アリゾナ州立大学のJorge Antonio Sanchezさんを筆頭とする国際研究チームは、てんびん座の方向・地球から約320光年先の太陽系外惑星「WASP-189 b」を観測した結果、岩石を形成する元素の比率が主星(親星)とほぼ同じであることが確認されたとする研究成果を発表しました。


研究チームは今回の発見について、「惑星は主星と同じ物質から形成される」という天文学における長年の仮説を、初めて観測によって裏付けるものだとしています。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「Nature Communications」に掲載されています。


岩石さえも蒸発する極限環境のホットジュピター

観測対象となったWASP-189 bは、主星である恒星(A型星)「WASP-189」を約2.7日周期という短期間で公転する「ホットジュピター」のひとつです。半径は木星の約1.6倍、質量は木星の約2倍とされています。


論文によると、WASP-189 bの昼側の温度は約3354ケルビン(約3000℃)にも達します。これは一部の赤色矮星の表面温度を上回る非常に過酷な環境であり、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)といった、地球では岩石を形成する元素が気体として存在するほどの高温です。


今回の研究では、この極端な高温環境こそが、低温の惑星では内部に隠されている岩石成分を直接観測するための貴重な“窓”の役割を果たしたのだといいます。


【▲ 青白いA型星を公転するホットジュピターの想像図(Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA/J. Pollard)】

高精度な観測を行い大気の化学組成を分析

研究チームは、NOIRLab(アメリカ国立光学・赤外天文学研究所)が運用するジェミニ天文台(チリ)のジェミニ南望遠鏡に搭載された高分解能赤外線分光器「IGRINS」を用いることで、WASP-189 bの大気に気体として含まれるマグネシウム・ケイ素・鉄・水(H2O)・一酸化炭素(CO)などを、高い精度(シグナルノイズ比4σ以上)で同時に検出することに成功しました。


NOIRLabによると、太陽系外惑星におけるマグネシウムとケイ素の同時測定は、今回が初めての事例となります。


“惑星は主星に似る”という長年の仮説を証明

今回の最大の発見は、WASP-189 bの大気に含まれるマグネシウムとケイ素の比率(Mg/Si比)などが、主星の比率とほぼ一致していたことです。


惑星は、誕生間もない主星を取り囲むガスと塵(ダスト)の雲である原始惑星系円盤の中で形成されると考えられています。天文学ではこれまで、「原始惑星系円盤の化学組成は主星と同じであり、そこで誕生する惑星もまた主星と同じ元素の比率になるはずだ」という仮説を前提に、惑星形成のモデル計算などが行われてきました。


研究チームによれば、今回のWASP-189 bの観測は、これまで太陽系での知見にもとづく推論に留まっていたこの前提が、太陽系外惑星に対する直接的な観測によって初めて証明されたものとなります。


地球外生命を探す宇宙生物学への影響も

今回観測されたのは高温の巨大ガス惑星であるホットジュピターですが、研究チームによると、この成果は地球のような岩石惑星の研究にも大きな影響を与えるといいます。マグネシウムやケイ素といった岩石成分の比率は、岩石惑星の鉱物組成やマントルの動き、そして生命を保護する磁場の有無などを決定づける重要な要素となるからです。


今回の成果は、主星の化学組成を通じてその星を公転する岩石惑星の成分を推測し、生命を支え得る環境が存在するかどうかを評価できるという前提をより強固にするものであり、今後のアストロバイオロジー(宇宙生物学)の発展に向けた重要な一歩になると期待されています。


 


文/ソラノサキ 編集/sorae編集部


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