年金15万円の79歳父、1年待って念願の〈特養〉に入居も…わずか半年後に退去勧告受け絶望。50歳長男が施設長から告げられた「まさかの一言」【元介護施設勤務のFPが警告】
高齢者施設のなかでも、月額費用が民間に比べ大幅に安く終身利用が可能なことなどから、人気が高い「特別養護老人ホーム(特養)」。しかし、せっかく入居できても、“予想外の理由”により退去をお願いされてしまうケースも……。79歳父と50歳長男の事例をもとに、FPが特養入居前に押さえておきたい注意点を解説します。
週末介護に限界の息子…待ち望んだ「特養」への入居
とある地方で一人暮らしをしていたマサオさん(仮名・79歳)。
長年の持病に加えて軽度の認知症もあり、だんだんと一人で生活することが難しくなっていました。そんな父を心配した息子のトシユキさん(仮名・50歳)は、休みのたびに帰省しては介護を行っていたものの、限界がありました。
「施設に入ってもらうしかない」と考えたものの、父の年金収入は月15万円。民間の有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に入居しようとすると、トシユキさんが費用の一部を負担しなければならず、現実的ではありません。そのため、トシユキさんは父を特別養護老人ホーム(特養)に入居させたいと考えていました。
もっとも特養は、他の施設に比べ利用料が低く、看取りに対応している施設も多いことから人気があり、なかなか入居できません。藁にもすがる思いで申し込みを行い、空きが出るまでは在宅介護やショートステイを活用してなんとか過ごしていました。
そして、1年後。施設から連絡があり、ようやく念願の特養に入居することが決まったのです。
「これで親父も安心して暮らせるな」
トシユキさんは胸をなでおろしました。介護と仕事の両立に疲弊していた日々から、ようやく解放されると思ったからです。
しかし、その平穏な暮らしはそう長くは続きませんでした。
入居半年後、施設長から告げられた「まさかの一言」
入居から半年ほど経ったある日のこと。施設から一本の電話がかかってきました。
「一度、施設までお越しいただけますでしょうか」
嫌な予感がしたトシユキさん。仕事を早く切り上げて急いで施設へ向かうと、神妙な面持ちの施設長が言いました。
「お父様の現在の状態ですと、当施設での対応に限界がございます」
「えっ、どういうことですか?」
施設から「退去勧告」を受けた理由
施設長の話によれば、父は入居後しばらくして脳梗塞を発症して入院し、病院でも誤嚥性肺炎を繰り返しているといいます。
嚥下機能(飲み込む力)が著しく低下していることから食事は刻み食からペースト食へ移行したものの、経口摂取が難しくなっているため、気管切開が必要になる可能性が高く、医療的な対応が必要な状態にあるそうです。
「まさか……退去、ですか?」
「はい。医師からも、より医療体制の整った施設への転居が望ましいとの判断が出ています」
トシユキさんの頭は真っ白になりました。
「そんな、やっと入れたのに。また探せっていうんですか?」
思わず声を荒げましたが、施設長は申し訳なさそうに頭を下げるばかりです。
「どうしたらいいんだ……」と、トシユキさんは途方に暮れてしまいました。
特養は“万能”ではない…入居前に押さえておきたい「3つ」のポイント
特養は「費用が安い」「終の住処になる」というイメージも強く、人気が高い施設です。しかし、入居時にはいくつか見落としがちな“盲点”があります。順にみていきましょう。
1.特養は医療機関ではない
まず押さえておきたいのは、特養はあくまで「生活の場」であり、医療機関ではないという点です。日常的な介護は受けられますが、医療依存度が高くなると対応が難しくなります。
今回の事例のような嚥下障害・気管切開などに伴うリスク管理や、頻繁な吸引、経管栄養、人工呼吸器の使用など、常時の医療的ケアが必要になると、退去や転居を求められる場合があることは認識しておきましょう。
2.看取りの方針
また、「看取りの方針」についても、入居前に確認しておく必要があります。看取りに対応している施設も増えてはきているものの、もちろんすべてのケースに対応できるわけではありません。
医療体制や提携医の方針によっては、最期を施設で迎えられず、病院へ搬送されることもあります。どこまで対応可能なのか、事前に確認しておくことが重要です。
「安いから安心」は危険
3.費用面
さらに、費用面でも油断は禁物です。特養はたしかに他の施設と比べると低コストです。しかし、当然ですが医療費や消耗品費、個別の対応費などが積み重なると、想定以上の支出になることもあります。
後悔しない施設選びのために
施設長から転居を切り出され、途方に暮れるトシユキさん。とはいえ、仕事を続けながらの在宅介護は現実的ではありません。
結局、足りない費用はトシユキさんが負担する形で、マサオさんは医療体制の整った高齢者施設に移ったのでした。
施設選びで大切なのは、「いまの状態」だけで判断しないことです。「将来の変化」を前提に計画を立てましょう。医療対応の限界や看取り方針、費用の総額など、前述したポイントを事前に確認したうえで、複数の選択肢を持っておくことが後悔しない施設選びにつながります。
いまは大丈夫でも、病状や介護度が変わる可能性を前提に、柔軟に複数の選択肢を持っておくことで、万が一のことがあっても動揺せずに対応することができるでしょう。
武田 拓也
株式会社FAMORE
代表取締役
