歌舞伎と融合した「氷艶」で誕生した高橋大輔の「伝説の演目」。鍛え上げた肢体が魅せたもの

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高橋大輔さんが主演、座長を務めてきた、フィギュアスケートと日本文化が融合した氷上総合エンタテインメント「氷艶」シリーズ。そこで競演してきたスケーターと歌手や役者など、異なるルーツを持つ表現者たちが氷の上で溶け合い、共鳴しながら演技するアイスショー「The MELT -Cross of Roots-」が5月2日から5日まで新横浜スケートセンターにて、全12公演行われた。ライターの田中亜紀子さんが2回に分けてレポートする第1回は、昨年の「氷艶」でW主演を務めた増田貴久さんも出演した5月2日の公演を前後編でお届けする。

狐面をかぶった「異形の者」が

静寂の中、ライトがあたると、そこに異界が出現していた。佇んでいるのは、狐面をかぶった異形の者。全身から発するオーラに、みなが息をのんで見つめる刹那、拍子木の音を合図に、異形の者が、氷の上で舞い始める。三味線の音とリズムにのって大胆に滑る姿から、目が離せない。それ自体が衣装のような、むきだしの腕の筋肉が生き物のようにうねうねと動き、ちんとんしゃん、という独特なリズムに合わせて、音を刻んでいく。鍛えあげた男性の身体なのに、所作は艶めかしい女性のような、不思議な生き物。音楽に合わせ、徐々に手踊りの動きがはげしくなり、見るものをひきつけ、異界へと誘い込むかのようなスケートに、現実世界と異世界との結界がとけていく。

9年ぶりに披露された、日本舞踊とヒップホップの手踊りが融合した高橋大輔さんの伝説の「阿国の舞」のスケートバージョンは、こんな風に始まった。

この異世界が出現した舞台は、アイスショー「THE MELT-Cross of Roots-」(以下、THE MELT)。の中盤だ。松本幸四郎さん(当時は市川染五郎)の「歌舞伎オンアイスがあってもいいじゃないか」という着想が元で実現した、

2017年の歌舞伎とフィギュアが融合した「氷艶 hyoen 2017 -破沙羅」。そこから始まり、ミュージカルや芝居仕立てのものなど、様々な作品が生まれた「氷艶」シリーズはフィギュアスケートと日本文化が融合し、スケーターだけでなく、役者や歌手など異種の演者たちが、一堂にあつまって競演する氷上総合エンタテインメントだ。今回の「THE MELT」は、その氷艶に出演経験がある、異なるカテゴリーの演者たちが、氷の上でジャンルの枠を超えてとけあうように演技するという新しいアイスショー。演出を手掛けるのは「氷艶」シリーズでずっと、演出や所作、日本舞踊の指導や振り付けなどで関わってきた、「氷艶のすべてを知る男」尾上菊之丞さんだ。

始まったことに気づかないオープニング

さて本番。実は、舞台が始まったことに最初は気づかなかった。出演者たちがぽつぽつとリンクにあらわれ、試しに滑ったり、各自身体をほぐしたり、バケツを持った女性が氷を整えたりと、思い思いの行動をしている。これが舞台の始まりで、大勢がリンクに入ってきたところでオープニングにつながる。オープニングは、スケーターだけでなく、アーティストたちも氷の上で普通に滑り、氷上で歌う。とにかくみなが、氷上にいるのが楽しそうなのが、見ていて微笑ましいし、美しい。

前半は、勢いのあるナンバーあり、役者の方たちの朗読にあわせたスケートあり、「LUXE」の演目を想起させるようなナンバーありと、場面は目まぐるしく展開していく。

中盤に役者の方がMCを務め、スケーターが演技を観客に問うて競う、観客参加型の「リリックバトル」という時間があった。この日のMCは、大野拓朗さんが担当していた。非常に生き生きと客席をあおっている姿が印象的だ。この時間は、観客はスマホのライトをつけ、「氷艶」3作目のテーマである「銀河鉄道の夜」に寄せた銀河の星々として参戦。財木琢磨さんと青山凌大さんがそれぞれの推しとして、各日違うスケーターを指名し、そのスケーターの演技でよかった方に観客が星をかざして勝敗を決める試みだった。会場が盛り上がった後、MC担当が、今回出演メンバーたちの縁は、「氷艶」にあること。ここから先は「『氷艶』を感じる演目」であることを告げる。

そして暗闇の中で、高橋大輔さんがリンクに入ってきて、大歓声の中、スタート位置につくと、一転、静寂が訪れた。

松本幸四郎さん率いる悪の軍団に乗り込んだ「伝説の演目」

と、ここからが冒頭に書いた、「阿国の舞」の始まりとなる。この演目は、「氷艶」シリーズの初回、歌舞伎とフィギュアスケートが合体した「氷艶 hyoen2017−破沙羅−」の中で高橋大輔さんがサプライズで舞ったものだ。源義経役を演じていた高橋さんが、松本幸四郎さん(当時、市川染五郎)演じる仁木弾正率いる悪の巣窟に、遊女に扮して潜入。そこで、スケート靴をはかずに、つまり、高橋さんの最大の武器であるスケートを封じ、氷の上にしつらえた台の上で、東京ゲゲゲイ振り付けの日本舞踊と手踊りのヒップホップを合体させた舞で、代々木体育館を熱狂の渦にまきこんだ、伝説の演目なのだ。今回は、その舞を、スケートの演目に落として、新たなものとして披露されると、事前から報道されていた。

登場後、狐の面をつけたまま、すり足のようなムードで滑ってくる。スピードをあげながらも余裕をもって、三味線にあわせて滑る高橋さんが、氷の上にライトで示された四角いスペースでぴたりと止まる。そこで長唄にあわせた手踊りを披露するが、スケート靴の刃で氷の上に立っているというのに、下半身はどっしりとゆらがず、筋肉の腕と上半身はリズムをキレッキレに刻む。どれほど体幹が鍛えられているのだろうか。またあれだけの複雑なリズムを刻む手踊りの迫力が増し、生き生きと腕の筋肉が踊っている。

不思議なのは、前述もしたが、筋肉のついた男性の身体でありながら、背中や肩甲骨の動きをはじめ、所作に女形のような艶めかしさが宿っていること。手踊りのパートが終わると、狐面の不思議な生き物が観客のほうにむかい、異世界に誘うように、妖しく、そしてスピーディーに迫ってくる。手拍子がまきおこる中、悠々とリズミカルにリンクを泳ぎ、鼓の音と共に首をぐるりとまわし、フィニッシュ。はっと現実に戻った観客がまたしても熱狂の渦に。17年の阿国の舞とはまた違う、様々な経験をしてきた高橋大輔さんだからこその、円熟した、あやかしの舞が生まれた瞬間だった。

2017年から振り返ると…

思えば、17年の高橋さんは、最初の現役引退をした後で、最初の「氷艶」をはじめ、いくつかの体験から、スケートを軸にパフォーマーとして生きていきたいと決意をし、18年に現役復帰。19年に村元哉中さんと組んでアイスダンスへ転向。17年の時は、まだ華奢な若者だった高橋さんが女装した姿で舞ったが、今回はカップル競技で鍛え上げた筋肉、そしてアイスダンスの引退の後、氷艶シリーズで歌やセリフ、映画出演など様々なエンタメに挑戦した経験をもって臨んだ。

女形のような所作の艶めかしさは、昨年出演した「名古屋をどりNEO傾奇者」で、西川流の家元、西川千雅さんと二人で鷺娘を踊った経験やその稽古に入って所作や舞を間近で見た経験も大きいのではないかと推測する。また、前回の時のことを、パンフレットで「東京ゲゲゲイの振り付けを陸で踊ることはすごいプレッシャーだったが、それを乗り越えたことは一つの自信となった」*と語っている、そのうえで今回については「様々な経験を経てきた自分自身の成長を感じていただけるものになれば」と自信をのぞかせる。

やまぬ歓声の中、義経の装束で出てきた中田璃士さんと高橋さんが交差して滑り、タッチ交代。義経の舞は、17年の「氷艶」では、高橋さんが演じたプログラムだが、今回は中田さんがフレッシュに、若武者として舞った。中田さんは世界ジュニア選手権で優勝し、今年シニアにあがる若手スケーターだが、実に氷艶の初回では8歳で子役として、2回目の「氷艶2019‐月光りの如くー」でも、ステファンランビエールが演じた朱雀帝の子供時代を演じた、「氷艶」のベテランなのだ。さらに舞台は、「氷艶」の音楽でのプログラムですすんでいく。いよいよ増田貴久さんの登場だ。

◇増田貴久さんは、堤幸彦さん演出の「氷艶 hyoen 2025 -鏡紋の夜叉-」で高橋大輔さんとW主演をしていた。多忙な中、アイスショーにどのように登場したのか。詳しくは後編「増田貴久が歌い、高橋大輔と躍り、滑る。第一線でアイドルで居続ける人の「力」」にてお伝えする。

The MELT -Cross of Roots- 日テレプラスにて放送

【5/3公演】7/25(土)17:00

【5/4公演】8月放送予定

◆出演

スケーター

高橋大輔/荒川静香/村元哉中/織田信成/田中刑事/友野一希/中田璃士/橋本誠也/小沼祐太/吉野晃平(「吉」は正しくは上が土)/中野耀司/大島光翔/佐藤由基/西田美和/中西樹希/望月美玖/占部亜由美

【5/3公演】アーティスト

増田貴久/大野拓朗/エリアンナ/財木琢磨/長谷川開/青山凌大

【5/4公演】アーティスト

平原綾香/福士誠治/大野拓朗/エリアンナ/財木琢磨/長谷川開/青山凌大

【後編】増田貴久が歌い、高橋大輔と躍り、滑る。第一線でアイドルで居続ける人の「力」