低学年では安い月額も小6では高額に。さらに夏期・冬期講習や模試、家庭教師が追加され…

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「せっかくここまでがんばってきたんだし」という親心が、家計を知らぬ間に蝕んでいた。都内在住の40代夫婦が、中学受験にかけた費用は小6の1年間だけで約270万円。これは一般的な受験費用の3年分にあたるが、大手進学塾に加えて家庭教師もつけた結果、たった1年でそれだけの金額をつぎ込んでしまったのだ。「気づいたら想像以上に使ってしまい、貯めていた教育資金が目減りしてしまいました。下の子の受験は無理でしょうか」。教育費問題に詳しいFPの八木陽子さんは、こうした相談を数多く受けてきた。なぜ、こんなことが起きてしまうのか。そして、同じ轍を踏まないために何が必要なのか――。

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こうして270万円は消えた…「月2万円」から始まった教育費のアリ地獄

 由紀さん(仮名)夫妻は地方出身。それぞれ地元の公立高校を経て、大学進学を機に上京、そのまま都内の大手企業に就職した。由紀さんは出産を機に退職し、専業主婦になった。夫婦ともに勉強は得意だったため、教育にかける思いは強い。

低学年では安い月額も小6では高額に。さらに夏期・冬期講習や模試、家庭教師が追加され…

「それなりの大学に進学させたいなら、中学受験をさせて私立校に入れたほうがいい」という大学時代の友人や会社の同僚の話から、自然と中学受験を志すようになった。

 関東の場合、受験対策カリキュラムは新小学4年生(小3の2月)からスタートすることが多い。だが、由紀さん一家は進学志向が強いエリアに住んでいたこともあり、「人気塾の席を確保しなきゃ」と、通常よりも早い低学年のうちに入塾させた。

 当初、月謝は2万円程度だった。学ぶ内容もパズル的で「習い事に毛が生えた程度の価格だし、やっている内容も世間の噂ほどハードじゃないな」と安堵していた。

 ところが新4年生になって受験対策カリキュラムが本格化すると、学ぶ内容はぐっと難しくなっていった。それとともに月謝は4万円台に。さらに学年が上がると月謝も5万円台、6万円台へと上がっていった。

「そこに夏期講習、冬期講習……と追加費用が発生するんです。“まだ受験学年じゃないから夏期講習はいいや”と思っても、“夏期講習でも新しい内容を勉強するから、休むと学習内容にヌケが出ますよ”といわれてしまって」

「塾についていけていないかも」焦りから雇った家庭教師

 塾で学ぶ内容があまりに難しいことも誤算だった。とくに算数は親が教えようとしても、内容が特殊で、中学受験を経験していない由紀さん夫婦には太刀打ちできないのだ。

 成績がじりじりと落ち始めたこともあり、塾のない日は家庭教師にみてもらうことにした。

「塾に行っているうえに家庭教師なんて、公立高校出身の自分たちには信じられないことですが、受験学年にもなると親が見てやることもできなくなってしまって。中学受験経験者の大学生に依頼し、時給は5,000円でお願いしました」

 家庭教師のため、由紀さんは毎回、ペットボトルのお茶とささやかなお茶菓子を用意した。週2回、1回2時間の時給と交通費、茶菓子代。毎回の出費が積もっていく。塾の模試があれば、事前に家庭教師の時間を増やし、受験科目を強化した。

 気が付けば小6の1年間で、塾代+家庭教師代+受験費用で270万円ほどかかってしまっていた。

「家庭教師のサポートもあって、本人は楽しく通塾してくれていたのが救いです。おかげさまでなんとか第2志望に合格することができましたが、2人分の教育資金として500万円近くあったお金が、
第1子の中学受験が終わったときは、半分以下に……。家計のことを考えると先が思いやられます」

FPからの処方箋:「小4〜6年で300万+中学卒業まで300〜400万」の覚悟を

「私も下の子を中学受験させたのでわかります。総費用がよくわからないまま入塾してしまって、季節講習などでどんどん追加費用が発生して戸惑うんですよね。金銭的に厳しいな、と思っても、“せっかくここまでがんばってきたんだし”と途中で降りられないような心理状態になってしまうんです」という八木さん。

 すでに使いすぎてしまった由紀さんに対しては、抜本的な立て直しをアドバイスした。

「教育費の支出はまだまだ続きます。大学まで見据えて、毎月いくら積み立てる必要があるか、計算して。そのうえで、家計を意識的に管理していく必要があります。といっても節約には限界がありますから、由紀さんは再就職し、下のお子さんは公立中学から高校受験するコースに進んでもらうのが現実的な選択となります。高校受験なら、由紀さん夫婦の受験経験も生かしたサポートができることでしょう」

 では、これから中学受験を検討している家庭が気を付けるべきことは何か。八木さんは「実際どのくらいの費用が発生するのかスタート前に把握してください」と多くの相談者に最初に伝えている。

「めやすとして、小4・5・6年の3年間で、塾代だけで250万円、受験料など込みで300万円は見ておいてください。さらに私立中学に入学してからも年間100万円かかるので、中学校卒業までに600〜700万円を使うという覚悟と余裕が必要です。さらに大学進学費用を積み立てていく必要があることを忘れてはいけません」

 高校の学費無償化の流れがあり、「私立中学に行かせる余裕があるのではないか」と考える保護者が増えているが、実際にこの費用負担に耐えられる家庭はそう多くはない。

「ケースバイケースではありますが、一般的に、住宅費は収入の25%、教育費は15%にとどめるのが健全な家計のめやすとされています」

 例えば年収1,000万円だと、手取りは700万円台。住宅費に収入の25%を使えば175万円、教育費が15%として105万円。合計で約280万円、手取りの4割近くが住まいと教育費だけで消える計算となる。家賃が高いエリアに住んでいる、あるいは子どもが2人いる家庭なら、1,000万でも厳しいというのが現実だ。

「年間100万円規模の費用を、貯金を崩さずに収入の中から払えるかどうかが目安です。貯金を崩しながら受験費用を捻出しているようだと、肝心の大学進学費を積み立てることができなくなりますから」

「子どもの教育費は惜しまない」という親心は尊重したいが、家計の収支バランスが崩れ、将来の学費や下の子の学費を食いつぶすようでは本末転倒だ。中学受験をする・しないの選択をする前に、夫婦で一度「教育費の上限」をシミュレーションしておきたい。

「教育にお金をかけたら、それに比例して立派な人間に育つかといえばそうとは限りません。お金を出す以外にも子どもにできることは他にもあるはずです。子どものポテンシャルを信じて、知恵を絞ってみましょう」

※紹介する事例は、プライバシー保護等のため、アレンジを加えている。

八木陽子(やぎ・ようこ)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®。キャリアカウンセラー。株式会社イー・カンパニー代表。2001年に独立。全国の小・中・高等学校での金銭教育や、教育費に悩む保護者へのコンサルティングを数多く手がける。著書に『10歳から知っておきたいお金の心得〜大切なのは、稼ぎ方・使い方・考え方』など多数。

取材・文/吉田きんぎょ

デイリー新潮編集部