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「すぐ返すつもりだった」。その場の危機をやり過ごすために借りた数万円〜数十万円のお金。それがきっかけで、家族のために買った家まで失ってしまうことに――。実は、50代の自己破産は年々増加しています。背景の一つとして住宅ローンと教育費の二重負担が考えられ、「子どもに奨学金の返済を負わせたくない」という親心が見て取れます。今回は、教育費の不足分を補う目的でカードローンを利用して自己破産に陥った会社員の事例から、家計管理の重要性と自己破産後の家計再建について、CFPの松田聡子氏が解説します。

短期の「つなぎ」のつもりが…自転車操業の「カードローン地獄」に

柳瀬英俊さん(仮名・52歳)は、都内のメーカーに勤める会社員です。年収は700万円。妻の美恵子さん(51歳)はパート勤務で年収100万円。長男(21歳)は私立大学の4年生、次男(19歳)は今春、私立大学の1年生になりました。

英俊さんが住宅を購入したのは43歳のときで、4,500万円の住宅ローンを組みました。毎月の返済額は15万円、ボーナス時には26万円の20年払いです。

英俊さんは子どもにはなるべく奨学金を利用させないで、勉強に集中してほしいと考えていました。そこで、長男が私立大学に進学する際に、教育ローンを申し込みました。しかし、住宅ローンと合算した返済負担が過大なことを理由に、否決されてしまったのです。

「あれは想定外でした。ですが、どうしても入学金と前期の授業料で100万円近く必要でした。貯金だけでは足りず支払期限も迫っていたため、カードローンで30万円借りることに……。ですが、『その場限りのつなぎ』のつもりだったんです」

ところが、毎月の住宅ローン返済に加えて後期の授業料を準備しなければならず、家計はギリギリ。カードローンの返済を含めると、生活費が足りなくなりました。

「食費や光熱費をできる限り削っても、月末になるとお金が足りない。仕方なく、別のカードローンで30万円借りたんです。『これで何とか乗り切れる』と思いました」

しかし、借金は減るどころか増えていきました。カードローンの金利は年15%前後。借りたお金を返済するために、また別のカードローンを利用する。そんな自転車操業が始まりました。

「気づいたら、5社から合計300万円以上借りていました。毎月の返済額だけで8万円。もう、どうにもならない」

長男の卒業まであと1年というところで次男も大学に入学。子ども2人の今年度の学費を払い終えたタイミングで英俊さんは弁護士に相談し、自己破産を選択することになったのです。

50代の自己破産が最多…教育費を「聖域」にする危険性

日本弁護士連合会の「2023年破産事件及び個人再生事件記録調査」によると、自己破産申立人の年齢別割合で最も多いのが50代で、全体の25.63%を占めています。英俊さんのように、住宅ローンと教育費の重なる時期に家計が破綻するケースは少なくありません。

出典:日本弁護士連合会「2023年破産事件及び個人再生事件記録調査」

家計管理の原則は単純です。収入よりも支出が多ければ、いずれ破綻します。しかし、多くの親は「教育費だけは削れない」と考えてしまいがちです。

英俊さんの年間232万円(ボーナス払い含む)の住宅ローンは、世帯年収800万円の約30%に相当します。一般的に、住宅ローンの返済額は年収の25%以内が安全圏とされていますが、英俊さんはすでにこれを超えていました。

ここに子ども2人分の私立大学の学費年間200万円が加わると、住宅と教育だけで年間432万円。世帯年収の54%です。税金や社会保険料を差し引いた可処分所得で考えると、実に70%近くが住宅と教育に消えてしまう計算になります。長男が卒業して次男だけの教育費負担となっても、住宅ローンと学費の両立は簡単ではないでしょう。

さらに、カードローンの金利の高さが追い打ちをかけます。カードローンの金利は年15%前後が一般的です。住宅ローンの金利が1%前後であることを考えると、その差は歴然です。たとえば、30万円を年利15%で借りて毎月2万円ずつ返済した場合、完済まで約17ヵ月かかり、利息だけで約3.5万円を支払うことになります。

返済のために再び借りる自転車操業に陥ると、利息負担は雪だるま式に増えていきます。これがカードローンの怖さです。また、「自己破産」と聞くと、数千万円の借金を抱えた一部の人だけの話に思いがちです。しかし実際には、英俊さんのケースのように、300万円〜600万円などの借金で自己破産する人は珍しくありません。

教育費を「聖域」として扱い、そのためにカードローンという高金利の借金を重ねることは、結果的に家族全体を苦しめることになるのです。

自己破産後も人生は続く…生活再建のポイント

英俊さんは、教育ローンを利用しようと考える前に、教育費と住居費の両立が可能かどうかを考えるべきでした。冷静に考えれば、柳瀬家の家計で子ども2人を私立大学に進学させるのは難しいとわかったはずです。

子どもの進学を考えるのであれば、住宅購入時も教育費を見据えた物件予算や資金計画が必要でした。また、子どもに事情を伝えたうえで最初から奨学金利用を検討していれば、こうした結果にはならなかったかもしれません。​

自己破産という結果になった柳瀬さんですが、それで人生が終わりというわけではありません。その後、生活再建をすることになりますが、その際のポイントをまとめました。

(1)自己破産をしても仕事は継続できる
まず、勤務先の会社が自己破産を理由に解雇することは、法律上認められていません。そのため、英俊さんも会社員としての仕事は継続できます。ただし、一部の職種では資格が一時的に制限されますが、破産手続きが終了し「復権」すれば、元の仕事に戻れます。

(2)家は手放して賃貸暮らしに
自己破産を選択すると、自宅を手放さなければなりません。住宅を売却しても住宅ローンの残債が残る場合、その残債も自己破産によって免除されます。柳瀬家は今後、賃貸住宅で再スタートを切ることになります。毎月15万円の住宅ローン返済がなくなれば、家賃を払っても家計には余裕が生まれるでしょう。たとえば家賃12万円の賃貸に住めば、年間100万円近い負担軽減になります。

(3)教育ローンではなく奨学金が選択肢に
教育費については、毎月の借金返済がなくなれば、その分を次男の学費に充てることが可能です。ただし、自己破産後は信用情報に記録されるため、教育ローンの借り入れはほぼできません。次男には奨学金制度を利用してもらい、親は現金で払える範囲で支援するという形が現実的でしょう。

今後同じ過ちを繰り返さないために

「自己破産をする前は、常にお金のことで頭がいっぱい。妻とは険悪になり、息子たちも詳細は知らなかったでしょうが、お金の問題が起きていることは感づいていたようです。結果的にマイホームも手放すことになり、失ったものは大きかった。二度と繰り返さないようにしなければ――」

自己破産後は改めて家計を見直し、毎月の貯蓄額を設定することが重要です。次男の大学卒業後は教育費負担がなくなるため、その分を老後資金に回せるでしょう。

自己破産から5〜10年経過すると、信用情報から記録が消え、再び借り入れができるようになります。しかし、一度破綻した家計を立て直すには、「借りない生活」の習慣化が不可欠です。本当に必要なものだけを、手元にある現金で買う。この基本を守ることで、再び借金に苦しむことを避けられます。

柳瀬家の事例は、決して他人事ではありません。住宅ローンと教育費の重なる時期は、多くの家庭にとって最も家計が厳しくなるタイミングです。住宅購入時には、子どもの教育費ピーク時の家計をシミュレーションしておくこと。

そして「あと少しの辛抱」と思ってカードローンに手を出す前に、まずは家計全体を見直し、必要であれば早めに専門家に相談することが、破綻を防ぐ最善の方法です。

松田聡子
 CFP®