「Rolling Stone Japan vol.34」より

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2026年の「POP YOURS」で新設された「Terminal 6 STAGE」は、単なるサブステージではない。DJ、パーティー、ダンサー、コミュニティ──これまでクラブの現場で育まれてきたヒップホップのもうひとつの顔を、フェスの内部に組み込む試みだ。I♡WAKA、DJ U-LEE、GRADIS NICE & DJ SCRATCH NICE、Tohji Presents u-ha neo stage、SEEDA × DJ ISSO × shes rough presents CONCRETE GREEN、MARZY、YeYan、AMAPINIGHT、MASATO & Minnesotah。多彩な出演者たちの顔ぶれから見えてくるのは、ラップだけでは捉えきれない、いまのヒップホップの広がりそのもの。開催を前に、「Terminal 6 STAGE」が提示する新たなフェス体験の意味をひもとく。

DJ&コンセプトステージの全貌

2026年、POP YOURSは「Terminal 6 STAGE」を立ち上げた。メインホールの転換時間を活かし、新たな空間でDJパフォーマンスやクラブ的ライブを展開する。これは単なるサブステージの増設ではないだろう。フェスの内部に、もうひとつのヒップホップの現場を組み込むという決断である。

ヒップホップは、もともとDJから始まった文化だ。1970年代のブロンクスで、DJクール・ハークがブレイクビーツをループさせ、フロアを熱狂させたことからすべてが動き出した。公園やアパートの中庭などで、DJブースを中心に人が取り囲む円環的な空間。レコードをかけ、低音を鳴らし、観客が揺れる――その循環がヒップホップの原型だ。現在のフェスで見られる「ステージ中央にMCが立つ構図」は、長い歴史のなかで形成された一つの形にすぎない。その後90年代以降、クラブはヒップホップの実験場として機能してきた。ニューヨーク、アトランタ、メンフィス、ロンドン。それぞれの都市のクラブで鳴らされたビートが新たなサウンドを生み、それがやがてメインストリームへと押し上げられていく。トラップも、ジャージークラブも、レイジも、最初はローカルなパーティーの現場から広がった。DJは、次の流れを提示する預言者的存在なのだ。もちろん、そういった歴史は日本でも同じである。渋谷、六本木、横浜といったクラブシーンで育まれた空気が、日本語ラップの進化と並走してきた。ラッパーはクラブで鍛えられ、DJとの関係性のなかでフロウを磨き、観客の反応を通して楽曲を磨いてきた。クラブは、ヒップホップの検証と更新の場だったということだ。

そして現在、ヒップホップとクラブカルチャーの距離は再び縮まっている。トラップ以降、ビートは高速化し、低音はより忙しなくなった。レイジ、ジャージークラブ、UKガラージ、メンフィスサウンドなど、フロアを前提とした音作りがますます広がったのだ。ラッパーがDJセットを行い、DJがプロデューサーとして前景化し、パーティー自体がブランド化する。ライブとクラブの境界は溶け、音楽は「曲」から「体験」へと拡張している。ヒップホップがUKグライムやテクノ、ハウスと混ざり合い、ハイパーポップがEDMやエレクトロクラッシュと接近するなかで、ポップミュージック全体がダンスミュージック的な性格を強めている。Boiler Roomの世界的な広がりが示すように、フロアの熱狂そのものがコンテンツとして共有される時代になった。ヒップホップとダンス/クラブカルチャーは、あらためて不可分の関係にある。

Terminal 6 STAGEは、この歴史の流れを踏まえたうえでの現在形として用意されたのだろう。ラッパー中心の巨大ステージとは異なる、DJを起点とする空間をフェスの構造に組み込むこと。それは新しい挑戦であると同時に、ヒップホップの原型を再提示する行為でもある。クラブで育ったサウンドやコミュニティを数千人規模で可視化することで、POP YOURSはヒップホップをより立体的に提示しようとしている。Terminal 6 STAGEは、ヒップホップをラップだけでなく、DJ、ビート、フロアの体験を含む総体として再編集するのだ。