竹内涼真&町田啓太主演で話題の映画『10DANCE』はなぜあんなにも官能的なのか。「迷ったら、どちらがエロいかで決めます」
竹内涼真さんと町田啓太さんがW主演で話題のNetflix映画『10DANCE(テンダンス)』。原作者である漫画家井上佐藤さんにお話を伺っています。実はメディア初顔出しという井上さん。なぜ『FRaUweb』に出てくれたのか、その理由は「愛読者だったから」。
「学生時代はストリート系のファッション誌ばかり読み漁っていました。就職した際に、社会の一般常識やマナーを身につけなくては、と思って選んだのが『FRaU』。当時キャリアや生き方を特集している雑誌はほとんどありませんでした。その時の私にとっても興味のあるテーマばかり。大変お世話になりました」(井上佐藤さん、以下同)
インタビュー前編では、男子寮で育った井上佐藤さんの幼少期や、デビュー当時、出版社で陥ったスランプの話などを伺いました。
続く後編では、『10DANCE』を映画化する際に監督に提示した条件や、現場でのお話、そして作品を描く際のこだわりなどを伺います。
映画監督に伝えた「3つの条件」
デビューから温めてきた『10DANCE』。めでたく連載が決まったものの、編集担当者からは「ダンスシーンを描きすぎるな」「男性を現実的に描かないように」「恋愛がメインで」と、ダメ出しの日々が続き、ついに井上さんはスランプに陥ってしまいます。
「かなりの熱量で描いていたのですが、長い間、編集部から否定され続け、3巻が出る前にPTSDに陥り、漫画が描けなくなってしまって…。ですが『ヤングマガジン』にご縁をいただいて、BL誌だと同じことの繰り返しかもしれないけれど、一般誌なら違うかもしれないとの思いから、連載を再開することができました。その作品がNetflix映画となり、全世界に配信されているのは心底感無量です」
俳優・竹内涼真さんと町田啓太さんは、体を作り上げ、ダンスをマスターし、「本物の鈴木と杉木だ!」と思うほど、役にハマり切っていました。完成していない作品を、映像化するにあたり、原作者として制作サイドに伝えたのはどんなことでしょうか。
「映像化は監督さんや俳優さんの作品でもあるので、ある意味、もう一つの『10DANCE』という作品だと思っています。ただ、全く異なる話になってはいい結果になりません。ですから、3つ条件をお伝えしました。まず、2人は恋愛感情で結ばれる、次にダンスシーンを入れてほしい、最後が官能的な空気感、です。脚本を拝見し、物語やキャラクターに違和感があるところをお伝えし、『10DANCE』という作品名が付いても不自然でないように監督と話し合い、幾度も脚本のやり取りをしました。
竹内さんも町田さんもものすごい練習をして、ダンスを習得されたそうです。何度かお会いしたのですが、町田さんはストイックで杉木信也そのもの。竹内さんは愛されキャラのムードメーカーでオフの時の方が鈴木信也でした」
『モナ・リザ』を見て号泣した体験
『10DANCE』は、圧倒的に完璧で美しいものに触れた人が、眠れる力を爆発させていく物語でもあります。鈴木と杉木が出会い、10DANCEを目指して練習を重ね、お互いの才能を認め合った時、人生が拡大し深化していきました。井上さんご自身にそういう経験はありますか?
「なんでしょうか…。あ、25年以上前に、フランスのルーブル美術館で『モナ・リザ』を観たことです。あれを観た瞬間に、絵の前で大号泣し、動けなくなるほど感動したのです。これだけ心を動かすのだから、そこには描いた人の魂が生きている。当時、ルーブル美術館は人も少なく、絵と対峙することができました。『モナ・リザ』はたびたび贋作疑惑の上がる作品ですが、本物か偽物かではなく、いま見ているこの絵から非常に強いパワーを感じ、それこそ別の場所へ連れて行かれるような不思議な魅力に溢れていました。もしかすると、この経験が作中のキャラクターに出ているのかもしれません。
当時、バックパックの旅をしており、私は都市よりも郊外や農村を巡っていました。路地裏にあった現地の人の生活、貧しい街で見かけた人々の笑顔、匂い、光など、当時見たことが漫画の表現につながっています」
「エロいか、エロくないか」で線を選ぶ
実体験があるからこそのリアリティ。また鈴木と杉木のダンスシーンは匂い立つようにセクシーです。大男2人、生々しい肉体性を伴った官能というか、誌面から匂い立つような「エロさ」がある。漫画はどのように描いているのでしょうか。
「自分の深いところに潜るようにして描いています。外部を遮断し、精神的に没入しています。『エロさ』はとても大切にしており、さっと引いた線や打った点を『エロいか・エロくないか』を見極め、そこを中心に絵を仕上げていきます。できることなら『キャラクターの皮膚の上の湿度や内側の熱まで描き上げる』という強い想いを込めて描いています。
このエロさのインスピレーションは、杉浦日向子さんの漫画作品であることもあれば、『カサブランカ』(1942年)や『太陽がいっぱい』(1960年)などの古典映画だったりします。直感的なインスピレーションと、五感を、過去の経験を総動員して仕上げているので、描いた後は抜け殻のようになっています」
『10DANCE』はヨーロッパの貴族社会が描かれていたり、クラシカルで壮麗な背景が多いですが、映画の影響もあったとは。
「これも母の影響なのですが、母は美しいものが好きだった父の影響で、そういう映画がいつもお茶の間で流れていた。昔は再放送も多かったですし。他にカトリーヌ・ドヌーヴ(フランスの俳優)の出演作品、ゴダール(フランスの映画監督)、ヴィスコンティ(イタリアの映画監督)なども観ていました。新しい作品よりも、舞台をしっかり作り込んである古典の方が、インスピレーションをくれます。音楽については3歳まで私はアニメや子ども向けテレビの歌ではなく、ジャズやブルース、ムードミュージックで育ちました。生まれて初めて買ったCDはビリー・ホリデイでした。また連載の各タイトルは音楽の曲名になっていて、これも父母の影響。ジャズ、ブルース、ムードミュージックは競技ダンス界においていまだによく使われる音楽で、漫画の各タイトルを辿ってもらうと、ダンスの内容を想像しやすくなっています」
物語は「メインディッシュ」へ
最新刊の8巻は、離れていた2つの魂が再び出会い、共に世界を目指すところで終わっています。連載開始から15年、ひたすら2人のラブシーンを待っていたファンも多いと思います。それ以上に官能的なダンスシーンを見てうっとりしていますが。
「そうですよね(笑)。今後の展開としては、鈴木と杉木が大会に向かう姿を描いていきます。その過程には、もちろんドラマもラブもあります。これからメインディッシュと、デザートをお出しできると思います」
スタイリッシュなファッションに身を包み、言葉を丁寧に選びながら話す井上佐藤さんに、『10DANCE』の魅力の答え合わせをしていただいたような時間でした。井上さんの鋭い感覚から生まれる物語は、どんな結末になるのか。新たな展開が楽しみです。
◇「「コイツが嫌い」最悪な状況から始まる男性の激しい愛。ダンスを通し、才能と肉体がぶつかり求めあう『10DANCE』の魅力」漫画試し読みとともに『10DANCE』の魅力を深掘りしています。
撮影/安田美優(講談社写真部) 構成/笹本絵里(FRaUweb)
【マンガ試し読み】「コイツが嫌い」最悪な状況から始まる男性の激しい愛。ダンスを通し、才能と肉体がぶつかり求めあう『10DANCE』の魅力
