マレーシア沖に違法な洋上給油所、「影の船団」によるイラン産原油の取引・貯蔵拠点

(CNN)インド洋で21日、イラン産原油約190万バレルを積んだタンカー「ティファニ」が米軍に拿捕(だほ)された。ティファニはこの1年に数回、マレーシア沖とイランの間を行き来していた。
船舶追跡サイト「マリントラフィック」によると、ティファニは毎回、マレーシア沖の特定の海域にとどまってからいかりを下ろし、搭載を義務付けられている船舶自動識別装置(AIS)の電源を切っていた。AISの信号は数時間後、時には数日後になって復活した。
現場は米ロードアイランド州の半分ほどの海域。専門家やCNNのアナリストは、ここが制裁逃れの「影の船団」によるイラン産原油の取引と貯蔵に使われ、洋上ガソリンスタンドの役割を果たしてきたと指摘する。戦闘が続くなかで、イラン政権が切実に必要とする資金はここから流れ込んでいる。
「東部港外錨(びょう)地(EOPL)」と呼ばれるこの海域はシンガポール海峡の東側の入り口付近、マレーシア半島の沖約70キロに位置し、マレーシアの排他的経済水域(EEZ)に入っている。
ティファニの国際海事機関(IMO)番号は「9273337」。これはIMOが船舶を識別するために指定する恒久的な番号で、所有者や船籍にかかわらず変わることはない。
CNNが閲覧した衛星画像によると、同タンカーは昨年8月のある時点でこの海域に現れ、「マチョ・クイーン」という別のタンカー(IMO番号9238868)に正体不明の積み荷を移し替えていた。積み替えの後、マチョ・クイーンはAISをオンにして北東の中国方面へ向かったが、まもなくイラン産原油の対中密輸船として米国の制裁対象となり、これに続いてAISのスイッチが切られた。
今月23日には、別のタンカー「マジェスティックX」が米軍の臨検を受けて拿捕された。マリントラフィックのデータによれば、このタンカーもやはり中東とEOPL付近の間を数回行き来していた。
米シンクタンク「ワシントン近東政策研究所」の上級研究員、ファルジン・ナディミ氏によると、影の船団がEOPLに集まるのは便利な場所にあり、周辺国の監視が緩いからだという。「マレーシア当局は基本的に黙認だ」と、ナディミ氏は説明する。
米NPO「反核イラン連合(UANI)」がまとめた衛星データによると、EOPLで昨年把握された船舶間積み替えは少なくとも679件に上り、23年の280件、24年の471件から大幅に増加した。衛星が毎日上空を通過するわけではなく、悪天候では船舶を認識できないため、実際の件数はもっと多いとみられる。
マレーシアは昨年7月、同国沖での違法な船舶間積み替えの取り締まりを強化すると表明した。
国営ベルナマ通信がモハマド外相の話として伝えたところによると、新たな規制により、許可なしの積み替え現場を取り押さえられた船舶は拿捕されることになった。
イランは世界トップクラスの産油国だ。欧州の調査会社「ケプラー」のデータによると、昨年は日量平均169万バレルの原油を輸出した。米政府によれば、このうち約90%は中国向けだった。中国はイラン産原油を制裁対象とせず、制裁措置に反対している。
英調査会社ボルテクサによると、影の船団は主に、積載容量200万バレルのティファニと同等の超大型原油タンカー(VLCC)で構成されている。
制裁逃れの原油は国際指標のブレント原油に比べ、1バレル当たり10ドルほど安い価格で売られるが、そのブレント原油は戦闘開始以降、1バレル100ドル超に高騰している。船舶間積み替えが1回実施されるごとに、イラン政権は数千万ドルの収入を得ていることになる。
EOPLでの活動は、2月末に米国とイスラエルによる対イラン攻撃が始まってからも続いている。UANIは1月から今月21日までの間に、少なくとも250件の船舶間積み替えを把握した。
「貨物ロンダリング・ビジネス」の仕組み合法的な長距離貨物輸送でも、寄港せずに効率を上げる手法として、船舶間積み替えがよく用いられる。
大型の原油タンカーは喫水が深すぎて一般的な港湾に入れないため、小さい船に積み荷を移すことが多い。だがこの手法は安全面、環境面のリスクを伴うことから規制が厳しく、徹底した書類作成と届け出が義務付けられている。
一方、影の船団は積載された原油の産地を隠す目的で、夜間にAISを切ったり信号を偽装したりして、ひそかに積み荷を載せ替える。
ケプラーの原油市場アナリスト、イン・コン・ロー氏によると、中国はイランからの原油輸入を公表せず、マレーシア産と偽装することが多い。
UANIの上級顧問、チャーリー・ブラウン氏によれば、イランの原油をアジアへ運ぶ船はほとんどが米国の制裁リストに載っている。一方、そこから中国まで運ぶ船の大半はまだ制裁対象になっていない。
影の船団が書類を偽造し、偽の旗(船籍)を掲げたり、船籍をたびたび変更したりすることも珍しくない。
ワシントン研究所のナディミ氏は、乗組員が船体にペンキで新たな国旗を描くケースもあると述べ、「これは貨物ロンダリング・ビジネスだ」と断じた。
EOPLでの違法行為は海運業界で公然の秘密とされてきた。ブラウン氏の推計によると、この海域で貨物を積み替える船の95%が、イラン産かロシア産の原油を中国に運ぶ密輸船だという。
中国に近い戦略備蓄拠点の役割もナディミ氏によると、EOPLはイランにとって、ペルシャ湾の航行停止に備えて原油を貯蔵する拠点の役割も果たしてきた。
「ホルムズ海峡で戦闘が起きるリスクを念頭に、できるだけ多くの原油を買い手の近くまで運んでおきたいというのがイランの考えだ」と、同氏は語る。
ケプラーによれば、イランが2月時点で海上に備蓄していた原油は過去最大量の1億9100万バレルに上り、その大半を東アジアが占めた。
UANIによると、イランではEOPLでの備蓄が功を奏し、米国とイスラエルの攻撃が続いた3月も日量平均110万バレルの対中輸出を維持した。通常の輸出量に比べれば減少したものの、イラン政権にとっては原油価格の高騰がその埋め合わせとなった。
米軍に拿捕されたティファニも、EOPLで積み荷を載せ替える予定だったとみられる。
マリントラフィックによると、ティファニは拿捕されるまでの1カ月間、ホルムズ海峡やペルシャ湾付近を航行していた。AISは切ってあったが、CNNが入手した今月6日の衛星画像には、カーグ島に停泊する同タンカーが写っていた。
AISの信号は10日、オマーン湾を南東へ進んでいる時に復活した。マリントラフィックのデータは、同タンカーがシンガポールへ向かっていることを示した。
ティファニはスリランカを通過した後、21日に突然、方向を90度変えて南へ向かい、さらに90度曲がって東向きに戻った。その直後に米軍が拿捕を発表した。
同タンカーはその後も同じ海域にとどまっている。
