「痛風予防」の新常識。レバーや干物より「納豆」を選ぶべきメリットとは? 【医師解説】
「納豆はプリン体が多いから痛風に悪い」と心配されている方も少なくありません。実際のところ、納豆のプリン体含有量はどの程度なのでしょうか?痛風リスクがある方が納豆と上手につき合うための食事の工夫と、尿酸値を管理するための生活習慣のポイントを詳しく説明します。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。
納豆と痛風:プリン体の摂取量を正しく知る
「痛風」は、風が吹いただけでも痛いと言われるほどの激しい関節炎を伴う疾患です。これは、血液中の「尿酸」の濃度が高い状態(高尿酸血症)が続くことで、尿酸が結晶化して関節などに沈着することが原因で起こります。尿酸は、細胞の核酸などに含まれる「プリン体」という物質が体内で分解されて作られる最終産物です。そのため、プリン体を多く含む食品の過剰摂取は尿酸値を上げる一因とされており、納豆と痛風の関係を心配する声も少なくありません。ここでは、納豆のプリン体含有量と痛風リスクについて、正しい知識を整理します。
納豆に含まれるプリン体の量
プリン体は、あらゆる生物の細胞内に存在する重要な成分であり、私たちの体内でも生成されています(内因性プリン体)。食事から摂取されるプリン体(外因性プリン体)は、全体の2~3割程度と言われています。この食事由来のプリン体が代謝されると尿酸が生成され、これが血中に過剰に蓄積すると高尿酸血症や痛風のリスクを高めます。
日本痛風・尿酸核酸学会のガイドラインでは、高尿酸血症・痛風の患者さんに対し、1日のプリン体摂取量を400mg以下に抑えることが推奨されています。食品のプリン体含有量は、100gあたり200mg以上で「多い」、300mg以上で「極めて多い」と分類されます。例えば、鶏レバーは約312mg、マイワシの干物は約305mgと極めて多い食品です。これに対し、納豆(糸引き納豆)100gあたりのプリン体含有量は約113mgであり、「中程度」の含有量です。決して「プリン体が多い食品」というわけではありません。しかし、1日に複数パックを食べる習慣がある方や、ビール(プリン体を多く含む)のおつまみにするなど、他の高プリン体食品と組み合わせて摂取する場合には、合計のプリン体摂取量が増えやすくなるため注意が必要です。
痛風リスクがある方の食生活における納豆の位置づけ
高尿酸血症や痛風のリスクがある方、あるいはすでに痛風発作を経験したことがある方にとって、プリン体の摂取管理は薬物治療と並行して行われる重要な治療法です。こうした方々にとって、納豆は「絶対に食べてはいけない食品」ではなく、「量と頻度を考慮しながら上手に取り入れるべき食品」と捉えるのが適切です。近年の研究では、同じプリン体でも、動物性食品由来のものに比べて、植物性食品(大豆製品など)や乳製品由来のものは、痛風リスクへの影響が少ない可能性も示唆されています。
1日1パック(約40~50g)程度であれば、納豆からのプリン体摂取量は約50~60mgとなり、1日の目標摂取量400mgに対して過度に多いとは言えません。むしろ、肉や魚の摂取量を減らす代わりに、納豆のような植物性タンパク質を適量取り入れることは、食事全体のバランスを改善する上で有益な場合もあります。ただし、個々の病状や食事内容によって最適な摂取量は異なるため、担当医や管理栄養士の指導のもとで食事療法を実践することが大前提となります。
尿酸値と納豆の関係:食事療法の中での正しい位置づけ
痛風や高尿酸血症の食事療法を考える上で、納豆をどのように位置づければよいのでしょうか。単にプリン体の含有量だけで判断するのではなく、納豆が持つ他の栄養素の働きや、生活習慣全体との関わりも踏まえながら、バランスの取れた食生活の中での賢い取り入れ方を整理していくことが重要です。
尿酸値を上げる要因と納豆の関係
尿酸値に影響を与える要因は、食事からのプリン体摂取だけではありません。むしろ、生活習慣全体が大きく関与しています。例えば、アルコールの摂取、特にビールはプリン体を多く含む上に、アルコール自体が体内で尿酸の産生を促進し、腎臓からの尿酸排泄を妨げるため、尿酸値を上げる強力な要因となります。その他、果糖の多い清涼飲料水の過剰摂取、水分不足、肥満(特に内臓脂肪)、激しい運動、精神的なストレスなども尿酸値の上昇に関与することが知られています。つまり、食事管理は重要ですが、それだけで尿酸値が完全にコントロールされるわけではなく、生活習慣全体を見直す包括的なアプローチが不可欠です。
このような観点から納豆を見ると、プリン体を含んでいるという側面だけでなく、別の側面も見えてきます。納豆に豊富に含まれる食物繊維は、血糖値の急上昇を抑えたり、腸内環境を改善したりすることで、肥満の予防・改善に寄与する可能性があります。肥満の改善は尿酸値の低下に繋がるため、適切な量の摂取であれば、高尿酸血症の方にとっても有益な効果が期待できるのです。問題は「どれだけ食べるか」という量と、「何と一緒に食べるか」という組み合わせにあります。
痛風の食事療法と納豆の摂取量の目安
痛風や高尿酸血症の食事療法では、プリン体の総量を管理しつつ、エネルギー(カロリー)の過剰摂取を避け、タンパク質・脂質・炭水化物の三大栄養素のバランスを整えることが基本となります。特に、肥満を合併している場合は、適正体重を目指した減量が最も効果的な治療の一つです。納豆は、動物性の高プリン体食品(レバー、魚卵、干物など)に比べて脂質が少なく、良質な植物性タンパク質の供給源となるため、これらの食品の代替として食事に取り入れることは有用な選択肢となり得ます。
具体的な摂取量の目安としては、やはり1日1パック(約40~50g)の範囲に留めるのが現実的でしょう。そして、納豆を食べる日は、他のプリン体が中~高程度の食品(肉類や魚介類など)の摂取量を控えめにするなど、1日トータルでのプリン体摂取量を意識することが大切です。ただし、これはあくまで一般的な目安であり、個々の尿酸値、腎機能、合併症の有無、服用中の薬などによって適切な摂取量は異なります。必ず医療機関で専門的な指導を受けることが前提となります。
痛風予防と生活習慣:納豆を取り入れた食生活の工夫
痛風の予防や尿酸値の管理は、特定の食品を制限するだけの単純なものではなく、生活習慣全体を改善する継続的な取り組みが求められます。健康食品である納豆を食生活から完全に排除するのではなく、その特性を理解した上でうまく取り入れながら、尿酸値をコントロールするための具体的な工夫について解説します。
水分摂取と尿酸値の関係
体内の尿酸は、主に尿に溶け込んで体外に排泄されます。そのため、水分を十分に摂取して尿量を増やすことは、尿酸の排泄を促す上で非常に効果的です。1日に2リットル程度の水分(水やお茶など、糖分を含まないもの)を目安に、こまめに摂取することを心がけましょう。これにより尿が薄まり、尿酸が結晶化して尿路結石ができるのを防ぐ効果も期待できます。前述の通り、アルコール、特にビールは利尿作用があるものの、それ以上に尿酸値を上げる作用が強いため、水分補給にはなりません。飲酒習慣がある方は、節酒・休肝日を設けることが重要です。
納豆を食べる際に、わかめや豆腐、野菜がたっぷり入った味噌汁を組み合わせることは、食事から自然な形で水分を補給する良い方法です。ただし、味噌汁の塩分には注意が必要です。食事全体のバランスを意識しながら、日々の生活の中に意識的な水分補給を習慣として取り入れることが、尿酸値管理の基本となります。
納豆を取り入れたバランスのよい食事の組み立て方
痛風や高尿酸血症の方が納豆を取り入れる際のポイントをまとめると、以下のようになります。
・1日の摂取量は1パック(約40~50g)までを目安とし、連日の摂取は避ける
・レバー、あん肝、白子、干物など、プリン体を極めて多く含む食品を食べる日は、納豆を控える
・アルコール、特にビールとの同時摂取は尿酸値を急上昇させるため、極力避ける
・尿をアルカリ性に傾け、尿酸を溶けやすくする野菜や海藻類(ほうれん草、ひじきなど)を積極的に食事に取り入れる
・プリン体が少なく、痛風リスクを下げるとされる乳製品(牛乳、ヨーグルトなど)を食生活に加える
・1日を通して、水やお茶で十分な水分を補給し、尿酸の排泄をスムーズにする
これらの工夫を日々の生活に着実に取り入れることで、納豆を健康的な食事の一環として楽しみながら、尿酸値を適切に管理することが可能になります。ただし、食事療法だけで尿酸値が十分に下がらない場合も多く、その際は薬物治療が必要となります。食事療法の詳細や治療方針については、自己判断せず、必ず内科、リウマチ科、腎臓内科などの医療機関を受診し、専門家のアドバイスを受けることを強く推奨します。
まとめ
納豆は非常に栄養価の高い優れた食品ですが、すべての人にとって手放しで推奨できるわけではありません。
「食べてはいけない」のか、「注意すれば食べられる」のかは、個々の健康状態、病状、服用している薬の種類によって大きく異なります。ご自身の健康に関して少しでも不安や疑問がある方は、自己判断せず、まずはお薬手帳を持参の上、かかりつけの内科医、腎臓内科、薬剤師などの専門家に相談することをおすすめします。
参考文献
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
農林水産省「大豆及び大豆イソフラボンに関するQ&A」
