方税収の1/3を占める法人税収も落ち込んでいる。この結果として、2026年は地方政府予算の赤字総額が27%増加するとの見通しを、シルアノフ財務相が発表する状況に陥っている。恐らく現実はもっと厳しいのではないか。
ところで、ロシアの地方政府は本来進めるべきインフラ投資などをキャンセルして、目先の財政を何とか賄おうとしているが、これにより地方経済の衰退は大都市以上に厳しいものになっている。こうして苦しい生活を強いられる中で、その苦しさから脱却できる唯一の道が、ウクライナとの戦争に兵士として志願することになっていて、これが志願兵を集める力として働くという、笑えない現実も広がっている。
だが、彼らに約束されたはずの長期にわたる支払いを行える経済的な力が、ロシアの地方政府に備わっているはずもなく、かといって中央政府がそれを肩代わりできるわけもなく、最終的にはこの約束は反故にされるのは避けられないだろう。
そしてそれがいつか明らかになった時に、地方に住む非スラブ民族の人たちが、それぞれの民族ごとにロシアからの独立を志向して、一斉に動き出すことになるのではないか。仮に一地方だけで独立騒動があったとしても、ロシア政府は弾圧して抑え込むことはできるだろう。だが、ロシア全土で少数民族の独立を求める動きが一斉に出た場合に、これを止める力はさすがにないだろう。
プーチンのくだらない野望から始まったこの戦争は、最終的にロシアの解体に向かう可能性をも秘めているのだ。
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