(※写真はイメージです/PIXTA)

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世界最高峰の戦略コンサル企業として知られる「マッキンゼー」。同社の社員はイメージを裏切らず、朝から晩まで大量のタスクに追われる多忙な毎日を送っています。しかし、その働き方は「忙しさ=非効率」とは無縁な様子。日本企業でよくみられる朝のメールチェックや頻繁な会議を極力手放し、最小の労力で最大の成果を出す仕組みが徹底されています――。元マッキンゼー・パリ社員で現OECD職員の星歩氏が、著書『世界基準の仕事術』(大和出版)より、マッキンゼーで徹底されている効率化の仕組みを紹介します。

議事録は作成しない…「効率化」が徹底されているマッキンゼー

私が見てきた中で、マッキンゼーでは、非常に質の高い成果物を短期間で納品しなければならないため、効率化を徹底しており、いかなる無駄も排除しようとします。以下の実例を基に、業務効率化の方法を見ていきたいと思います。

少なくとも私の経験上、マッキンゼー・パリオフィスでは、議事録を作成することはほとんどありませんでした。

前職、日本でコンサルタントとして働いていたときは、毎日のように議事録を書いていたのを覚えています。日本ではフォーマットもしっかり決まっており、かつ誰が何を言ったかなど、会議で話し合われたすべての内容を記録します。議事録作成、そしてそのレビューに毎日のように時間を使い、それが目的になってしまっているように感じました。

一方、マッキンゼー・パリオフィスでは、会議のスクリプトのような議事録は決して書きません。要は会議で決まった決定事項と次のアクションがわかれば良いので、それだけを書き留めます。

内容整理よりも「次のアクション」を優先

会議では、それぞれが自分のためにメモを取ります。全員に決定事項を共有する必要がある重要な会議でない限り、わざわざ内容を整理して全体に共有することは基本的にしません。それよりも、次のアクションを取ることを優先し、効率の良い人はもう会議中に次のアクションを取って終わらせてしまう人もいます。そのくらいみんな忙しく、時間がとても貴重です。

もし会議に来られなかった人がいたら、電話でその人に関わる部分の要約と次のアクションを伝え、その人のために特別にメールにまとめたりはしません。書けば書くほど時間が取られてしまうため、口頭での共有で十分な場合は電話で済ませます。

今では、生成AI機能を使って、文字起こし機能(トランスクリプト)をオンにしておけば、自動で議事録を取ることも可能です。そういった自動化できることは、できる限り自動化するのが基本です。

「朝のメールチェック」はなし、小さい用件は電話で

メールも圧倒的に前職より少ないことに気づきました。日本では平均、毎日100件以上のメールが届いていたのを覚えています。まずメールを読むだけで、朝の30分は潰れていました。

少なくとも私の経験上、マッキンゼー・パリオフィスでは、基本的にメールは必要最低限に抑えようとします。わざわざメールに書く必要のないことは、チャットでメッセージを送ったり、あるいは電話でことを済ませます。

特にメールを書く時間の余裕のないパートナーは、小さい用件も電話で済ませていました。パートナーのオフィスで一緒に仕事をしていたとき、彼は電話をし終わると、またすぐ次の人にかけ、横にいる私とはほとんど会話をする暇もないほど、ずっと電話漬けでした。

電話にすることで、メールを書く時間を節約できるだけでなく、返信を待つ時間も省くことができるのです。

もう1つの特徴は、CCに入れる人は最小限にすることです。日本ではあまり関係ない人でも「参考情報(FYI)」という形でみんなに送る傾向があると、少なくとも前職では感じましたが、マッキンゼー・パリオフィスでは本当に関係ある人にしか送らず、後々情報共有が必要になったときにまとめて転送します。そうすることで受信箱が必要のないメールで溢れてしまうことを防いでいます。

これも業務効率化のためで、関係のないメールの内容を読む時間を節約し、重要な業務にのみ専念できるようにつくられた仕組みです。

「会議」も必要最小限

日本でコンサルタントとして働いていたとき、あるプロジェクトの週次会議で、ありとあらゆる人が参加した結果、毎回50人を超える大規模なものに発展したことを覚えています。マネジメント会議でも、「この人を呼ぶなら、あの人も」と、雪だるま式に参加者が増え、プロジェクトにほとんど関係のない人までが会議に参加していました。

一方、少なくとも私の経験上、マッキンゼー・パリオフィスでは、会議は最小限です。本当に必要な人しか参加しません。自分の担当するワークストリームが決まっているため、それ以外のワークストリームの会議には参加しないのが原則です。必要な情報があれば、その都度、担当者に直接確認し、無駄な会議に参加しないことが徹底されていました。

これは、プロジェクトチームとは日常的に同じ空間で仕事をするケースが多かったため、何か質問や必要な情報があってもその場ですぐに解決できたからです。そのため、8割方自分に関係ない話題の会議に参加する必要はないのです。

専用のソフトまで完備…マッキンゼーは「ショートカット」のプロ

私が見てきた中では、マッキンゼーのコンサルタント全員がものすごい速さでスライドをつくっていました。急なクライアントとのミーティングが入っても、30分の準備時間でミーティング用のスライドをつくってしまいます。

なぜここまで高速に仕上げることができるのか。1つには、ショートカットを巧みに使いこなせていることが挙げられます。文字の大きさを変える、箱の位置をそろえるなど、すべてショートカットで対応します。

また、マッキンゼーでは、マッキンゼー専用のパワーポイントとエクセルが存在します。コンサルタントが頻繁に使う動作をマクロで定義し、たとえばこの箱とこの箱を入れ替える、マッキンゼーの表紙を挿入するなど、クリック1つでできてしまいます。

そういった便利なファンクションをアドインで提供しているソフトウェア会社もあり、自分でつくらなくてもこういったアドインを購入してインストールすることも可能です。

個人のノウハウを可視化・データ化した資料も、専用サイトでスムーズに

マッキンゼーでは、「KNOW」というマッキンゼー専用のナレッジ管理のサイトがあり、そこで他のチームが作ったスライドをダウンロードすることができます。

たとえば、「生成AIのユースケース」と検索すればそれに関するスライド資料がたくさん出てきます。最新の資料がわかりやすく整理・管理されており、ドキュメントタイプでも検索することができます。実際にケーススタディと検索すれば、主要なケーススタディが一覧となって提示されます。また、テンプレートも検索でき、「プロジェクト計画」のテンプレートが必要であれば、「テンプレート」と検索すれば、複数のテンプレートが提示されます。

このように成果物のアセット化、ナレッジ管理を徹底化しており、これも効率化の大きな一役を担っています。

効率化を支える徹底的なサポートと分業体制

コンサルタントの業務の1つとして、情報収集やリサーチ、スライドのビジュアル化がありますが、これらの業務は、専門に扱うチームで対応されます。

たとえば「CCN(Client Capabilities Network)」と呼ばれるリサーチを専門にしたチームがあり、「フランスのIT技術者の平均コスト」を知りたければ、CCNチームがデータを準備してくれます。また、毎日のスライドづくりで大変助かるのが、「VG(Visual Graphics)」と呼ばれる、スライドのデザイン改善を専門にしたチーム。どんなに自分のスライドが汚くても、VGチームがマッキンゼースタイルの綺麗なスライドに直してくれます。

このように、コンサルタントが本来の仕事に専念できるようにサポート体制が整えられており、コンサルタントが必ずしも行う必要のない仕事は他のチームが担当する分業体制が確立されています

優先順位はクライアントへの価値と緊急度の「2段階」で決める

コンサルタントの毎日は、まさに「時間との戦い」です。朝から晩までミーティング、クライアントへの報告準備、分析、スライド作成……。気づけば、To-Doリストは常に30項目を超えています。

しかし、すべてを完璧にこなすことは不可能です。だからこそ、何を「今すぐやるべきか」、何を「後回しにできるか」を見極める力が求められます。

よくある場面として、一方では、翌日のクライアント会議の資料作成。もう一方では、上司から新しい分析の依頼が飛んでくる。どちらも重要そうに見える。だが時間は限られている。そんなとき、まずしなければならないのは、「目的に立ち返る」ことです。今、誰のために、何を達成しようとしているのか、どのタスクが、最終的なクライアントの意思決定に一番影響を与えるのか。その問いを自分に投げかけ、全体像を一歩引いて見てみます。

そのうえで、最優先に処理すべきは、「クライアントの成功に最も直結するもの」、さらにその中で「最も緊急性があるもの」です。

こうして、クライアントへの価値と緊急度の2段階で優先順位を決めるのです。逆に、クライアントの成功に直結しない優先度が低いタスクは思い切って後回し、あるいはスコープ外として明確化します。

すべてが重要そうに見え、すべてが緊急に感じられるときほど、目の前の作業から手を付けるのではなく、全体を俯瞰して優先順位を付けてから動く。マッキンゼーのコンサルタントにとって、最大の任務はクライアントの成功に責任も持つこと。だからこそ、優先順位は常に「相手の価値」を基準に決まります。

「生成AI」は積極的に活用

ChatGPTが話題になった当初、社外秘情報を入力しないことを条件に、生成AIの使用を積極的にコンサルタントに薦めていました。その後、社外秘情報も扱えるように、「Lilli」と呼ばれる、社内用の生成AIツールを早々に開発しました。

「Lilli」のすごいところは、社内のナレッジ管理システムと統合されており、回答に使われた社内資料を参照してくれます。

たとえば、次のような活用が可能です。「ライフサイエンスにおける生成AIのユースケースを、〇〇社向けにまとめてください」と指示すると、既存の社内資料や過去のプロジェクト知見をもとに、具体的なユースケースをリスト化して提案。あとは、必要に応じて、クライアント向けに表現や図表を調整するだけで、短時間で完成度の高いアウトプットがつくれるのです。

「Lilli」を使うことで情報収集と初期ドラフト作成の時間を大幅に短縮できます。マッキンゼーでは、このように業務効率化に役立つ新しいツールに関しては積極的に導入、使用を奨励しています

星 歩

元マッキンゼーパリ・現OECD職員