原田泰造は時代とジャンルを超える名バイプレーヤーに 『風、薫る』牧師役で滲む優しさ
2026年度前期の連続テレビ小説『風、薫る』で描かれるのは、明治時代に西洋式の専門的な看護教育を受け、現代につながる看護婦の先駆けとなった2人の女性の物語。育った環境も性格も全く異なる一ノ瀬りん(見上愛)と大家直美(上坂樹里)が、それぞれに生きづらさを抱えながらも成長し、看護の世界で道を切り拓いていく姿が描かれる。
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第1週「翼と刀」では、元家老の家柄だが父・信右衛門(北村一輝)が帰農し、栃木県の那須で家族に囲まれ穏やかに暮らすりんの人生が、一変する事件が起きる。りんが住む那須に伝染病のコレラが蔓延し、幼なじみの虎太郎(小林虎之介)の母やりんの父・信右衛門にも感染してしまう。りんに惜しみない愛情を注ぎ、学ぶことの大切さや自分で考えることを教えてきた信右衛門だったが、看病しようとするりんに感染しないよう、自ら納屋に閉じこもり亡くなってしまったのだ。
一方、東京で暮らす直美は、教会の前に捨てられて教会を転々として育ち、家族と呼べる存在がいない。パッチワークのような継ぎはぎをした地味な着物で背筋を伸ばして歩き、世間の偏見の目に敏感に反応する。マッチ工場で働いているが、失敗が多く給料から差し引かれてばかりだ。
そこで原田泰造演じる牧師の吉江善作は、直美が困窮しているのを見かねて「この教会の伝道師になりませんか?」と話を持ちかけた。吉江はキリスト教の牧師で、4年前に直美を引き取って以来、彼女をそっと見守ってきた人物である。自立したい直美の意思を尊重して別々に暮らしているが、常に直美のことは気にかけている。
そんな吉江の善意に対しても、「伝道師のお金にはひかれるけど、私には無理です」と、直美は簡単に受け入れたりはしない。ただ、「吉江先生には感謝しています。いろんな教会を転々としてきた私を受け入れて、住まいまで世話してくださって」と、素直に感謝の気持ちは伝えるのだった。
「直美さんは伝道師が向いています。幼い頃から誰より神の教えを学んできたではありませんか」と真摯に説得を試みる吉江。表情だけでなく、全身から「いい人オーラ」「善人モード」全開の吉江に、「それは教会の前に捨てられれば嫌でも……」と返す直美。
「嫌でも……? え……私、何か直美さんにしてしまいましたか」と、彼女の想定外の返答に、すでに吉江は涙を堪えるのも難しい様子だ。正しい・正しくないの基準がいつも自分の外側にあることに、直美は憤りを感じているのだった。
「生まれつき家柄のいい人」「そう、いい人も嫌いです。誰よりこんな自分が一番嫌い」
頼れる家族もお金もなく、世間の「正しい人」「いい人」の枠の外に追いやられる立場に置かれ、その場所から抜け出すきっかけも方法も、直美はまだ見つけられていなかった。
「吉江先生を泣かせて」「泣いてませんよ」
泣きながら直美を見つめる吉江に、「泣いてましたよ」「泣いてませんて」という一連のやり取りは、思いがけずほっこり笑える名シーンだった。
コレラの蔓延や、それによる主人公りんの父親の突然の死。もう一人の主人公・直美が直面する現実の厳しさ、貧しさ。りんと直美はまだ出会っていないし、看護の道を志すまでにも至っていない。これからも彼女たちが進む道には大きな壁が立ちはだかり、困難が待ち受けているに違いない。そんな中で、泣きながら「泣いてない」と言い張る吉江からは人柄の良さが溢れていて、見ている側の心まで浄化されるようだった。SNSでも原田泰造の存在感、演技の上手さが話題になっていた。
また、本作で主人公・りんと直美に影響を与える女性として、鹿鳴館の華と呼ばれた大山捨松(多部未華子)が登場し、陸軍卿・大山巌(高嶋政宏)との結婚のニュースを吉江が直美に解説していたことも面白かった。
捨松は旧会津藩士の娘、巌は薩摩藩出身で政府軍だったため、敵同士の両家の和解の象徴であり、鹿鳴館での注目度も抜群だった。この歴史的背景を語る吉江役の原田泰造は、過去のNHK大河ドラマ『篤姫』で大久保利通を、NHKドラマ『大奥』Season2「幕末編」で西郷隆盛を演じているのだ。
朝ドラの出演で印象深いのは、『ごちそうさん』(2013年度後期)のヒロイン・め以子(杏)の父親で、卯野大五役がある。家族思いで、食べることを大事にしている洋食店の店主だ。NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』では田沼意次(渡辺謙)の側近、三浦庄司役で出演。主人公の蔦重こと蔦屋重三郎のプロデュース業、出版業にも理解を示す本好きで、忠義心の厚い男を好演した。三浦庄司も農民から田沼意次の側近へと昇りつめる大出世を果たした男で、蔦重とも田沼意次とも共鳴するものがあり、独特の存在感を放っていた。
ネプチューンのメンバーとして、お笑いではボケ担当に徹しているが、俳優としては時代もジャンルも超えて、ユニークで唯一無二の存在として活躍の幅を広げている。(文=池沢奈々見)
