消防士からお笑い芸人に転身した、お笑いコンビ・かけおちの青木マッチョさん。その決断を後押ししたのは、給料や安定ではなく、「この世界が一番楽しいはずだ」という直感でした。

安定した公務員の道を離れた青木マッチョさんは、芸人の世界で初めて「結果が出る感覚」をつかんだといいます。

後編では、青木マッチョさんが芸人として感じるやりがいや、自分に合う仕事の見つけ方について話を聞きました。

前編: 劣等生だった元消防士・青木マッチョが語る、“逃げる”キャリアチェンジ

「周りに芸人がいるだけで楽しいんだろうな」

――消防士を辞めたあと、どんな仕事をしようと思っていたんですか?

最初は「フリーターになる」つもりでした。

向いていない仕事で月30万円もらえるのと、ストレスがまったくないフリーターで月15万円だったら、 給料は半分でも、フリーターのほうが絶対に楽しいと思ったんです

――芸人になることを決めたのは、どのタイミングだったのでしょう?

先輩のニューヨークさんのYouTubeチャンネルが好きで、よく見ていたんです。そこには、言ってしまえば売れてない芸人さんがたくさん出てくるんですけど、それがもう楽しそうすぎて……。

飲みに行った話や、旅行に行った話、一緒にパチンコに行った話とか、そんな話が楽しいし、面白かったんで、「この世界に入ったら一番楽しいはずだ」と思いました。

――青木さんは働くうえで、「楽しい」という価値観が最優先なんですね。

お金ではないですね。実際芸人は売れなかったら、ほぼフリーターです。

でも、ただのフリーターよりも周りに面白い人たちがいるわけだから、最悪バイトがつまんなかったとしても、周りに芸人がいるだけで楽しいんだろうなと思いました。

――公務員から不安定な職業に変わることに、不安はありませんでしたか?

特になかったですね。やっぱり、「死ぬことはない」という思いが一個ありました。

ある程度の家に住めなくなるとか、仕事がなくなるのはしんどいと思いますけど、でも死ぬことはない。仕事が減ったら、別にバイトすればいいしって感じです。

――そのマインドを持っていると強いですね。

そうですね。無敵は無敵です(笑)。

もちろん、芸人として売れたい気持ちはあるから、「どうでもいいや」と投げやりになっているわけではないですけど。頑張った結果、仕事が減っても「まあまあまあ」と思えますね。

最初に結果が出ると、人は頑張れる

――消防士のときはすぐに「向いてない」と感じたそうですが、芸人の世界はすぐに「向いている」と思えましたか?

正直、向いているとは思えなかったです。人前に出るのは恥ずかしいし、勇気もぜんぜんない。声も大きくないですし。

でも、場所によるなと思ったんですよ。芸人が大勢いるライブで目立つのは苦手ですけど、いじられたり、一人で自分のキャラを生かしたりすることは得意だなって。 全部が得意じゃなくても、得意な部分で戦えるかなと思ったんです

――勝負できる場所があると思ったんですね?

NSCは東西合わせて生徒が1,000人くらいいるんですけど、最初にみんなが一斉に動画を撮って、順位を決めるイベントがあったんです。それで、自分はカリンバという楽器を演奏する動画を上げたんですが、そしたら1,000人中1位になって。

あと、最初にトリオを組んで出た一発目のライブでも、1位を獲りました。性格的には向いているとは思えなかったんですけど、結果は出せるなと思ったんですよね。なんか、結果が出るなって。

――それがきっと、「向いている」ということですよね。

あ、そうかもしれないです。最初にそうやって結果が出ると楽しくなるんで、どんどん「もっと頑張ろう」という気持ちになるんですよ。それが消防士のときにはなかった。入った瞬間から「できないやつ」でしたから。
「なんで俺はみんなよりできないんだろう」って、マイナスからスタートすると、どうしても気が乗らないんですよ。訓練するのも恥ずかしいし、やりたくないから、ますますできない人間になってしまう。

芸人の仕事で最初から結果が出たのは、前職とはまったく違うところだと思いました。

ファンへの感謝はまったく消えない

――芸人の仕事は、求めていた「楽しい」という感覚もありますか?

「楽しい」というより、こんな言い方をすると語弊が生まれるかもしれませんけど、めちゃくちゃ「楽」です。だって芸人は劇場に出ても、漫才なんて3分とかじゃないですか。それなのにお金をもらえるって、「やばくないか?」と思うんですよ。

もちろん、その3分を作るためにいろんな努力があるんですけど、体力的な負担はすごく少ないですから。

――「楽」と感じられるのも、「向いている」ということなんでしょうね。普通なら、人前で話したりボケたりするのは、ものすごく大変なことですから。

確かに、そうですよね。うん。僕は好きですね。

僕は結構変で、 恥ずかしがり屋で人前に出たくないくせに、目立ちたい気持ちもあるんです 。だから出役は好きだし、楽しいんですよね。こういう取材も嬉しいです。

――お笑い芸人は、ファンの方がいる特殊な職業です。その点はどうですか?

めっちゃ嬉しいですよ。僕が思うに、ファンって学生生活の中にもいるじゃないですか。たとえば彼女だったり、仲のいい友達だったり、よくしてくれる先生や先輩、後輩とか。ファンっていう言い方はしないですけど、大きく括ればそれもファンみたいなものですよね。僕にはそういう人がいなかったんで。

学生時代は、彼女もできたことがないし、仲のいい友達も数人しかいないし、先生に好かれていたわけでもないし、先輩や後輩との関わりもゼロでした。それが今はこうして、自分に興味を持って「好きだ」と言ってくれる人がいる。本当に、そういう人が10人とかいるだけでも、相当嬉しいことなんですよ。

ファンがどれだけ増えても、感謝はまったく消えないです。ファンをぞんざいに扱うとか、どうでもいいと思うことはないですね。本当にありがたすぎる、という感じです。

とにかく何でもやってみる。それが仕事を見つける方法

――本当に青木さんは天職に就いたような気がします。どうしたら、みんなが向いている仕事に就けると思いますか?

難しいのは、その仕事で何をするかって、正直入ってみないとわからない部分があることですよね。僕も消防士なら、筋肉があればいけるだろうと思っていたら、ぜんぜん違ったので。

だから、仕事はいろいろ経験したほうがいいと思います。僕は一度しか転職していないですけど、どんどん転職していって、自分に向いているものを見つけたほうが絶対にいいとは思います。

あとは自分を客観的に見て、自分がどういう人間か理解することだと思うんです。

――どうしたら、自分のことがわかるのでしょう?

それも 結局、いろいろやってみるしかない気がします 。ずっと「何をやろうかな」と考えていても、なかなか思い浮かばないので。

楽器でもいいし、散歩でもいいし、バイトでもいい。とにかく何でもいいからやってみる。どこかでヒントが見つかると思うんです。散歩していて「この道好きだな」と思うとか、そういう小さなことでも。

とにかく行動して、興味を見つけることじゃないですかね。

――行動するのが苦手な人も多いです。

今のままでいいなら、やらなくてもいいと思います。でも、それで悩んでいるなら、何かやったほうがいいんじゃないかなと。

気持ちはわかりますよ。僕もネガティブなので。でも、やらないと本当に何も変わらないんですよ。

――青木さんは行動力がありますよね。

好奇心はあると思います。それに、一人でいることが苦じゃないので、思い立ったらすぐ動けるんです。たとえば「この人のライブを見たいな」と思っても、一人で行けない人もいますよね。でも自分は、「いいな」と思ったらすぐに行けます。

結局、人生は一回しかないじゃないですか。だったら、いろいろやった方がよくない? と思うんです 。いろいろやった人生と、何もやらなかった人生なら、やった人生のほうがいいと思いますからね。

前編: 劣等生だった元消防士・青木マッチョが語る、“逃げる”キャリアチェンジ

プロフィール

青木マッチョ(かけおち)

1995年、愛知県生まれ。2022年、トリオ「かけおち」にてプロデビュー(現在は赤木細マッチョとコンビで活動)。デッドリフト260kgの筋力を誇り、野田クリスタル主宰の「クリスタルジム」でトレーナーを務める。ピアノ、ドラム、カリンバの演奏が得意。ニューヨークバンドではドラムを担当。

X(旧Twitter) @aoki_Nomacho Instagram @aoki_no_macho YouTube 青木マッチョ【かけおち】 / 孤独のマッチョ

取材・文:前多勇太
撮影:島崎雄史
編集:内藤瑠那