【山本 直彌】都市部のマンション住民を苦しめる《クルマ離れの加速》…ガラガラの機械式駐車場が示す「マンションの暗い未来」

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住宅ローンの変動金利は上昇局面を迎えている。ただ、ローン支払額の急増を抑える独自ルールを設ける銀行もあるため、月々の負担増は数千円から1万円程度に収まるケースが少なくない。

一方、深刻なのは、こうした緩和措置のない修繕積立金や管理費の値上げだ。

昨今の物価・人件費の高騰を受け、これら維持費が月額で2倍、3倍に跳ね上がる事例も今や珍しくない。金利上昇よりも先にこの「もう一つの値上げ」が家計を圧迫し始めているという切実な声も上がっており、ローン金利以上の脅威として家計に重くのしかかっている。

前編記事〈「修繕積立金を3倍に値上げ」でマンション住民が詰み始めた…住宅ローン金利の上昇だけではない「インフレの恐怖」〉では、こうした状況を詳しく解説している。

本稿では、住民間の対立も起き始めた機械式駐車場問題や資産価値を守るポイントについて、さくら事務所社長の山本直彌氏が解説する。

マンションの機械式駐車場の罠

管理費と修繕積立金の両面で物価上昇の影響が広がる中、もう一つ、多くの管理組合が見落としがちなリスクがある。機械式駐車場の更新費用だ。

長期修繕計画の見直しを依頼されて現場に入ると、実は最大の課題が建物の修繕工事ではなく機械式駐車場にあった、と判明するケースが増えている。

特に築20年を超えたマンションの場合、2回目・3回目の大規模修繕工事にエレベーターや給排水管の更新が重なる時期を迎える。そこに機械式駐車場の更新が加わることで、修繕積立金の不足額が一気に膨れ上がってしまうことになる。

そして更新費用の高騰も著しい。かつて一般的なタイプの機械式駐車場であれば、1パレット(1区画)あたり約100万円が相場とされていたが、現在では150万円程度の見積もりも珍しくない。仮に100区画の駐車場であれば、更新だけで1億5000万円規模の出費になる計算だ。

マンション住民同士の対立

問題をさらに複雑にしているのが、クルマ離れによる空き区画の増加である。

中でも都市部の共働き夫婦や単身世帯が多いマンションでは、駐車場の契約率が年々低下している。駐車場使用料は管理費や修繕積立金の貴重な収入源である場合が多く、空きが増えるほど収入が減り、積立金の不足に拍車がかかる。

しかも、多くの自治体が建設時に一定台数の駐車場確保を義務づける「附置義務」を課しているため、需要が減っても簡単には台数を縮小できない……というジレンマも抱えている。

駐車場を使う住民は設備の更新を求め、使わない住民はコストの負担に慎重になる。利害が対立する中で合意形成が難航し、検討が1年以上にわたって止まっているマンションも珍しくない。

機械式駐車場の問題は「車を持つ人だけの話」ではなく、マンション全体の財政と資産価値に直結する課題であることを、ぜひ知っておいていただきたい。

維持費が上がり続ける中で、管理組合にできることは本当にないのだろうか。

実は、管理委託契約を丁寧に見直すだけで、思わぬコストの改善余地が見つかることがある。前編で触れた契約を「精査する」という作業について、私たちが実際に検証業務で出会った事例をもとに掘り下げていきたい。

意外なコストが判明することも

そもそも管理委託契約書には、事務管理業務の内容や点検の回数、管理員の勤務体制などが細かく記載されている。しかし、契約書にきちんと目を通したことのある管理組合の役員は、実はそう多くない。そして現場の実態を調べてみると、契約書に書かれた業務が行われていなかったり、逆に契約にない業務が行われていたりすることがあるのだ。

例えば、あるマンションでは管理員が週7日勤務する契約だったが、特定の曜日に2人が同時出勤して引き継ぎを行っていた。実質的に週8日分の人件費が発生していたことになる。シフト表と契約書を突き合わせて初めて判明した事実だ。検証の結果、引き継ぎは書面で十分対応可能と判断された。

また別のマンションの事例では、共用施設の利用料を現金で徴収する運用が長年続いていた。管理会社のフロント担当者が毎月現地まで集金と照合に出向いており、当然その工数もコストに乗っていた。電子決済や振り込みへの切り替えを提案したところ、管理会社側の業務負荷が下がり、委託費の交渉余地が生まれた事例もある。

こうした見直しは、費用を「削る」ことだけが目的ではない。

自分たちのマンションにとってどんな管理水準が必要かを見定め、契約と実態の乖離を把握した上で適正化を図る。その双方向の歩み寄りこそが、値上げ局面でも持続可能な管理費の設計につながるのではないだろうか。

資産価値を守る3つのポイント

では、ここまで見てきた修繕積立金、管理費、機械式駐車場の問題に対し、管理組合はどこから動き出せばよいのか。優先度の高い取り組みを3つに整理した。

・ポイント(1)長期修繕計画は「5年に1回」の見直しを習慣にする

物価上昇率を見込んだシミュレーションを一度は行い、将来どの程度の資金が必要になるかの概算額を把握しておきたい。ただし、30年先の物価を正確に見通すことは誰にもできない。

大切なのは、5年ごとに最新の工事単価を反映して計画をアップデートし続けることだ。計画はあくまで計画だ。精緻な予測を追い求めるよりも、定期的な見直しの仕組みを管理組合の運営に組み込むほうが、結果的に最も確実な備えとなる。

・ポイント(2)管理委託契約を「知る」ところから始める

管理委託費の見直しは、値下げ交渉からではなく、現行の契約内容を正確に把握するところから始めたい。月次報告書や管理員のシフト表、点検記録などを照合していくと、過剰な業務や形骸化した作業が見つかることがある。

「自分たちのマンションに必要な管理とは何か」というゴールを定めた上で契約の適正化を図ることが、持続可能な管理費の設計につながるだろう。自分たちだけで取り組むのが難しければ、信頼できる専門家の力を借りることも一つの選択肢である。

・ポイント(3)管理費と修繕積立金を「一つの家計」として捉える

管理費と修繕積立金は別々の会計として管理されているが、マンション全体の「家計」をトータルで考える視点が欠かせない。最近では、管理費会計の余剰分を修繕積立金に振り替える管理組合も出てきている。駐車場使用料の振り分け比率を見直すことで、将来の更新費用に備える方法もあるだろう。

会計ごとにバラバラに考えるのではなく、マンション全体のサイフをどう使い分けるか。こうした全体を俯瞰した「やりくり」の視点が、これからの管理組合には求められている。

マンションの未来を他人事にしない

物価上昇の局面では、不動産の資産価値もまた上がる可能性がある。ただし、それは建物の維持管理が適切に行われていればこその話だ。

住宅ローン金利の変動に気を取られるあまり、足元の修繕積立金と管理費を見過ごしてしまうことのほうが、長い目で見れば資産価値を損なうリスクは大きいと言える。

まずは、自身のマンションの長期修繕計画が最後に更新されたのはいつだったか、また管理委託契約書に一度でも目を通したことがあるかを再度思い起こしてみてほしい。そして次の理事会や総会の場で、この2つの議論の検討を提案してみてはどうだろうか。

必要なコストをきちんと見込み、マンション全体で維持管理の方針を共有していくことが、結果として同じ建物に暮らすすべての住民の資産価値を守ることにつながる。早く動き出すに越したことはない。

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