NASA=アメリカ航空宇宙局は2025年9月10日付で、NASAの火星探査車「Perseverance(パーシビアランス)」が2024年にサンプルを採取した岩石に、生物の活動に由来する可能性もある鉱物が含まれていることが確認されたとする研究成果を発表しました。


データの分析を行ったのはJoel Hurowitzさん(ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校)たちの研究チームで、研究成果をまとめた論文は同日付で「ネイチャー」に掲載されています。


【▲ 2024年7月に公開されたNASAの火星探査車「Perseverance」のセルフィー。画像中央付近の地表に今回分析された岩石「Cheyava Falls(チェヤバ・フォールズ)」が写っている(Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS)】

見つかった鉱物は非生物的なプロセスでも生成され得るものですが、Perseveranceに搭載されている機器を使ったその場での分析には限界があります。生物に由来するのか、それともしないのかを最終的に判断するには、採取されたサンプルを地球で分析するために持ち帰る「サンプルリターン」が欠かせません。


NASAはESA=ヨーロッパ宇宙機関とともに火星サンプルリターン(Mars Sample Return: MSR)計画を進めています。Perseveranceはまさにその一環として2021年2月に火星のJezero(ジェゼロ)クレーターへ到着し、発表時点で27本の岩石コアをサンプルとして採取しました。しかし、NASAはMSRのコストの高さと期間の長さを理由に、サンプルの回収方法を再検討しています。


2025年1月に発足した第2次トランプ政権によるNASAの科学分野の予算削減の影響を受けて、米欧のMSRは中止される可能性もあり、Perseveranceが採取したサンプルを地球の設備で分析する機会が訪れるかどうかは不透明な状況です。


2024年7月発見の興味深い特徴を持つ岩石の分析結果

Hurowitzさんたちが分析したのは、「Cheyava Falls(チェヤバ・フォールズ)」と呼ばれる、大きさ約1m×0.6mの岩石のデータです。


Cheyava FallsはPerseveranceが2024年7月に発見した岩石で、「Bright Angel(ブライト・エンジェル)層」と呼ばれる堆積層の探査中に見つかりました。Bright Angel層は35億年以上前にJezeroクレーターへ流れ込んだ水によって削られてできたと考えられている、幅約400mの「Neretva Vallis(ネレトバ渓谷)」にあります。


PerseveranceはCheyava Fallsに対して蛍光X線分析装置「PIXL」や紫外線ラマン分光装置「SHERLOC」を用いたデータの取得を実施するとともに、「Sapphire Canyon(サファイア・キャニオン)」と名付けられている25番目のサンプル(岩石コアとしては22番目)の採取を行いました。


【▲ 左が岩石「Cheyava Falls(チェヤバ・フォールズ)」。コアサンプルを採取した後の黒い穴と、分析を行うために表面を研磨した後の白い部分が見えている(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS)】
【▲ 岩石「Cheyava Falls(チェヤバ・フォールズ)」から採取された直後のコアサンプルの様子。「Sapphire Canyon(サファイア・キャニオン)」と名付けられたこのサンプルは、容器に密封された状態でPerseveranceに保管されている(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS)】

NASAによると、Cheyava Fallsが発見された当時の時点で、Bright Angel層は粘土とシルト(沈泥)で構成されていることがわかっていました。地球では、粘土やシルトは微生物の痕跡が残りやすいことで知られています。


また、Bright Angel層には有機物・硫黄・酸化鉄・リンが豊富に含まれることもわかっていて、Hurowitzさんは「微生物の代謝における豊富なエネルギー源だった可能性があります」とコメントしています。


「火星の生命」の証拠かもしれない岩石を「パーサヴィアランス」が発見(2024年8月4日)

つまり、微生物の痕跡が残りやすい地層に、微生物の活動を支え得る物質が含まれていたことになります。こうした理由で、Cheyava Fallsは研究者の注目を集めることになりました。


【▲ Perseveranceの紫外線ラマン分光装置「SHERLOC」に組み込まれているカメラ「WATSON」で撮影された、岩石「Cheyava Falls(チェヤバ・フォールズ)」の表面の様子。“ヒョウ柄”と表現される斑点が数多く見えている(Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS)】

特に発見当時から注目されていたのは、Cheyava Fallsの露出した表面にみられる、ヒョウ柄の斑点とも表現される直径0.2〜1mmの多数の斑点です。研究チームが分析した結果、斑点にはビビアナイト(vivianite、含水リン酸塩鉱物の一種。藍鉄鉱)とグレイジャイト(greigite、硫化鉄の一種)が含まれている可能性が示されました。


NASAによれば、ビビアナイトは地球では堆積層・泥炭地・腐敗した有機物の周囲によく見られる鉱物で、グレイジャイトは微生物によって生成されることもあります。この組み合わせは堆積物と有機物の間で起こる反応(電子移動反応)によって形成されたことが考えられ、微生物の痕跡である可能性もあるといいます。


一方で、これらの鉱物は持続的な高温や酸性の環境の下などで、非生物的なプロセスによって生成される場合もあるといいます。ただ、Bright Angel層の岩石には高温や酸性の環境下に置かれた証拠がみられないことから、研究チームは「潜在的なバイオシグネチャー(生命存在の兆候)として検討に値する」と指摘しています。


別の言い方をすれば、今回の研究成果は“ヒョウ柄”斑点があるCheyava Fallsについて、火星での生命探査という観点から実際に興味深いものである可能性を示した、ということになります。


また、Bright Angel層は35億年以上前という比較的若い堆積層であることも注目されています。火星ではこれまで考えられていたよりも後の時代まで生命が生息できた可能性があり、より古い時代の岩石にも生命の兆候が眠っている可能性が示唆されるからです。


とはいえ、PerseveranceはMSR(火星サンプルリターン)計画を念頭に設計されたため、搭載されている科学機器の能力には限界があります。論文でも述べられているように、見つかった鉱物の意味を理解する最良の方法は、Cheyava Fallsから採取された岩石コア(Sapphire Canyon)を地球の設備で分析することだと言えます。


火星サンプルリターンは中国も名乗り 欧米の計画は先行き不透明

なお、今回の研究成果について述べたプレスリリースの冒頭で、2025年7月に就任したNASAのSean Duffy(ショーン・ダフィー)長官代行は、「トランプ大統領の最初の任期中に打ち上げられたPerseveranceによる今回の発見は、火星での生命発見にこれまでで最も近付いたものです」とコメントしています(※Perseveranceの打ち上げは第1次トランプ政権下の2020年7月に実施)。


しかし、冒頭でも言及したように、NASAとESAによるMSRはサンプルを地球へ持ち帰るに至るかどうかが不透明です。第2次トランプ政権はNASAの科学分野の予算を削減する姿勢を見せていて、Duffy氏が長官代行に就任する前の2025年5月には、予算教書を受けたNASAがMSR計画などを終了する可能性にも言及していました。


その一方で、火星サンプルリターンを巡っては中国も名乗りを上げています。CNSA=中国国家航天局の2025年3月の発表によれば、2028年頃に打ち上げが予定されている火星探査ミッション「天問3号(Tianwen-3)」は火星表面からのサンプルリターンが目的で、サンプルの地球到着は2030年頃の予定とされています。


2025年9月10日に開催されたメディア向けテレカンファレンスの席上、Duffy長官代行はMSRについて、もっと良い方法があると信じており、より早く・より安くできると考えていると発言しています。人類史上初の火星サンプルリターンを成し遂げるのはどこなのか、そして持ち帰られたサンプルから何が見つかるのか、今後の進展に注目です。


 


※一部誤字を修正いたしました(2025年9月14日)


文・編集/sorae編集部


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Hurowitz et al. - Redox-driven mineral and organic associations in Jezero Crater, Mars (Nature)