「日本生まれだが、生産も消費もトップはヨーロッパ…」カニカマの世界的人気を支える“山口の企業”の名前《製造装置で世界シェア7割》〉から続く

 物流システムという、私たちの生活に不可欠ながらも普段あまり意識することのない分野で、9年連続世界売上高1位を誇る日本企業があるのをご存じだろうか。特に近年は、生成AIやデータセンター向けに需要が急増する半導体の製造現場で、50%以上の圧倒的なシェアを誇る自動搬送システムを手がけている。しかしこの会社、かつては苦汁をなめた経験も……。

【写真で見る】物流システムを牽引する企業「ダイフク」。その売上高は…

 4000社以上の企業を取材してきた著者が、小規模なマーケットで圧倒的な世界シェアを誇る50の企業を大解剖した『世界シェアNo.1のすごい日本企業』(田宮寛之著、プレジデント社)より一部を抜粋して紹介する。

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 マテハンとは「マテリアル・ハンドリング(Material Handling)」の略語で、直訳すれば「モノを扱う(動かす)」という意味。「工場や物流センター内で原材料や製品などを仕分け・搬送・保管する機械と技術」を指す。


写真はイメージ ©AFLO

マテハンなしに物流の効率化はありえない

 例えば、コンビニエンスストアの各店舗に商品を供給する物流センターでは、自動倉庫に保管している商品をピッキングシステムで効率的に集め、高速自動仕分け装置で店舗別に仕分けしてから運び出す。こうしたピッキング装置や仕分け装置などのハード、そしてそれらを操作する技術・ソフトウエアを合わせたものがマテハンだ。マテハンなしに物流の効率化はありえない。

 マテハン業界の世界ナンバー1企業はダイフク。2015年から売上高世界1位が続いている。世界中の工場や物流センター、空港などでマテハンビジネスを手がけるが、近年は半導体工場向けのマテハンビジネスが伸びている。半導体工場向け自動搬送システムの市場では50%以上のシェアを誇る。

一気通貫で搬送システムを受注

 同社の設立は1937年。当初は製鉄の加工に使用する鍛圧(だんあつ)機械の製造・販売を手がけていた。1938年に日本通運からクレーンを受注したのをきっかけに荷役運搬機械の製造を開始。1959年にはトヨタ自動車の工場向けにベルトコンベヤーシステムを開発・納入してマテハンビジネスに参入し、1966年には松下電器(現・パナソニック)に日本初の無人倉庫システムを納入した。

 1978年には同社として初めてのハンガーレールシステムをレナウンの商品センターに納入した。ハンガーレールシステムとは商品をハンガーにつるし、そのまま保管、搬送、仕分け、店頭陳列するシステムのこと。全長2200メートルで、当時のアパレル業界では最大級の物流システムだった。

世界初、ワイヤレスのモノレール搬送システムを開発

 1993年には世界で初めてワイヤレスのモノレール搬送システム「ラムランHID」を開発し、トヨタグループの関東自動車工業(現・トヨタ自動車東日本)に納入した。摩耗による粉塵などが発生しないこのシステムは、後に半導体向けクリーンルーム内の搬送にも使用される。

 半導体の製造工程数は約1000もあるため、効率的に製造するには仕掛品のウエハーを各工程の装置に予定の時間通りに運ばなければならない。搬送中に粉塵などの異物が少しでも混入すれば即座に不良品になってしまう。

 同社はウエハー同士が接触しないように搬送する技術や、ウエハーの加工面が腐食するのを防止するため保管中に窒素を充填するなどの技術を有する。

 ダイフクは今後も半導体工場向けに売上を伸ばしていくだろう。以前は半導体の需給動向に波があり、半導体向け設備投資にも波があった。しかし、生成AIやデータセンター、自動車向けなどで半導体需要は高まるばかり。半導体関連企業の設備投資も増加して、ダイフクのビジネスも拡大する。

 ダイフクの強みは、搬送システム全体の開発・設計から機器の製造、設置工事、メンテナンスまで自社で一気通貫できること。搬送用コンベヤーや無人配送車、ピッキングロボット、自動倉庫などを自社で生産して、顧客の要望に合わせてシステム化し納入する。機器を内製化しているので価格も抑えられる。

 海外ではメンテナンスは別の企業が手がけるケースが多いが、ダイフクは自社で行う。このようなことができるマテハン企業はほとんどない。

半導体の性能向上にも…

 ダイフクは2024年5月、米インテル日本法人など国内15の企業・団体によって設立された「半導体後工程自動化・標準化技術研究組合」(SATAS)に参画したと発表した。

 半導体の性能を向上させるためには、前工程で半導体の電子回路の線幅を狭くして、よりたくさんの回路を描き込む必要がある。半導体の歴史は線幅を狭める歴史であったが、線幅は限界に近づきつつある。

 これからさらに高性能な半導体を製造するには、後工程を改善するしかない。SATASは2028年までに後工程を見直し、自動化と標準化を達成することを目指す。

 参画しているのは、三菱総研を除けば半導体業界を代表する半導体メーカーや半導体製造装置メーカーであり、マテハン関連企業はダイフクのみだ。後工程の改善という重要な場面でダイフクへの期待は大きい。

社風が堅実な理由とは?

 これから半導体向け以外で期待できる分野は空港向けだろう。ダイフクは空港の手荷物搬送システムも手がける。手荷物を運搬するベルトコンベヤーや、X線と爆発物検査機器を組み合わせた危険物検知システムは米国内で数多くの導入実績がある。テロの危険性が高い米国ではとても重宝されている。コロナが沈静化し世界中で人々の移動が活発になっており、空港関連のビジネスは今後も成長が期待される。

 ダイフクはもともと、1970年代にマテハンのノウハウを活用してボウリングのピンをセットするマシンを製造していた。ボウリングマシンはコンベヤーと自動制御機器を組み合わせたもので、マテハンそのものだったのだ。

 大ブームのおかげで、一時はボウリングマシンの売上高が全体の7割を超えた。大いに潤ったのだが、ブームが去るとまったく売れなくなってしまった。この苦い経験からダイフクは、目先の利益を追わず、地道に顧客を開拓し、一歩一歩信頼を獲得すること大切にしている。

(田宮 寛之/Webオリジナル(外部転載))