福川伸次・元通産事務次官(東洋大学総長)

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かつて世界のGDPの16%を占めた日本の力は今、6%前後に低下。この現実どう受け止めるか─。元通産事務次官で東洋大学総長を務める福川伸次氏は「平成の停滞の30年間で、イノベーション力に後れをとった」ことを指摘。この現実を反省し、国のビジョンを作り直すことが必要と訴える。具体的には「5GやAIを活用し、文化性を伴うイノベーション」で世界での存在感を高めることが、日本再生のカギとなると考える。
大平正芳元首相は生前、「『ああしてあげる、こうしてあげる』というのは真の政治ではない。国民にやる気を起こさせることが真の政治だ」と言っていたという。このメッセージは今、国民にどう響くか--。
※このインタビューは2021年8月20日に実施

最悪を想定し
最善を目指す

 ─ 福川さんは通産省時代から、日本の産業振興に努めてきました。近年の日本の低迷をどう見ていますか?  

 福川 世の常ですが、政治が人気取り政策に走ると社会は停滞するということだと思います。
『ローマの歴史』を書いたモンタネッリは「魚は頭から腐る」と言いました。わたしは「本当に魚は頭から腐るのか」、魚河岸に聞きに行ったことがあります。

 すると、「頭からも腐るが、はらわたからも腐る。エラからも腐る」という返事でした。

 要するに、社会は政治からも、経済からも、行政からも腐る可能性があるということです。

 ─ リーダーからも、国民から腐ることもあると。

 福川 そうです。政治が駄目になれば経済が停滞するし、経済が駄目になれば、政治も駄目になる。逆に、政治だけ良くなればすべて良くなるというわけでもない。

 ─ リーダー論だけでなく、自分たちの問題として取り組まなければいけないと。

 福川 ええ。そう考えると、日本は今、政治も行政も民間も社会も全部改革が迫られている。新しい考えで立ち直るという努力をしなければ、日本は立ち直れないということを意味します。

 ─ 社会全体の仕組み、国のあり方を考え直す。そのために必要なことは何ですか?

 福川 意識改革だと思います。

 まず、いかに情勢を広く分析し、かつ長期に亘って展望するか。早め、早めに手を打つということです。

 新型コロナウイルスが流行した当初、都市のロックダウンを徹底した中国が武漢で野戦病院を作りました。「そこまでしなければいけないのか」と思った人は多いと思います。

 けれども、あの病気はどういう病気で最悪の事態にどうなるのか。良い悪いは別として、人間安全保障のために、最悪の事態を考えて想定することが必要です。

 わたしは官邸にいた時代、石油危機を経験しました。外には一切言っていませんが、最悪の事態を想定していました。本当に石油がなくなったらどうするか。これはもう配給制、切符制にしなければいかんと。

 ─ そこまで考えていた?

 福川 ええ。切符の印刷の準備もしました。一般の印刷所に頼むと機密が洩れるので、刑務所で印刷する準備をしました。

 当時もトイレットペーパー騒ぎや洗剤騒ぎが起きましたが、最悪の事態を考えて、早め早めに準備するのが行政の仕事です。コロナでも、本来、それをしなければいけない。


 ─ それができていない。

 福川 残念ながらそうですね。その意味で、私はこれから「第三の改革」が必要だと思っています。

「第一の改革」は黒船の襲来と明治維新、「第二の改革」は第二次世界大戦後の国づくり、「第三の改革」は平成以降の停滞の30年をどう克服するかです。