『風、薫る』写真提供=NHK

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 放送が始まって、早くも2カ月目に突入したNHK連続テレビ小説『風、薫る』。本作は、看護師という職業がまだ確立されていなかった明治時代に、その道を切り拓いた一ノ瀬りん(見上愛)と大家直美(上坂樹里)の人生を描く物語だ。

参考:伊藤沙莉を支えた魔女5の“チーム力” 『虎に翼』が描き出す、彼女たちの“等身大の姿”

 嫁ぎ先での理不尽な扱いに耐えかね、娘を連れて家を出たりんと、孤児という生まれゆえに差別を受け、仕事や縁談にもありつけなかった直美。背景は異なるが、2人とも男性に頼らない生き方を手にするため、大山捨松(多部未華子)の導きで日本初のトレインドナース(※正規に訓練された看護師)を目指すことになった。

 “女性の社会進出”というテーマを内包しているという点では、主人公の猪爪寅子(伊藤沙莉)が女性法曹のパイオニアとなって活躍する2024年度前期の朝ドラ『虎に翼』と共通している。特に第5週からスタートした「看護婦養成所編」は、『虎に翼』で第2週から第6週にかけて描かれた「明律大学編」と重なる部分が多い。

 東京の梅岡女学校に新設された看護婦養成所に入学したりんと直美。そこで出会うのは、寅子が一緒に法律を学んだ明律大学女子部法科のメンバーを彷彿とさせる個性豊かな同窓生たちだ。菊池亜希子演じる泉喜代は最年長ということもあり、常に一歩引いた視点で同窓生を見守る“お母さん”のような存在。また数少ない結婚の経験者であり、女子部法科で唯一の既婚者だった大庭梅子(平岩紙)を思い起こさずにはいられない。梅子は自分を蔑ろにする夫と離婚し、子どもたちの親権を獲得するために法律を学んでいた。喜代もまた諸々の発言から察するに、結婚していた頃には良い思い出がないようだ。嫁ぎ先を出た理由や子供の有無はまだ明らかになっていないが、彼女が看護師を目指しているのにも何か深いわけがありそうである。

 生田絵梨花演じる玉田多江は父は旧幕府の奥医師で、兄と弟も医者という医療に近しい環境で育った。上等な着物を身につけ、いつも姿勢を正している多江。その育ちの良さを感じさせる雰囲気や凛とした表情が、どこか華族のお嬢様・桜川涼子(桜井ユキ)と重なる。涼子は雑誌にも取り上げられるほどの有名人であり、女性たちのファッションアイコンだった。そういう意味では、呉服屋の娘でナースの洋服に憧れて養成所に入った木越明演じる柳田しのぶも涼子に近い部分があるかもしれない。

■『風、薫る』工藤トメ(原嶋凛演)は『虎に翼』崔香淑(ハ・ヨンス)? 原嶋凛演じる工藤トメは弱冠20歳で、青森の津軽から上京してきた農家の娘だ。表情にどこかあどけなさを残しているが、誰よりも空気が読め、状況に応じてうまく立ち回るしっかり者の片鱗も見え隠れする。見知らぬ土地で勉学に励んでいる、みんなのムードメーカーとくれば、キャラクターとして近いのは朝鮮半島からの留学生・崔香淑(ハ・ヨンス)だろう。視聴者からも“ヒャンちゃん”と呼ばれ、親しまれた彼女のように、トメもお茶の間に愛されるキャラクターへと成長していく未来が見える。残るは、中井友望演じる子爵の娘・東雲ゆき(中井友望)だが、『虎に翼』にはこのタイプの人物はいなかった。ただし、ナイチンゲールを信奉し、折りにつけてその魅力を熱弁する彼女は、寅子たちが女子部卒業後に進学した法科で出会う轟太一(戸塚純貴)に匹敵するキャラの濃さだ。

 一人ひとり個性の強い彼女たちは入学早々、激しく反発し合う。『虎に翼』では、男装の山田よね(土居志央梨)が入学してしばらくは孤高の存在を貫いていたが、他の同窓生たちは特に揉め事を起こさずに過ごしていた。養成所のメンバーはより自己主張が激しいため、ハラハラさせられることも多く、そこが両作品の大きな違いではないだろうか。

 また共通点で言えば、りんと直美のキャラクターや関係値は、寅子とよねを彷彿とさせることも。特に直美が抱える背景や性格は、よねのキャラクターを意識したものになっているように思う。養成所へ入学するにあたって、日本髪が当たり前の時代に髪を切ってきた点や、一人だけ色のない質素な着物を着用しているところも非常に象徴的だ。どちらも時代に迎合せず、馴れ合いを嫌い、世の中のあらゆる理不尽に対して怒りを抱えるキャラクターである。対して、りんは寅子ほどの“チャキチャキ感”はなく、むしろおっとりとした印象だが、意外と大胆で物事を強引に進めることも多い。その点で寅子と似ており、有無を言わせない笑顔で直美を自分のペースに巻き込んでいくところなんかはそっくりだ。りんと直美も、寅子とよねのようにぶつかり合いながら唯一無二の友情を築いていくのだろう。

 看護師にしても女性法曹にしても、時代を先取りする生き方は往々にして反発を招くもの。女子部法科は、同じ大学内の男子生徒たちから“魔女部”と揶揄され、法廷劇でも妨害を受けていた。看護の先生・バーンズ(エマ・ハワード)にシーツ交換や校内の掃除ばかりさせられているりんたちもまた、女学校の生徒から女中のような扱いを受けている。特に女学校から養成所に転入したゆきは元同級生たちから集中砲火を浴びがちで、その度に曇っていく表情が気がかりだ。また多江は看護の勉強を嫁入りの一環としてしか捉えられていない父に縁談を進められる。『虎に翼』では、涼子が家を守るために結婚、香淑が日中戦争の勃発に伴って母国に帰国するなど、寅子の仲間たちが様々な理由で一人、また一人と志半ばで法曹の道から去っていった。看護婦養成所の同窓生からもいずれ脱落者が出るのだろうか。『虎に翼』の「名律大学編」とも比較しながら、「看護婦養成所編」の今後の展開に注目したい。(文=苫とり子)