「ふたりの夏物語」作曲家の林哲司が新アルバム、オメガサウンドの「原風景」…「聴き手それぞれの中にあるはず」
「君のハートはマリンブルー」「ふたりの夏物語」――。
作曲家・林哲司の大きな仕事といえば、1980年代に大人気だったバンド「杉山清貴&オメガトライブ」に書いた楽曲が挙げられる。林が、その名曲をインストゥルメンタル化したアルバム「OMEGA TRIBE MODE」(バップ)を出した。同バンドの「原画」にあたるサウンドに焦点を当てたという。(鶴田裕介)
オメガは1983年デビュー。夏、海、都会といったイメージをまとった楽曲は次々と大ヒットを記録した。しかし、プロデューサーの藤田浩一によるプロジェクト的なバンドという意味合いが強く、曲の多くは職業作曲家の林の提供で、レコードの演奏もスタジオミュージシャンによるものだった。デビューから2年8か月で解散した。
あれから40年。近年、オメガはメンバーが再集結して大規模な全国ツアーを行い、リアルタイムで聴いていた世代が再び夢中になっている。のみならず、再燃しているシティ・ポップブームによって、世代を超えて聴かれている。
そんなさなかに制作された今作は、オメガの名曲10曲を伴奏はそのままに、杉山のボーカルの代わりに、宮里陽太のサックス、安部潤のピアノ、増崎孝司のギターで、メロディーを吹き込んだ。かつてオメガの楽曲の多くは、林が作曲と編曲をすると、デモテープの形や、譜面をもとに一流のスタジオミュージシャンたちがまとめた形で、作詞家に渡される、という流れだった。サウンドだけが抽出された今作は、当時に当てはめると、作詞家、歌い手に曲が渡る直前の「素」の状態に近い。
なぜ、そんな状態の音を形にしたのか。制作のきっかけは、林が新聞であるアニメの原画展が好調だという記事を目にしたこと。「自分の音の原音が、オメガファンにとって原画に値するものでは」と考えたのだという。
オメガの楽曲の多くは都会的で洗練された雰囲気をまとうが、作曲に関して具体的な要望を受けたことはほとんどなかった。ただ、バンドの最初期、米国西海岸で演奏されていたようなロックを提示したところ、藤田から「もうちょっと日本的なものがほしい」と言われたという。要望を受け、哀愁感を漂わせてできたものが初シングル「SUMMER SUSPICION」になった。「僕からすると、ロスに向かって船出したものが途中で引き返して、日本に近づいてきた感じでした」
時代を切り取る康珍化らの歌詞、杉山の突き抜けた歌声があってこそのオメガの名曲。しかし今作を聴くと、曲がまとうイメージは、「原画」の時点ですでに提示されていたことがわかる。「言葉のない世界できこえてくる原風景というのが、聴き手それぞれの中にあるはず」と今作の意義を語った。
