(※写真はイメージです/PIXTA)

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夫の死後、経済的な理由からあらゆる交際を断つようになったSさん(62歳)。退職金代わりの共済金や寡婦年金といった制度上の支えはあったものの、事業の清算や闘病費用で資金は枯渇。「お金がないから」と友人の誘いを断り続けるうちに、周囲から人がいなくなりました。唯一の社会との接点であるパート先でも人間関係に悩み、誰とも本音で話せない日々。お金の余裕のなさが心の余裕を奪い、社会的に孤立していくシニア女性の事例を紹介します。

「ランチ1回1,500円」が命取りになる生活

「友人からのランチの誘いかもしれないと思うと、通知が来てもLINEを開きたくない……。今の私には、1回1,500円のランチ代すら重荷です」

Sさん(62歳)は、郊外の古い賃貸アパートで一人暮らしをしています。3年前に夫を病気で亡くし、それ以来、Sさんの生活は一変しました。自営業だった夫には会社員のような退職金はありませんでしたが、生前に加入していた「小規模企業共済」から死亡退職金代わりとなる共済金が支払われました。

「まとまったお金が入ったときは安堵しました。でも、あっという間にほとんど使い果たしました」

夫の闘病中の自由診療費や、お店をたたむための事業の清算費用などで、ほとんど手元には残らなかったそうです。現在の全財産は、普通預金に残った約30万円のみ。

毎月の収入は「寡婦年金」の約4万円に加え、ドラッグストアでのパート代約9万円を合わせて、手取り約13万円です。会社員の妻がもらえるような手厚い「遺族厚生年金」はなく、自営業の夫の死後に支給される寡婦年金が現在の唯一の命綱なのです。

「65歳までは寡婦年金で月4万円もらえますが、まともな生活はできません」

5万5,000円の家賃を払えば、残り7万5,000円。そこから光熱費や食費、自身の医療費を払えば、手元に残るお金はわずかです。

「生活が苦しいなら、年金を繰り上げ受給すればいい」と思うかもしれませんが、繰り上げ受給すると、現在受け取っている寡婦年金の権利が消滅してしまうのです。将来もらえる年金が一生涯減額されるうえに、目の前の月4万円まで失うことになるため、Sさんは今の状況を続けるしかありません。

そこで、Sさんが生活のために真っ先に削ったのは「交際費」でした。「体調が悪い」「親の介護がある」と、友人からの誘いを断り続けるうちに、連絡は次第に途絶えました。

「本当は会いたいんです。でも、着ていく服もないし、手土産を買う余裕もありません」

かつては夫と国内旅行に行き、友人とランチを楽しんだSさん。しかし今は、スーパーの割引シールが貼られた惣菜をカゴに入れ、暖房費を節約するために日が暮れると早々に布団に入ります。

「お金を使うこと」に抵抗感を覚えるようになったSさんにとって、孤独は出費を防ぐ唯一の手段なのです。

社会との接点であるパートでも孤独な日々

「社会とのつながりを失いたくない」と続けているドラッグストアでのパート勤務も、今のSさんにとっては億劫になっています。

「店長は30代ですが、レジ打ちが少しでも遅れると、お客さんの前でも平気で怒ってきます。辞めたくなるときもありますが、仕事を失えば家賃が払えなくなるので続けるしかありません」

休憩室でも、Sさんは孤立しているそうです。スマホを見ながら一人でおにぎりを食べる毎日。若いスタッフたちの会話には入れず、ただ時間を過ぎるのを待ちます。

「お金がないと生活が苦しいだけでなく、誰かと心を通わせる機会さえも奪われてしまう。本当に寂しいです……」

家に帰っても「ただいま」をいう相手はおらず、テレビの音だけが部屋に響く。Sさんの言葉は、経済的な困窮がもたらす孤独を物語っていました。

単身世帯の半数が「資産130万円以下」の現実

Sさんのように、経済的な理由から人付き合いを避け、結果として社会的に孤立してしまう高齢者は、決して特別な存在ではありません。単身世帯の懐事情は、金融経済教育推進機構(J-FLEC)が発表した「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」のデータで読み取ることができます。

単身世帯における金融資産保有額の「中央値」は「130万円」にとどまりました。平均値は約919万円ですが、これは一部の富裕層が数値を引き上げているためです。実態としては、単身世帯の半数が貯蓄130万円以下という水準で生活していることが推測できます。Sさんの「貯金30万円」という状況は、この中央値をさらに大きく下回っており、いかに厳しい経済状況にあるかが浮き彫りになります。

また、老後の生活費の収入源として「就業による収入」を挙げる人は、2019年の48.2%から、2025年には42.5%へと減少傾向にあります。 これは「働きたくても働けない」、あるいは「働いても十分な収入が得られない」と考える人が増えている可能性を示唆しています。

同調査では、単身世帯の78.2%が老後の生活に「心配である(非常に心配+多少心配)」と回答しており、その最大の理由は「十分な金融資産がないから(65.9%)」でした。

資産形成が間に合わないまま老後を迎え、交際費などの「社会参加コスト」を切り詰めざるを得ない。その結果、孤立を深めていくシニアの姿が、データからも見えてきます。

[参考資料]

金融経済教育推進機構(J-FLEC)「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」