車の通れない路地に面した国有地でシェア農園を運営し、地域の活性化に取り組む橋本さん(3月中旬、山口県下関市で)

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 人口減少が進む中、相続のタイミングで国庫に帰属される土地が増え続け、管理を担う国の負担も増加している。

 未利用の国有地は国有財産法に基づき、国が定期的な巡回や除草を委託し、費用を負担する必要がある。山口県などでは、地域活性化を兼ねて、国有地を地元の団体に農園などとして活用してもらう代わりに管理を委託する取り組みが始まっている。(小野悠紀)

売却難しく

 3月中旬、山口県下関市の茶山・竹崎エリアの斜面地にある住宅密集地の一角。地域活性化に取り組む同市の不動産会社「ARCH(アーチ)」代表の橋本千嘉子さん(45)は、国有地を活用して運営する「シェア農園」を見つめながら、「誰も価値がないと思った土地が、新しい人との出会いやコミュニティーを生み出している」と語った。

 相続人がおらず、2013年に国庫帰属となった約60平方メートル。JR下関駅の北東約500メートルと市中心部から近いが、近接する道が車の乗り入れができないほど狭いなど条件が悪く、売却や貸借が難しかったため、財務省山口財務事務所が業者に巡回や草刈りを委託してきた。

 この土地に目を付けたのが、同エリアで空き家のリノベーションやイベントの企画を手掛ける橋本さんだった。

 坂道の多い長崎市で斜面地の有効活用に取り組む市民団体「長崎都市・景観研究所」所長で同市職員の平山広孝さん(41)が、同市の国有地でシェア農園を運営していると聞いて触発され、昨年5月、下関市職員と現地を視察した。山口財務事務所から国有地の管理委託を受けた下関市と覚書を交わし、同8月から市民らが利用できるシェア農園を始めた。

 同事務所によると、国有地の管理委託による地域活性化の事例は、昨年3月に平山さんが始めた農園に続いて全国2例目。橋本さんは、畑の利用者や地域住民、関心のある中高生らとの交流も生まれているとして、「地域を元気にしていきたい」と意気込む。

1年で4倍

 財務省によると、近年は国庫に帰属される土地が急増している。従来、国が土地を引き取るのは、民法に基づき土地所有者の相続人がいない場合に限られていたが、23年4月、相続後に使い道のない場合に申請できる「相続土地国庫帰属制度」の運用が始まった。

 所有者不明の土地の増加を防ぐ目的で創設された制度で、相続人が不要な土地の引き取りを申請すると、法務局が審査し、建物や埋設物がないなどの条件を満たしていれば承認される。

 民法上の手続きで国庫帰属となった土地は16年度に30件しかなかったが、人口減少や少子高齢化の進展で増加し、24年度は226件に。これに加え、新制度で国庫に帰属した宅地などは導入初年度の23年度に195件に上り、24年度は約4倍の744件に達した。

 新制度では、申請者が10年分の土地管理費の相当額を負担金として納付する。宅地の場合、面積にかかわらず原則20万円を納める必要があり、11年目以降は国が負担する仕組みだ。一方で財務省は、200平方メートルの土地であれば1年目に28万円、2年目以降も維持管理費として年7万円を要すると算定している。活用の難しい土地の増加に伴い、経費の増大が懸念されているという。

見回りや除草など管理業務を委託

 将来的な負担増加を見据え、山口財務事務所は24年度、下関市立大の竹内裕二教授(地域経営論)とともに支出の抑制策を検討している。自治体を通じて自治会やNPO法人などに無償で国有地を貸し出す代わりに、見回りや除草などの管理業務を担ってもらう枠組みを考えた。

 市もこの取り組みに協力的で、同事務所は昨年3月、市内の未利用国有地25地点を一覧表にまとめ、地元自治会に防災倉庫や避難場所、花壇などでの活用を呼びかけた。自治会が希望しても近くに未利用地がなく、マッチングできないこともあったが、ARCHが初の事例となった。

 同事務所管財課の工藤修也課長は「地域に貢献する有意義な取り組みになっている。県内の他市町にも紹介し、さらに発展させていきたい」と力を込める。

 竹内教授は「国庫に帰属される土地は、不利な条件の土地が多い。社会実験の段階だが、空き地のまま放置せずに地域住民によって活用できれば、国の維持管理費の低減に加え、新たなまちの機能を創出するチャンスになる」と期待している。